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走査型プローブ顕微鏡(SPM)とは?AFM・STMの違いと基本原理をわかりやすく解説

2025.05.07 (Wed)

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  • SPM
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記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

走査型プローブ顕微鏡とは?

近年、ナノテクノロジーや高分子材料、バイオサイエンスの進展に伴い、微細構造をナノスケールで「見る」「測る」技術がますます重要になっています。従来の光学顕微鏡では可視光の波長の制約により、数百ナノメートル以下の分解能を実現することは困難でした。一方、電子顕微鏡は高分解能ではあるものの、導電性試料の必要性や真空環境下での観察という制約があります。

こうした課題を克服し、非導電性材料や液中環境でもナノメートル〜原子レベルの観察を可能にしたのが「走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)」です。

SPMは1980年代に登場し、現在ではAFM(原子間力顕微鏡)やSTM(走査型トンネル顕微鏡)をはじめとしたさまざまな手法が派生し、材料科学、生命科学、半導体産業など幅広い分野で利用されています。

本記事では、SPMの基本原理をわかりやすく解説するとともに、代表的な手法であるAFMとSTMの違いを整理し、それぞれの特徴や用途について掘り下げていきます。SPMの導入を検討している方や、ナノ分析技術に関心のある方はぜひ参考にしてください。

分析計測ジャーナルでは、走査型プローブ顕微鏡に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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走査型プローブ顕微鏡(SPM)とは

画像引用元:東京理科大学化学系機器分析センター

走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)は、非常に鋭い針状の探針(プローブ)を用いて、試料表面を物理的に“なぞる”ことでナノスケールの表面構造を測定する顕微鏡です。

SPMの観察対象とその強み

SPMの最大の特徴は「視光や電子線を使わずに、物理的相互作用を信号として取得する」ことにあります。そのため、非導電性試料も観察できる(AFMなど)というのが強みです。しかも真空環境は不要で、大気中や液中でも観察できます。物理・電気・磁気的な局所特性もマッピングできるのでとても便利です。これだけの特長がありながら、数nm~原子レベルの分解能を有しています。

SPMでは、探針が試料表面を走査することで得られた信号をもとに、表面の凹凸や性質を可視化します。そのため、従来の顕微鏡では見えなかった表面の詳細情報が得られるようになりました。

さまざまな顕微鏡とSPMの比較

顕微鏡にはさまざまな種類がありますが、走査型プローブ顕微鏡と比較してみましょう。

顕微鏡の種類原理主な制約解像度
光学顕微鏡可視光を利用回折限界(約200nm)数百nm程度
電子顕微鏡電子線を照射導電性試料
真空環境
数nm~Å程度
走査型プローブ顕微鏡探針による物理的相互作用機械的安定性
走査速度
nm~Å程度

走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、他の顕微鏡と比較して最も高い解像度を持ち、光学顕微鏡では観察できないナノ〜原子スケールの構造まで可視化します。
電子顕微鏡と同等以上の分解能を持ちながらも、導電性のない試料や液中環境下でも測定できる点が大きな利点です。

一方でSPMは機械的な安定性や測定速度に課題があるため、広範囲・高速観察には不向きであり、試料の選定や測定条件設定は厳密にする必要があります。
したがって解像度を最重視する観察や、物性評価を伴うナノスケールの研究にはSPMが適しているといえます。

走査型プローブ顕微鏡の基本原理

基本原理について

走査型プロープ顕微鏡は一見シンプルに見える構造ですが、ナノメートル以下の高精度測定を実現するために非常に精緻な原理が働いています。ここでは、その原理について見ていきましょう。

探針(プローブ)とカンチレバー

多くのSPMでは、極めて鋭利な探針(先端の半径が10nm未満)を取り付けたカンチレバー(梁)が使用されます。この探針が試料表面のナノ構造をなぞることで、表面との物理的な相互作用(力や電流など)を検出します。

表面走査とフィードバック制御

試料または探針をXYZ方向に制御可能なピエゾ素子で駆動し、表面を1ラインずつ走査していきます。このとき、一定の力(または電流)を保つように探針の高さをリアルタイムで制御する「フィードバック機構」が働き、得られた高さ情報を画像化します。

取得信号と画像生成

SPMが取得する信号には、次のような種類があります。

  • 力(原子間力、接触力)→AFM
  • 電流(トンネル電流)→STM
  • その他に磁場、表面電位、粘弾性、温度 など

得られた信号は画像処理され、3Dの凹凸マップや物性マップとして出力されます。

AFM(原子間力顕微鏡)の特徴と原理

AFM(Atomic Force Microscope)は、走査型プローブ顕微鏡の代表的な手法の一つで、試料表面と探針先端との間に働く「原子間力」を利用して、表面形状や物性を高精度に測定する装置です。

AFMは1986年に発明され、現在では非導電性材料や生体試料のナノ観察に不可欠な技術として広く利用されています。

基本構造と測定原理

AFMでは、細長いカンチレバーの先端に取り付けられた探針を試料表面に近づけ、探針と試料の間に働く斥力・引力を検出します。カンチレバーのたわみは、レーザー光をカンチレバー背面に照射し、反射をフォトダイオードで検出する方式で読み取られます。

AFMにはいくつかの操作モードがあるので、試料や目的に応じて最適なモードを選択しましょう。

モードの種類特徴主な用途
接触モード探針が常に試料表面に接触硬質材料の表面形状の評価
非接触モード探針が表面に触れずに力の変化を検出軟質材料、汚染の少ない測定
タッピングモード探針を垂直に振動させながら、断続的に接触ソフト材料、生体試料、高解像度の測定

測定可能な物理量

AFMでは、表面形状(トップグラフィ)の取得だけにとどまらず、さまざまな物性情報を高分解能で取得できるのが特徴です。たとえば、ナノインデンテーションを利用することで、表面の硬さや弾性率を定量的に評価できます。また、フォースマッピング技術を活用すれば、粘弾性や粘着力の分布を可視化してくれます。

さらに、Kelvin Probe Force Microscopy(KPFM)モードでは、試料表面の電位や帯電状態を高精度にマッピング。Conductive AFMなら局所的な導電性を測定でき、Magnetic Force Microscopy(MFM)によって表面の磁性分布も把握できます。加えて、フォースカーブ解析を用いた生体分子との結合力の測定も実現されています。

AFMの強みと制約

AFMのメリットとしてまず挙げられるのが、導電性を持たない試料でも観察できることです。また、液中環境下での測定にも対応しており、タンパク質や細胞などの生体分子を生理的条件下で観察できます。さらに、機械的特性や電気的性質など、複数の物性をナノスケールで定量的に取得できる点も魅力です。

一方で、AFMにはいくつかの制約も存在します。測定に時間がかかるため、広い範囲を高速で観察するには不向きです。また、探針の選定や操作に一定の習熟が必要であり、初心者にとっては習得に時間を要するでしょう。さらに、試料表面が極端に粗い場合や凹凸が激しい場合には、測定精度が低下する恐れがあります。

STM(走査型トンネル顕微鏡)の特徴と原理

STM(Scanning Tunneling Microscope)は、1981年に発明された世界初のSPM手法であり、金属探針と導電性試料の間に流れる「トンネル電流」を検出することで、原子レベルの表面構造を観察します。

この技術により、STMの発明者であるビーニッヒとローレルは1986年にノーベル物理学賞を受賞しました。

測定原理

STMの動作原理は量子力学的なトンネル効果に基づいています。探針と試料が数Åという非常に近い距離まで接近すると、電子が空間を「トンネル」して流れる現象が起こります。

このトンネル電流は、探針と試料間の距離および局所的な電子状態(局所密度)に敏感であるため、原子レベルの凹凸や電子構造の分布を可視化します。

動作モード

STMには主に以下の2つのモードがあります。

モード測定方法メリット
定電流モード電流を一定に保つように探針高さを調整し、表面形状データを得る・表面の高さ変化を正確に反映した画像が得られる・ノイズが少なく、安定したデータが得られる
定高さモード探針高さを一定にし、電流変化から表面構造を解析する・高速なスキャンが可能 ・平坦で障害物の少ない表面では、電子状態の局所的な違いを敏感に捉えやすい。

STMの強みと制約

STM(走査型トンネル顕微鏡)は、いくつかの優れた特長を持つ装置です。最大の強みは、原子スケールの超高解像度を実現できる点です。これは、探針と試料間のトンネル電流が非常に敏感に距離変化へ反応するためであり、原子一つひとつの並びを視覚的に確認できます。

また、STMは表面の電子状態、すなわち局所的な電子状態密度(LDOS)をマッピングできるため、物質の電子構造解析にも非常に有効です。加えて、ナノ構造の操作や配置にも応用されており、原子や分子を意図的に動かす「ナノリソグラフィ」への展開も行われています。

一方で、STMは試料が導電性を持たない場合、トンネル電流が流れないため測定できません。また、わずかな振動や温度変化が測定に大きな影響を及ぼすため、装置を設置する環境には超高精度な制御が求められます。さらに、観察可能な領域が極めて狭いため、広範囲のスキャンやマクロスケールの解析には向いていません。

STMの応用例

STMは、金属や半導体の表面に存在する原子配列を直接観察し、結晶構造の欠陥や表面再構成など、ナノレベルでの物質挙動を解析してくれます。また、ナノクラスターや単一分子の配置を観察する用途でも活用されており、表面上に形成されたナノ構造体の解析にも適しています。さらに、超伝導材料や量子ドットのような量子系においても、STMによる電子状態の局所解析は非常に有効であり、最先端の物性物理研究に欠かせません。

AFMとSTMの違い

AFM(原子間力顕微鏡)とSTM(走査型トンネル顕微鏡)は、どちらも走査型プローブ顕微鏡(SPM)に分類される高分解能の観察装置ですが、原理・対象物・性能・使用環境などにおいて明確な違いがあります。以下では、それぞれの特徴を比較し、目的に応じた使い分けのポイントを解説します。

測定原理と必要条件の違い

AFMは、探針と試料表面との間に働く原子間力を検出することにより、形状や物性を可視化します。一方、STMは探針と導電性試料との間に流れるトンネル電流を測定して、表面の電子状態や構造を捉えます。

AFMは非導電性材料にも対応できるため、試料を選ばず広範な分野で利用されていますが、STMでは導電性がない試料を測定できません。この点が両者の最も大きな違いの一つです。また、AFMは大気中や液中でも測定可能であるのに対し、STMでは多くの場合、乾燥環境や真空下での使用が前提となります。

解像度・操作性の比較

STMは原子スケールの解像度を実現しており、最も高精度なナノスケール観察ができます。具体的には、横方向では0.1 nm程度、垂直方向では0.01 nm程度の分解能が得られます。AFMも非常に高精度な測定ができますが、STMに比べるとやや劣るので注意してください。

操作性の面では、AFMのほうが装置の制約が少なく、比較的扱いやすいとされています。STMは振動や温度の影響を受けやすく、環境制御や試料前処理に時間がかかるため、導入や運用には一定の技術的ハードルがあります。

用途と選び方のポイント

どちらを選ぶか?は、研究対象や得たい情報に応じて決定すべきです。AFMは生体試料や高分子材料などの非導電性試料を含む幅広い分野に対応でき、表面形状や物性の評価にも適しています。STMは、金属や半導体などの導電性材料に特化しており、電子状態や原子配列を精密に解析したいときに選ばれます。

以下に、用途や目的ごとの選び方の指標を簡単に整理します。

目的・対象推奨される装置
生体分子や細胞などの非導電性材料AFM
表面の電子状態や局所密度の解析STM
ナノ材料の形状・高さ・粘弾性評価AFM
原子レベルの構造観察(導電性あり)STM

このように、AFMとSTMは原理・用途・操作条件が大きく異なるため、測定対象や目的を明確にした上で最適な装置を選定する必要があります。

最新技術と今後の展望

走査型プローブ顕微鏡(SPM)の技術は、ここ数年で急速な進化を遂げています。これまで以上に高い解像度を実現する技術だけでなく、測定スピードの向上や多機能化、自動化といった領域においても開発が進んでおり、研究の可能性をさらに広げつつあります。

高速AFM(High-Speed AFM)の登場

従来のAFMでは、1枚の画像を取得するのに数分から十数分を要するのが一般的でした。しかし、高速AFMの登場により、1秒以下で高精細な画像を取得できるようになっています。この技術革新により、タンパク質や細胞表面といった生体分子の動きや形状変化をリアルタイムで観察することが可能となり、生命科学分野への応用が急速に拡大しています。

たとえば、分子の構造変化や細胞膜のダイナミクス、酵素反応が進行する様子を動画のように記録できるため、これまで静的な画像に頼っていた観察手法では把握できなかった現象にも対応できます。さらに、高速スキャンは液中環境での測定にも適しており、より生理的な条件下での実験が可能になりました。

マルチモードAFMによる複合解析の進化

1台のAFMで複数の測定モードに対応できる「マルチモードAFM」が登場したことで、同じ試料に対して形状・電気的特性・磁気特性・機械特性などを同時に評価できるようになりました。従来は別々の機器で行っていた複合的な物性評価を効率よく実施できます。

具体的には、導電性AFM(C-AFM)による局所導電性のマッピングや、磁力顕微鏡(MFM)を使った磁気ドメイン構造の可視化、Kelvinプローブ力顕微鏡(KPFM)を用いた表面電位の計測なども可能です。さらに、力曲線マッピングや位相像解析などの機能を組み合わせれば、ナノ材料の複雑な構造と機能をより立体的に理解できます。

こうした多面的な解析手法は、材料設計や不良解析、表面処理技術の開発において大きな武器となっており、産業応用の現場でもSPMの導入が加速しています。

AI・自動化技術との連携

最近では、人工知能(AI)を活用した画像認識・自動制御機能を搭載したAFMが登場しています。たとえば、測定条件の自動設定や、取得画像のノイズ除去・異常検出、測定対象の自動認識と追尾といった作業を、オペレーターに代わってシステムが行えるようになってきました。

このような「オートAFM」と呼ばれる自動化対応装置は、操作に習熟していないユーザーでも安定した結果を得られることから、教育機関や初心者の多いラボでも採用が進んでいます。自動化による効率化は、測定作業の再現性を向上させると同時に、測定者の技術差によるばらつきを抑える効果も期待されています。

今後は、クラウドベースのデータ管理や、機械学習を用いた解析アルゴリズムとの連携も視野に入っており、SPMの操作と解析はますます「高度でありながら簡便」なものへと進化していくと予想されます。

このように、SPMの分野では解像度や速度といったハード面の性能だけでなく、使いやすさやデータ処理の自動化といったソフト面の革新も進んでいます。研究の効率化と精度向上を両立させる技術として、今後ますます注目が高まるでしょう。

まとめ

走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、ナノスケールでの表面構造や物性を多角的に評価できる革新的な観察技術です。従来の光学顕微鏡では回折限界により捉えられなかった領域を、電子線を使わずに高解像度で可視化できる点が大きな特徴です。

特にAFM(原子間力顕微鏡)とSTM(走査型トンネル顕微鏡)は、SPMのなかでももっとも広く普及している基本手法です。それぞれに異なる原理と強みがあるため、試料や解析目的に応じた適切な選定が重要となります。

AFMは、探針と試料表面の原子間力を検出することで、非導電性材料や生体試料にも対応可能です。空気中や液中での測定ができるため、細胞やタンパク質などの柔らかい材料の観察に適しています。さらに、硬さや弾性、電位、粘弾性といった多様な物性情報をナノレベルでマッピングできます。

一方のSTMは、探針と導電性試料の間に流れるトンネル電流を測定し、原子スケールの電子状態を高解像度で可視化できる点が強みです。導電性が必要という制約はあるものの、金属・半導体の表面原子構造や局所電子状態の解析には非常に優れた性能を発揮します。

SPMの選定にあたっては、以下のような観点を総合的に検討することが求められます。

  • 測定環境:大気中か液中か、それとも真空か
  • 試料の導電性の有無
  • 必要な情報:形状、電気特性、機械的特性、磁性など
  • 操作の難易度とソフトウェアの使いやすさ
  • 導入後の保守・サポート体制

とくに初めて導入を検討する場合には、メーカーによるデモ測定やアプリケーションサポートの有無も重要な判断材料になります。

近年では、SPMの高速化や自動化が進み、研究現場だけでなく品質保証や製造工程の現場にも導入が広がっています。生体観察・電子デバイス評価・新素材開発など、ナノスケール観察のニーズが高まる分野では、今後ますます欠かせない技術となっていくでしょう。
SPMの世界は奥深く、多様なモードと機能が存在します。本記事がその基礎を理解し、自身の研究テーマや業務に適した装置を選ぶ手助けとなれば幸いです。

分析計測ジャーナルでは、走査型プローブ顕微鏡に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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ライター名:西村浩
プロフィール:食品メーカーで品質管理を10年以上担当し、HPLC・原子吸光光度計など、さまざまな分析機器を活用した試験業務に従事。現場で培った知識を活かし、分析機器の使い方やトラブル対応、試験手順の最適化など執筆中。品質管理や試験業務に携わる方の課題解決をサポートできるよう努めていきます。

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