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HPLC移動相の脱気は必要?脱気方法や注意点を解説!

2022.11.11 (Fri)

  • HPLC
  • 移動相

記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

解説

HPLCに接続している移動相の脱気は、実施していますか?脱気作業は面倒に感じることもあり、必要なのかどうか気になりますよね。

そこでこの記事では、HPLC移動相の脱気の意義について紹介し、脱気方法も詳しく解説します。これまで発生していたHPLCトラブルは、もしかすると移動相の脱気によるものかもしれませんよ。注意点もお伝えするので、HPLCの移動相を調製するなら、要チェックです。

分析計測ジャーナルでは、HPLCの移動相に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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移動相の脱気は必要?気泡が起こすトラブル

HPLC移動相の脱気は、必要です。移動相の脱気が不十分で起こるHPLCトラブルと、その原因を4つご紹介します。該当する異常が見られた場合、移動相の脱気不十分を疑って対処してみてくださいね。

  • 送液不良
  • 保持時間の変化
  • ピーク形状の悪化
  • ゴーズトピークの出現

送液不良

移動相の脱気が不十分で気泡が発生すると、ラインに気泡が詰まって移動相が流れません。移動相が流れているラインを目視で確認すると、気泡が見つかる場合があります。また圧力をチェックすると、通常よりも低い圧力になっているのではないでしょうか。

送液不良の対処法は、しばらく送液を続けて気泡が動けば流れる場合もありますが、カラムに気泡が入ると壊れるのでカラムは必ず外してください。またどうしても流れない場合は、下記図のようにドレンから呼び水をすると流れますよ。

呼び水対応

保持時間の変化

ピークの保持時間がいつもより後ろになったら、ポンプ内に気泡が入っている可能性があります。ポンプに気泡が入ると、流速が変化し保持時間が遅くなるのです。

ポンプ内に気泡が入ると、圧力が不安定でいつもより差が大きくなることも。カラムを外してしばらく送液を続けるか、呼び水をして圧力が一定になるまで待ちましょう。

ピーク形状の悪化

ピーク形状の悪化は、カラム内に気泡が入り分離がうまくできていない場合が考えられます。ピーク前がブロードなリーディングや、後ろがブロードなテーリング状態のピークが得られたら、カラムの気泡を疑ってみてください。

流速を落としてしばらく送液していると、カラム内の気泡は排出されます。気泡が入ったまま分析を終了し、カラムをそのままにしてしまうとカラムが壊れるので、ピーク形状をしっかり確認してから分析を終わらせてくださいね。

HPLCのピーク形状にお悩みなら、こちらの記事もおすすめです。

HPLCのピークがおかしい!6個のトラブル別に原因と対処法を解説

ゴーストピークの出現

ゴーストピーク

上の図のような、スパイク状やノコギリ状のゴーストピークが出ているときは、検出器に気泡が入っている可能性があります。送液を止めてこのようなゴーストピークが収まれば、検出器の気泡を疑ってみてください。しばらく送液を続けると、検出器から気泡は追い出されます。

HPLCピークにゴーストピークが出た場合や、ベースラインが不安定なときは、こちらの記事も参考にしてみてください。

HPLCのベースラインが不安定!5つのトラブルと解決策

気泡だけが原因ではない!分析別の脱気不十分な例

HPLC移動相の脱気が不十分であると、気泡以外に溶存酸素も移動相中に多く含まれます。特に蛍光検出器や示差屈折率検出器を使う場合は、移動相中の溶存酸素にも要注意です。溶存酸素が分析に影響したトラブルを詳しくご紹介します。

蛍光検出器でのトラブル

蛍光検出器(RF)で分析している場合、移動相中に溶存酸素があると蛍光強度が低下し通常よりも小さなピークが得られます。ナフタレンやトコフェロールなどは溶存酸素の影響で、レスポンスが小さくなりやすいです。ナフタレンは溶存酸素があると、通常の約1/4のピーク高さしか得られないこともあります。

参考:㈱島津製作所製 移動相の脱気

示差屈折率検出器でのトラブル

示差屈折率検出器(RI)を使って分析している際、ベースラインがドリフトしたり、うねったりするときは、移動相の溶存酸素が影響しているかもしれません。RI検出器のフローセルは、リファレンス側とサンプル側の2つのセルからできています。リファレンス側は、セル内の状態が安定すると送液を止めて、サンプル側との屈折率を検出します。そのためリファレンスとサンプルの溶存酸素量や空気の溶解量が異なると、屈折率が変化するのです。

テトラヒドロフラン(THF)でグラジエントかけるなら注意

UV検出器を用いて、HPLC移動相にテトラヒドロフラン(THF)が入ったものを使用している場合は注意が必要です。脱気が不十分で溶存酸素が多い状態で、グラジエントをかけるとベースラインが上がります。移動相にTHFを使っている場合に溶存酸素が入っていると、254nmの長波長でもベースラインの上昇がみられることも。目的成分の溶出時間がグラジエントがかかっている間にあるなら、十分脱気をするか分析条件の変更をおすすめします。

HPLC移動相のさまざまな脱気方法

方法

HPLCの移動相は、脱気が欠かせません。しかし脱気方法はさまざまで、どの方法が適しているのか判断に悩みますよね。そこでよく使われている脱気方法を4つ挙げて、それぞれの特徴をお伝えします。

減圧脱気

減圧脱気は、移動相を入れた瓶にアスピレーターを接続し減圧して移動相中の気泡を出す方法です。減圧中はときどき瓶を揺らして、気泡が出なくなるまで続けます。時間は5分~15分が目安。簡単な方法でコストも低いですが、時間が長くなりすぎると有機溶媒のみ気化し、移動相組成が変化します。そのため同じ分析条件間の脱気は、時間を一定にして移動相の組成変化も同一にしておきましょう。

超音波

超音波による脱気は、水を張った超音波装置に移動相を入れた瓶を入れるだけです。瓶の蓋はしっかり閉めずに緩めて空気の出口を作っておきましょう。蓋がゆるすぎると超音波の振動で落ち、移動相中に水が跳ねて入ることもあるので、閉め過ぎず緩め過ぎず適度な力加減が必要です。時間は5分~10分程度が目安です。とても簡単で安全な方法ですが、脱気の能力は劣ります。

減圧+超音波

アスピレーターで減圧しながら移動相瓶を超音波装置に入れると、短時間でしっかり脱気ができます。しかし減圧のしすぎや長時間の脱気で、移動相組成が変化します。減圧が完了して1~2分で脱気は終了するので、時間のかけすぎには注意しましょう。

ヘリウムパージ

移動相にヘリウムガスを送り、移動相中の空気をヘリウムに置換する方法がヘリウムパージです。最も脱気ができる方法で、空気の再溶解も起こりにくい特徴があります。しかしランニングコストが高い点がデメリット。気泡や溶存酸素に敏感な分析のみ、ヘリウムパージによる脱気がおすすめです。

HPLC移動相脱気の注意点

HPLCの移動相脱気をおこなう際に、注意すべき点が3つあります。脱気をおこなってもポイントを守らなければ十分に脱気ができなかったり、移動相の状態が変化したりするのでよく読んで実施してくださいね。

脱気は使用直前に

HPLCの移動相脱気は、使用直前におこなってください。脱気してから使用するまでに時間があると、移動相が空気を再び取り込んでしまいます。またHPLCに接続しているときも、できるだけ空気の入口は小さくしておきましょう。

溶媒瓶は口の広いものを

移動相を入れる溶媒瓶は口の広いものを使用すると、脱気するときに空気が早く出ていくのでおすすめです。しかし口が広いということは空気の取り込み量も多くなるので、脱気後はしっかり蓋を閉めてくださいね。

固定した分析ではいつも同じ方法と時間で

固定した分析法での脱気は、いつも同じ方法で一定時間実施してください。脱気の方法によって、溶存空気量が異なります。また減圧を用いた方法では、有機溶媒が気化し移動相組成が変化することもあります。異なる方法や時間で脱気すると、移動相の状態が変わって測定結果に影響が出ることもありますよ。

脱気装置をHPLCに導入するとより安心

HPLC移動相の脱気操作をおこなっても、HPLCに接続している間に空気を取り込んで分析に影響が出ることがあります。気泡や溶存酸素が影響しやすい分析では、脱気装置を機器に導入することもできます。機器に取り付ける脱気装置は、「脱気ユニット」や「デガッサー」と呼ばれ、HPLC機器メーカーから販売されています。

脱気ユニットは、特殊な樹脂でできたチューブを減圧条件にし、移動相が通過する際に膜から空気が排出される仕組みです。気泡が発生しやすいグラジエント条件で、特に脱気ユニットは活躍します。しかし脱気能力は、流速が速くなるほど落ちるデメリットがあります。

気泡が発生しやすい移動相や、溶存酸素が影響する分析では、オンラインで脱気ができる脱気ユニットを導入しておくと安心ですよ。

まとめ

HPLC移動相の脱気について、ご紹介しました。HPLCの脱気は分析トラブルを防ぐために必要な作業です。移動相を調製したら、機器接続前に必ず脱気をおこないましょう。よく使われている移動相の脱気方法は4つあります。

  • 減圧脱気
  • 超音波
  • 減圧+超音波
  • ヘリウムパージ

操作のしやすさや、求める脱気の具合に応じて適切な方法で脱気してくださいね。またHPLC機器のオンラインに脱気装置を導入すると、長時間の分析や繊細な分析で有用です。

ジャーナルでは、HPLC移動相の脱気についての相談や、脱気ユニットのご質問を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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分析計測ジャーナルライターバッハ

ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。

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