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走査型プローブ顕微鏡(SPM)導入を迷う研究室へ!コスト以上に得られる“研究の視点”とは?

2026.01.05 (Mon)

  • SPM
  • SPMおすすめ

記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

現場の研究者からはよく「SPMが気になるけれど、果たして本当に必要なのか」という声を聞きます。

走査型プローブ顕微鏡SPM(AFM/STM)は高価な装置であり、導入には慎重な判断が必要です。一方で、既存の光学顕微鏡や電子顕微鏡とはまったく異なる情報が得られるため、研究テーマによっては“視点そのものが変わる”ほどの効果が生まれます。

そこでこの記事では、

  • SPMでどのような情報が得られるのか
  • 電子顕微鏡や光学顕微鏡とどこが違うのか
  • 実際の研究室でどんな変化が起きたのか
  • 導入時に押さえておきたいポイント

を分野別の事例とともに整理しました。読み終える頃には、SPMが自分の研究テーマにどの程度フィットするのか、導入検討の判断材料が具体的に描けるようになります。

分析計測ジャーナルでは、走査型プローブ顕微鏡に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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SPM(AFM/STM)で何が見える?

SPMの導入を検討する際、まず押さえておきたいのは「SPMで何が見えるのか」という点です。

光学顕微鏡や電子顕微鏡と比較されることが多いものの、SPMが捉えているのは高さ・力・表面の応答といった、まったく別の種類の情報です。そのため、同じサンプルでも観察手法が違えば、見えてくる現象は大きく変わります。

SPMは“形を見る”だけの装置ではない

SPMは、探針をサンプル表面に近づけて“高さ”や“力”を検出しながら像を作ります。このため、光学顕微鏡では判別できない領域の凹凸や、電子顕微鏡では捉えにくい表面の柔らかさ・粘弾性といった物性も同時に取得できます。

SPMで得られる主な情報は以下の通りです。

  • ナノスケールの三次元形状(高さ像)
  • サンプルの硬さ・弾性・粘弾性
  • 表面の密着性や摩擦特性
  • 分子や粒子の局所的な力学応答

研究者がよく驚くのは、“形だけでなく、触れたときの反応そのものがデータになる”という点。これは、光学・電子顕微鏡にはない特有のメリットです。

AFMとSTMの違いは“何を測っているか”にある

SPMは大きくAFMとSTMに分かれます。両者は“像として見えるもの”こそ似ていますが、測定原理と得られる情報はまったく異なります。

測定手法AFM(Atomic Force Microscope)STM(Scanning Tunneling Microscope)
測定原理探針がサンプル表面に働く力を検出し、凹凸や力学特性を観察する探針とサンプルの間を流れるトンネル電流を測定し、電子状態を観察する
特徴材料・高分子・生体サンプルなど幅広く対応金属・半導体など導電性のあるサンプルに特化

研究室によっては「AFMとSTMのどちらを選ぶべきか」という議論が出ますが、“知りたい情報が力学的か、電子状態か”が最も大きな判断基準です。

従来手法との比較で分かるSPMの立ち位置

光学顕微鏡・電子顕微鏡との違いを理解することで、SPMの強みがより明確になります。以下の表は、それぞれの装置が得意とする領域を簡潔にまとめたものです。

観察手法得意分野特徴
光学顕微鏡μmレベルの形状非破壊・簡便・広視野
SEM高分解能の表面観察立体感のある像・導電処理が必要
TEM原子レベルの構造超高分解能・試料作製が難しい
SPM(AFM/STM)ナノレベルの形状+力学/電子情報物性値も同時に取得・前処理が少ない

SPMは分解能だけを見ると電子顕微鏡に劣る場合もありますが「高さ」「力」「電子状態」といった別軸の情報を得られるので、研究の“見え方”が大きく変わるという点に価値があります。

SPMが“従来手法では気付けなかった現象”を可視化する理由

SPMの強みは、単に「高い分解能で像を取れる」点だけではありません。光学顕微鏡や電子顕微鏡では“見えているつもり”になってしまう現象でも、SPMで測るとまったく違う解釈になることがあります。

その理由は、SPMが「高さ」「力」「電子状態」といった、従来とは異なる物理量を直接読み取る装置だからです。ここでは、SPMがなぜ“従来手法では埋もれていた現象”に強いのかを、研究現場でよく挙がる3つの視点から整理します。

ナノレベルの凹凸が“高さ情報”として立体的に見える

SEMの表面像は立体的に見える一方で、実際の高さは推定値に近く、凹凸の絶対値までは分かりません。一方SPMは、探針の上下動をそのまま高さとして記録するため、表面のナノ凹凸を数値として取得できます。高さ情報は、以下のような場面で役立ちます。

  • 薄膜の段差評価
  • ナノ粒子の平均粒径・サイズ分布
  • ポリマー表面の相分離状態の確認
  • 金属・無機表面の研磨状態の評価

電子顕微鏡では「平らに見えた」サンプルでも、AFMで測ると予想以上の粗さがあった、というケースも珍しくありません。「高さの情報がどの程度役に立つのか?」については、以前の記事でも解説しているので、詳細を確認したい方は下記をご覧ください。

“力学応答”が取れて、物性の差が像として現れる

SPMの本質的な強みは、表面に触れたときの“力”を測れることです。たとえば、

  • 柔らかい/硬い
  • 粘弾性
  • 粘着性
  • 摩擦特性

といった性質は、従来は別の分析装置で評価するのが一般的でした。

しかしAFMでは、高さ像と同時に力学像や位相像などの“物性マップ”を取得できます。そのため、以下のような点において、有益な情報が得られます。

  • “見た目では同じ”2つの領域が、力学像では全く違う色で分かれる
  • 材料のブロック共重合体の相分離構造が明確に出る
  • 生体サンプルの固定条件による柔らかさの変化が可視化できる

光学・電子顕微鏡で曖昧にしか見えなかった境界が、AFMでは力学的な差としてシャープに浮き上がることも珍しくありません。

STMでは“電子状態”が直接データになる

STMは、探針とサンプルの間を流れるトンネル電流を検出します。これにより、表面の電子密度の分布をそのまま像として読み取ることができます。これは、AFMにも電子顕微鏡にも真似できない領域です。

特に帯電・電子構造に関連する以下のようなテーマで強みを発揮します。

  • 金属表面の原子配列
  • 半導体のドーピング状態
  • 表面局所の電子密度
  • 表面欠陥の電子的挙動

材料科学や表面科学の研究者にとっては、SPMとSTMを併用すると「形」「力」「電子状態」の3軸からサンプルを評価できるという大きな利点があります。

導入した研究室で起きた変化―代表的な3つの事例

SPMの導入効果は、研究テーマによって大きく異なります。しかし実際の現場では「観察の質が変わった」「判断が早くなった」といった共通点がよく見られます。

ここでは、材料研究・生体サンプル・表面科学の3分野から、SPMがどのような変化をもたらしたのかを代表例として紹介します。いずれも、従来の顕微鏡では得られなかった“新しい視点”が研究を前へ進めたケースです。

材料研究―結晶粒界の評価が明確になり、工程条件の最適化が進んだ

材料系の研究室では、結晶粒界や表面の微小な凹凸が特性に大きな影響を与えることがよくあります。従来はSEMで観察していたものの、「粒界の段差が本当に数ナノなのか」「加工条件でどう変化したのか」までは明確に捉えられませんでした。

しかしAFMを導入した研究室では、

  • 結晶粒界の高さ(ナノ〜サブナノ)の定量化
  • 粗さパラメータ(Ra/Rq)の信頼性向上
  • 表面処理前後の違いを数値として取得

といった、工程の最適化に必要な“確かな基準”が得られるようになっています。特に、加工条件を変えたときに粗さがどの程度変わるかが数値として見えるようになり、従来よりも早いサイクルで材料設計が進んだという声が多くあります。

生体サンプル―固定条件で変化する“柔らかさの違い”が再現性を向上

生体試料は、扱いが難しく再現性に悩む研究室が少なくありません。特に、固定方法や乾燥条件がわずかに違うだけで、観察結果が変わってしまうことがあります。AFMでは、

  • 高さ像
  • 力学像(硬さ・弾性)
  • 位相像(粘弾性)

など複合的なデータを取得できるため、固定条件でどの程度サンプルが変化したかを数値化できるようになりました。その結果、

  • 適切な固定条件の標準化
  • 観察データのばらつきが減少
  • サンプル間比較の再現性向上

といった“再現性の壁”を突破する場面が増えています。研究者からは「これまで“なんとなく違う”と感じていた部分が、AFMではデータとして説明できる」という声もあり、議論の精度が上がったと評価されています。

表面科学―STMによる電子状態情報で、表面欠陥の評価が加速

金属や半導体の表面科学の分野では、表面欠陥や局所的な電子状態が物性に大きく影響します。従来の観察では、欠陥らしき構造がSEMで見えても、その“電子的な意味”までは分からず、追加測定が必要でした。STMを導入した研究室では、

  • トンネル電流から電子密度が直接可視化
  • 欠陥部位の電子状態の違いが明確化
  • 局所的な電子構造の比較が容易

といった効果により、表面状態の解釈が一段階深くなったという事例が多くあります。特に、「結晶構造が同じでも、局所の電子状態が違っていた」という発見は、材料設計の方向性そのものに影響を与えるほど重要な情報になることがあります。

ここまで紹介してきた3つの事例に共通するのは、SPMが“形”だけでなく、“表面がどう応答しているか”を読み取れる点が研究の前進につながったということです。

  • 材料研究では高さや粗さの数値化
  • 生体サンプルでは力学的な違いの可視化
  • 表面科学では電子状態そのものが取得可能

SPMの導入効果は、単なる解像度の向上ではなく「研究に必要な問いへの答えが早く得られる」という点にあります。

コスト面の不安を解消する―導入前に確認すべきポイント

SPMは高額な装置であり、導入判断で最も慎重になるポイントの1つが「コスト」です。装置本体の価格だけでなく、消耗品、周辺機器、メンテナンス体制など、運用を続けるうえで必要な要素は意外と多くあります。

ここでは、導入前に押さえておくべき代表的なチェックポイントを整理し、研究室が失敗しないための判断軸をまとめました。「SPMが欲しいけれど、どこを見れば良いのか分からない」という研究者に向けて、必要な視点を順番に紹介します。

装置の分解能だけで判断すると失敗しやすい

SPMを比較するとき、真っ先に目が行きがちなのが“分解能”ですが、これはあくまで一部のスペックに過ぎません。実際には、以下の要素の方が導入後の満足度に大きく影響します。

  • ピエゾスキャナの精度・安定性(像の歪み・再現性に直結)
  • 制御系の応答性(スキャン速度と像の安定性)
  • 振動・温度対策(測定環境との相性)
  • サンプルサイズ・固定方法(研究テーマに合うか)

メーカーに相談するときも「この条件でどれくらいのノイズになりますか?」「スキャン速度を上げると像はどう変わりますか?」といった具体的な質問が有効です。

SPM選定時の基準については、別記事で詳細にまとめていますので、より深く知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

チップや周辺機器の“見えないコスト”も必ず計算に入れる

SPMは、本体価格以上に「ランニングコスト」が判断の分かれ道になります。

  • 探針(チップ):AFMの消耗品として最も頻繁に交換
  • 防振台・除振システム:必要に応じて追加
  • 顕微鏡との併用パッケージ:光学系の組み合わせで変動
  • メンテナンス費用:メーカーごとに年間契約の内容が異なる

特に研究テーマによっては、チップの摩耗が早い場合があるため「分析に使うたびにどれくらいコストが積み上がるか」を事前に把握しておくことが重要です。

また、導入時に気付かれにくいポイントとして

  • 周囲の振動
  • 室内の温度変化
  • サンプル固定治具の相性

など、運用環境に起因する追加設備費が後から発生するケースもあります。

メーカーごとの“特徴の違い”は導入後の使い勝手に直結する

SPMはメーカーごとの設計思想が大きく異なるため、「どの性能を優先しているか」によって使い勝手が変わります。以下は一般的な特徴の傾向をまとめたものです(あくまで傾向であり、モデルごとの差はあります)

メーカー特徴主な製品主な用途
BrukerAFMのラインナップが豊富材料系の評価が得意Dimension / MultiMode材料科学、半導体、高分子評価
Park Systems速度と操作性のバランスが良く、自動化オプションが多いNXシリーズ大学・企業研究、表面粗さ・物性解析
Keyence省スペースで操作性が高く、初心者でも扱いやすいVHXシリーズ初心者導入、品質管理、材料表面観察
Shimadzu高い安定性と自動観察サポート機能SPM-9700HTPlus / SPM-Nanoa / SPM-8100FM材料科学、ナノ材料、界面解析

選ぶ際には、

  • どの分野に強いメーカーか
  • 自分の研究テーマとの相性
  • 操作性の好み(UIや自動化の度合い)

を軸に評価すると、導入後の満足度が大きく変わります。SPMの導入判断で重要なのは「高額な本体価格」よりも「研究テーマとの適合性」と「運用コスト」の2点です。

  • 分解能だけでは判断できない性能差
  • チップや設備などのランニングコスト
  • メーカーによる設計思想の違い

これらを整理しておくと、導入後に“思っていたのと違った”を防ぎ、研究を加速する環境が整えやすくなります。

SPMを導入すべき研究室・すべきでない研究室

SPMは非常に強力な観察手法ですが、すべての研究室にとって最適とは限りません。研究テーマや検証フローの特性によっては、電子顕微鏡や光学顕微鏡、さらには他の分析装置の方が効率的なケースもあります。

ここでは、SPM導入の適性を見極めるために、「導入すべき研究室」と「別の装置の方が向いている研究室」を判断軸ごとに整理しました。

SPMを導入すべき研究室とは

SPMが真価を発揮するのは、次のようなテーマを扱っている研究室です。

  • ナノスケールの凹凸・段差を定量化したい
  • 柔らかさ・弾性・粘弾性などの“力学応答”を評価したい
  • 高分子材料や薄膜の相分離構造を見たい
  • 生体サンプルの固定条件や状態変化を可視化したい
  • 表面の電子状態(導電性・電子密度)を知りたい(STM)

これらのテーマでは、SPMは光学顕微鏡や電子顕微鏡では得られない情報を得られます。特に、“見た目が似ていても物性が違う”というサンプルを評価する場面では圧倒的に有効です。

  • ナノ材料や高分子の研究で再現性の確立が課題
  • 工程や処理条件の違いを数値レベルで比較したい
  • 表面欠陥や局所電子状態が解析のボトルネックになっている

こうした悩みを持つ研究室では、SPMによってデータの質が大きく向上する可能性があります。

SPMより他の装置が向いている研究室とは

すべてのテーマでSPMがベスト、というわけではありません。以下に当てはまる場合は、他の装置の方が効率的な可能性が高いです。

  • μm〜mmスケールの広視野観察が必要(→光学顕微鏡)
  • 材料内部の構造を見たい(→TEM)
  • 立体的な観察と高分解能を両立したい(→SEM)
  • サンプルの導電処理が難しい(金属ではなく生物系)
  • 表面が非常に粗く、探針が追従しにくいサンプルが主

SPMはナノスケールの表面評価に特化しているため、観察対象が“広い・深い・粗い”場合には適性が下がる傾向があります。

「とりあえず分解能が高い装置を買えば良い」という判断は失敗のもとです。分解能だけを見ると電子顕微鏡の方が有利な場合も多く、SPMは「どの物性を評価したいのか」が明確でないと性能を持て余すことがあります。

判断に迷う場合は“研究フロー”から逆算すると分かりやすい

SPMが必要かどうか迷う場合は、“自分たちの研究フローのどこで詰まっているか”から逆算するのが最も有効です。

  • 解析に時間がかかっている工程はどこか
  • 再現性が低く、議論が止まりやすいのはどの部分か
  • 表面状態が原因と考えられる問題はあるか
  • 他手法では“なんとなく”で説明している現象があるか
  • 今後、材料やサンプルがナノスケール化する予定があるか

このような視点でフローを見直すと、SPMが該当部分を改善できるかどうかが自然に見えてきます。

まとめ

SPMは、ナノレベルの高さ・力・電子状態を直接評価できる点が最大の特徴です。そのため、材料表面の微細構造や、生体サンプルの力学的な違い、金属・半導体の電子状態を詳しく知りたい研究室では大きな効果が得られます。

一方で、広視野や内部構造の観察が中心のテーマでは、別の装置のほうが適している場合があります。SPMが必要か迷うときは「表面の物性が研究のボトルネックになっていないか」この一点を基準に判断すると、導入の方向性が見えやすくなります。今回の記事が、その判断に少しでも役立つきっかけになれば幸いです。

分析計測ジャーナルでは、走査型プローブ顕微鏡に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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ライター名:西村浩
プロフィール:食品メーカーで品質管理を10年以上担当し、HPLC・原子吸光光度計など、さまざまな分析機器を活用した試験業務に従事。現場で培った知識を活かし、分析機器の使い方やトラブル対応、試験手順の最適化など執筆中。品質管理や試験業務に携わる方の課題解決をサポートできるよう努めていきます。

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記事を書いた人 :

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