熱分析は、物質の熱に対する性質を把握するのに重要な測定です。物質の基礎研究段階はもちろん、製品の出荷や受け入れ試験など品質管理でも使われています。低分子から高分子まで、さまざまな分野で利用されている熱分析ですが、測定機器を出しているメーカーは多く、どのメーカーを選べばいいのか悩ましいですよね。
そこでこの記事では、熱分析装置を出している人気メーカーを紹介します。さらに熱分析の原理や方法、機器の価格までお伝えするので、熱分析装置の購入を検討しているなら参考にしてみてください。分析計測ジャーナルでは、熱分析に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください
熱分析装置を出しているメーカー紹介!おすすめ6社
熱分析装置を製造販売しているメーカーは、世界各国にたくさんあります。今回はおすすめのメーカー6社をご紹介します。どのメーカーも高い品質で評判があります。医薬品業界や材料業界など、幅広い分野で活躍している熱分析機器を出している会社を厳選したので、メーカー選びの参考にしてみてください。
㈱島津製作所
㈱島津製作所は日本の老舗分析機器メーカーで、1958年に国産で初の熱分析装置を開発しました。製品ラインナップは、DSC・TG-DTA・TMAの3シリーズを展開。日本メーカーなので、操作は日本語で使いやすいと評判があります。また故障などのトラブル対応も迅速です。現在は新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止されていますが、以前は初心者に向けた講習会が開催されていました。またSHIMADZU Webinarでは、WEBセミナー形式で熱分析に関する内容を学習できます。㈱島津製作所はデータ集や基礎情報も充実しているので、初めての熱分析にはぴったりのメーカーですよ。
㈱日立ハイテクサイエンス
㈱日立ハイテクサイエンスは日立グループの会社で、分析計測装置の開発・製造・販売をしています。熱分析装置は、大きく分けてDSC・TG-DSC・TMA・DMAの4つの測定ができる機器があります。さらに試料観察オプションReal View®も導入すれば、温度変化による試料の状態をカメラで観察できます。工業分野における材料分析には、㈱日立ハイテクサイエンスの熱分析装置はいかがでしょうか。
㈱パーキンエルマージャパン
㈱パーキンエルマージャパンは、アメリカのPerkinRlmer,Incの日本法人企業です。熱分析の5種類全て(DSC・TG-DTA・TG・TMA・DMA)をカバーした製品がそろいます。とくにDSC8500は750℃/minの高速昇温が可能で、これまでにとらえられなかった物質の特性も把握できます。特徴的な機器が自慢の㈱パーキンエルマージャパンは、材料の研究段階や2台目の熱分析装置の導入の際に検討してみてください。
メトラー・トレド㈱
メトラー・トレド㈱は、アメリカの分析機器メーカーです。熱分析装置は、全5分析をカバーする製品ラインナップがあります。Flash DSC 2+は超高速DSCで、これまでのDSCでは解析が難しかった再組織化のプロセス分析が可能です。また熱分析装置の追加オプションも充実しており、TG-MSやTG-FTIRなどとして使えるアタッチメントもあります。熱分析を通じてさらに広い物性を把握したいなら、メトラー・トレド㈱はいかがでしょうか。
ネッチ・ジャパン㈱
ネッチ・ジャパン㈱は、ドイツのNETZSCH社製の製品を製造販売する日本企業です。ネッチは熱分析に特化したスペシャルカンパニーで、5種類の熱分析装置や発生ガス分析(EGA)、熱膨張計(DIL)などもあります。高温示差走査熱量計(DSC 404 F1 Pegasus)は、DSCでは1400℃、DTAは2000℃までの高温領域の分析が可能です。これまでの機器では測定できなかった高温での熱分析をするなら、熱分析に特化したネッチ・ジャパン㈱を検討してみましょう。
参考:ネッチ・ジャパン㈱ DSC 404 F1 Pegasus
ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン㈱
ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン㈱は、TA Instrumentsの日本法人です。熱分析装置以外に、レオメーターやマイクロカロリーメーターなど、物質特性の把握に必要な分析機器が揃っています。熱分析装置は、DSC・TG・TG-DTAなどがあります。特徴的なデザインで分析機器には珍しい、黒とブロンズのボディが目を引くデザインです。スタイリッシュな機器を探しているなら、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン㈱はいかがでしょうか。
熱分析とは?熱分析装置5つの測定方法
熱分析とは、物質の熱に対する物性を評価するものです。物質に温度をかけたり冷却したりして、各温度における物質の物理的性質の変化を測定します。測定できる物理的性質は、機器の種類によって異なります。熱分析の種類は、大きく分けて以下の5つです。
- 示差熱分析(DTA)
- 示差走査熱量分析(DSC)
- 熱重量分析(TG)
- 熱機械分析(TMA)
- 動的粘弾性分析(DMA)
医薬品に適用される日本薬局方では5つの方法のうち、DTA・DSC・TGが収載されています。工業製品では日本工業規格(JISK 0129:2005)において、5つの方法の全てが試験法として認められていますよ。5つの測定方法を詳しくご紹介します。
【DTA】示差熱分析
示差熱分析は「Differential Thermai Analysis」を略して、「DTA」と呼ばれます。DTAで測定できる物理的項目は、以下の温度です。
- 融点
- ガラス転移温度
- 反応温度
- 気化・昇華
DTAは基準物質と試料を比較して、同時に一定速度で温度を上げます。試料が融解したり反応したりすると、基準物質との温度差が出るのでその温度を検出して融点や反応温度を求めるのです。基準物質に用いられるのは、熱的に変化のないアルミナが一般的です。
【DSC】示差走査熱量分析
示差走査熱量分析は「Differential Scanning Calorimeter」を略して、「DSC」です。物質の熱量が測定できる方法で、熱流の変化を検出します。測定できる現象は以下のものがあり、単位は「mW(=J/s)」です。
- ガラス転移
- 融解
- 結晶化
- 反応熱量
- 熱履歴
- 比熱容量
DSCは幅広い物質特性を把握できるので、熱分析の中でよく使われている評価方法です。そのため測定機器も、各メーカーからたくさん販売されています。
昇華・蒸発・脱水・熱分解も測定は可能ですが、測定中に発生するガスで機器が腐食するので通常は測定しません。これらの現象の測定には、後述するTGが向いています。
DSCの原理はDTAと似ており、基準物質と試料を同時加熱し、熱量の変化を検出するものです。熱量は熱抵抗体への熱の出入りを検出し、測定できます。熱抵抗体は基準物質と試料を設置する場所の下にありますが、機器の基本構造はDTAと同じです。
【TG】熱重量分析
熱重量分析は「Thermo Gravimetric」を略して、「TG」と呼ばれます。TGは熱による重量変化を測定します。TG測定でわかる物質の性質は以下。
- 脱水
- 酸化
- 熱分解
- 蒸発
- 昇華
TGはDSCでは測定が難しい、昇華・蒸発・脱水・熱分解が測定できるのが特徴です。DTAも同時測定できる「TG-DTA」として機器が販売されていることもあります。
TGは別名「熱天秤」とも言われ、加熱装置と天秤が合体した機器です。天秤の方式により、上皿式・水平式・吊り下げ式など、機器の種類が分かれます。TG単体として高感度を求めるなら、吊り下げ式が最適です。DTAも同時測定したいなら、上皿式か水平式になります。
【TMA】熱機械分析
熱機械分析「Thermo Mechanical Analyzer」は「TMA」と略し、熱による長さの変化を測定する方法です。温度変化させながら試料に圧縮・引張り・曲げなどの負荷を加えて、物質の長さを計測します。測定対象は、以下のとおり。
- ガラス転移温度
- 熱膨張
- 熱収縮
- 軟化温度
TMAは工業製品の評価に欠かせないもので、ガラスやプラスチック、ゴム、金属などの試料を測定できます。ガラスやプラスチックの膨張測定や、フィルムやファイバーの引張り測定でTMAは活躍しますよ。
【DMA】動的粘弾性分析
動的粘弾性分析「Dynamic mechanical analysis」は「DMA」と呼ばれます。DMAは温度変化に伴う分子の運動の変化や、構造変化をとらえて、物質を評価する方法です。測定対象は以下の4つです
- ガラス転移
- 結晶化
- 反応
- 熱履歴
DMAは試料に負荷をかけて、生じるひずみを検出します。温度上昇に応じて試料が融解するものは、形状が変化するのでDMAは向いていません。
DMAは高分子材料の評価に用いられるのが、一般的です。さまざまな変形モード(引張り・圧縮・せん断・3点曲げなど)があり、熱に対する物質の変化を多方面から評価します。
熱分析装置の価格は?各メーカーの人気機種を紹介
各メーカーが販売する、人気の熱分析装置の価格を調査しました。予算申請の際にお役立てください。価格の詳細は、分析計測ジャーナルにお問い合わせください。
機器名 | メーカー名 | 測定法 | 参考価格 | メーカーサイトリンク |
DSC-60 Plusシリーズ | ㈱島津製作所 | DSC | 260万円~ | DSC-60 Plusシリーズ |
DTG-60/60Hシリーズ | ㈱島津製作所 | TG-DTA | お問い合わせください | DTG-60/60Hシリーズ |
TMA-60/60H | ㈱島津製作所 | TMA | お問い合わせください | TMA-60/60H |
DSC7000シリーズ | ㈱日立ハイテクサイエンス | DSC | 500万円~ | DSC7000シリーズ |
示差熱熱重量同時測定装置(TG-DSC) NEXTA STAシリーズ | ㈱日立ハイテクサイエンス | TG-DSC | 500万円~ | 示差熱熱重量同時測定装置(TG-DSC) NEXTA STAシリーズ |
TMA7000シリーズ | ㈱日立ハイテクサイエンス | TMA | 630万円~ | DSC7000シリーズ |
粘弾性測定装置 DMA7100 | ㈱日立ハイテクサイエンス | DMA | 1150万円~ | 粘弾性測定装置 DMA7100 |
DSC8500/8000 | ㈱パーキンエルマージャパン | DSC | 760万円~ | DSC8500/8000 |
STA6000/8000 | ㈱パーキンエルマージャパン | TG-DTA | 730万円~ | STA6000/8000 |
TGA8000 | ㈱パーキンエルマージャパン | TG | 780万円~ | TGA8000 |
Flash DSC 2+ | メトラー・トレド㈱ | DSC | お問い合わせください | Flash DSC 2+ |
DSC 404 F1 Pegasus | ネッチ・ジャパン㈱ | DSC | お問い合わせください | DSC 404 F1 Pegasus |
STA 449 F1/F3 F5 Jupiter | ネッチ・ジャパン㈱ | TG-DSC | 1000万円~ | STA 449 F1/F3 F5 Jupiter |
Discovery X3 | ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン㈱ | DSC | お問い合わせください | Discovery X3 |
まとめ
熱分析装置を出しているおすすめメーカーは、以下の6社です。
- ㈱島津製作所
- ㈱日立ハイテクサイエンス
- ㈱パーキンエルマージャパン
- メトラー・トレド㈱
- ネッチ・ジャパン㈱
- ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン㈱
熱分析では、物質の熱に対する特性を把握できます。熱分析の種類は5つありますが、よく使われているのはDSC(示差走査熱量分析)です。分析計測ジャーナルでは、熱分析に関するご相談や、価格の見積もりを受け付けています。お気軽にお問い合わせください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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