液体クロマトグラフィー(HPLC)はカラムに試料を流して、多成分を分離する分析方法です。
HPLCのカラムは分離の良し悪しを決めるもので、選び方はとても重要です。
初めてHPLCを使って分析する、これまでとは条件を変えて分離をよくしたい、と考えているなら、カラム選びは避けて通れません。
しかしHPLCのカラムは種類が豊富で、メーカーもさまざまなので、どのカラムを選べばいいかわかりません。
そこでこの記事では、HPLCのカラム選びを解説し、おすすめのメーカーも紹介します。
さらにカラムを長く使うための正しい取り扱い方法も説明するので、特にHPLC初心者は最後までよく読んでください。
HPLC分析の原理(分離モード)から選ぶ
HPLCには大きく分けて4つの原理(分離モード)があり、試料に含まれる数種類の成分をそれぞれ分離させます。
- 逆相クロマトグラフィー
- 順相クロマトグラフィー
- イオン交換クロマトグラフィー
- サイズ排除(分子量分布)クロマトグラフィー
4つの分離モードについて詳しく解説します。
逆相はODSカラム
逆相クロマトグラフィーは、HPLCの中で最もよく使われる分離モードです。
疎水性相互作用を利用した分離方法で、疎水性が高い物質は強い吸着、疎水性が低い物質は弱い吸着になります。
低分子化合物の分離に用いられます。
逆相クロマトグラフィーでよく選ばれるカラムは、シリカゲルにオクタデシルシリル基を結合させた「ODSカラム」です。
その他にアルキル基の短いメチル基やオクチル基を結合させたカラム、ODSに比べて耐久性が特徴のポリマーカラムなどもあります。
順相はシリカゲルカラム
順相クロマトグラフィーは、固定相に極性の高いシリカゲルを使い、移動相に極性の低いヘキサンやクロロホルムなどを使っており、脂溶性の高い物質の分離に適しています。
具体的な物質としては、糖、ペプチド、核酸などの分離に最適です。
順相クロマトグラフィーで使われるカラムは、シリカゲル単体が充填された「シリカゲルカラム」や、シリカゲルにアミノプロピル基を結合させた「アミノカラム」などです。
イオン性の試料はイオン交換カラム
イオン交換クロマトグラフィーは、試料とカラムのイオン結合を使って分離するモードです。
タンパク質やアミノ酸などの物質の分離に適しています。
使うカラムは「イオン交換カラム」です。
イオン交換カラムには、ゲルに陰イオンや陽イオンを結合したものが使われます。
サイズ排除クロマトグラフィーはゲルろ過カラム
サイズ排除クロマトグラフィーは、分子量の大きさによって物質を分ける分離モードです。
分子量の高いポリマーの分離に適しており、使うカラムは「ゲルろ過カラム」です。
疎水性ポリマーの分離モードをGPC、親水性ポリマーの分離モードをGFCと呼びます。
小さな分子量の物質は、カラム充填剤の空孔に侵入しやすく通過速度が遅くなります。
一方大きな分子量の物質は、空孔に侵入せず通過するので早く溶出します。
高分子の分子量分布測定にも用いられる方法です。
カラムの長さで選ぶ|長さによるメリットデメリット
HPLCのカラムの長さは幅広いですが、一般的には50mm~150mmの長さです。
長いカラムと短いカラムの特徴をそれぞれ紹介します。
分離が難しい試料は長いカラム
物質の性質が似ていて分離が難しい試料は、カラムの長さを長くすると分離が改善します。
カラムを長くすると物質が通過する時間が長くかかるので、似ている性質の物質にも進行速度に差が生じやすく、分離できるのです。
しかし長さの長いカラムは、カラム圧力が上がります。
カラム圧力は理論的にはカラムの長さに比例するので、長さが2倍になれば圧力も2倍になります。
また分析時間も2倍に伸びます。
分析時間早い短いカラム
短いカラムは長いカラムに比べて分析時間が早く、溶媒の消費量も抑えられます。
そのため試料数が多い場合に有効です。
しかし成分同士のピークの位置が近づき、分離度が小さくなります。
成分数の少ない分析や、性質が大きく異なる成分の分析にしか使えません。
カラムの太さをチェック
HPLCカラムの太さは4.6mmをよく使います。
しかし目的に応じてカラムの太さを変更することがあります。
カラムの太さが細くなると感度がよくなるので、濃度が薄い試料でもピーク検出ができます。
また試料の注入量も減らせます。
細いカラムは最適流速を落とせるので、溶媒の削減も可能です。
10mm以上の太いカラムは、成分を取り分ける「分取カラム」として使われます。
内径が太いと試料量をたくさん乗せられるので、1回の注入で取れる1つの成分量が多くなるのです。
充填剤の粒径で選ぶ
カラム充填剤の粒径は、3~15μm程度までありますが、逆相クロマトグラフィーでは一般的に5μmのものがよく使われます。
粒子径を小さくすると分離がよくなりますが、圧力は粒子径の2乗に比例して大きくなるので機器やカラムへの負担が大きくなります。
粒子径を小さくする場合は、カラムの長さを短くしたり流速を遅くしたりして、圧力が高くなりすぎないように注意が必要です。
HPLCカラムおすすめメーカー3選!
HPLCカラムは国内外のさまざまな企業から販売されています。
今回は品質が自慢の日本メーカー3社を紹介します。
カラム選びで迷ったら、メーカーから選ぶのもおすすめです。
株式会社ワイエムシィ
株式会社ワイエムシィは分離分取に特化した会社で、豊富なカラムバリエーションがあります。
逆相クロマトグラフィー用カラムはもちろん、イオン交換クロマトグラフィー用カラム、分取用カラムも揃っています。
タンパク質や核酸・糖類の分析にも使えるカラムも選択肢が多いです。
ワイエムシィならどんな分析にも対応できるカラムの種類があるので、カラム探しに困っても解決してくれますよ。
参考:株式会社YMC
https://www.ymc.co.jp/ymc_gel/
株式会社島津製作所
株式会社島津製作所は、日本の大手分析機器メーカーです。
歴史ある企業で、長年お客様に愛されている高品質な製品が自慢です。
HPLC用カラムは「Shim-packシリーズ」という製品名で、さまざまな分離モードに応じたカラムが揃っています。
カラムの種類がとても多く選ぶのが難しいですが、ホームページの「カラム検索」機能が使いやすく、すぐに目的のカラムにたどり着けます。
参考:株式会社島津製作所
https://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/prominence/column/xr_lineup.htm
東ソー株式会社
東ソー株式会社は総合化学企業で、HPLCカラムだけでなく、私たちの生活を支えるさまざまな化学製品を製造販売しています。
逆相クロマトグラフィーのカラムはとても種類が多く、シリカ系カラムだけでも15種類以上のラインナップがあります。
参考:東ソー株式会社
https://www.separations.asia.tosohbioscience.com/productjp/columns/columnmain
HPLCカラムの正しい取り扱い方法と注意点
HPLCカラムは消耗品で、扱いが雑であるとすぐに使えなくなってしまいます。
しかしカラムは1本数万円~と高価なものなので、できるだけ長く使いたいですよね。
同じものを長く使いたいなら、カラムの正しい扱い方を身につけましょう。
カラムの洗浄
カラムの洗浄方法は、取扱説明書に書かれていることが多いです。
カラムの種類によって使えない条件の洗浄溶媒があるので、取扱説明書は必ず確認しましょう。
逆相クロマトグラフィー用のカラムの汚れは、残存シラノールと塩基性物質のイオン的吸着や、シリカゲル表面の金属物質に由来した吸着などがあります。
さらに疎水性が高い物質が蓄積して汚れてしまうこともあります。
イオン性物質の吸着を除去するには、アセトニトリル/0.1%リン酸=1/1の移動相を流してみてください。
疎水性の高い物質の除去には、有機溶媒濃度を上げてみましょう。
有機溶媒100%が最もよく汚れが取れますが、カラムによっては有機溶媒100%がNGな場合もあるので、取扱説明書をよく確認してください。
移動相を切らして空気を入れてしまったら?
移動相が足りなくて空気をカラムに入れてしまったら、カラムの出口を機器から外して通液してみてください。
通液直後は気泡が出てきますが、しばらくすると移動相が安定して流れてくるのがわかります。
気泡がなくなり安定した通液が確認できれば、カラム出口を機器に接続して通液を続けてください。
検出器にも気泡が入っている可能性があるので、しばらくベースラインをモニタリングしながら、安定するのを待ちましょう。
カラム温度の上げすぎに注意
カラムヒーターの温度は25~45℃程度に設定するのが一般的です。
逆相クロマトグラフィーの移動相にメタノールを使っている場合は、特に高温にすると沸点に近づき気泡が発生する場合があるので、注意が必要です。
また高温での分析はカラム充填剤にダメージを与えやすく、カラムが使えなくなることもあります。
取扱説明書をよく読んで、使用可能温度を確認してから使用しましょう。
逆相クロマトグラフィーにおいて、カラム温度を上げると保持時間が早くなります。
試料溶液に多成分が入っている場合、温度によって溶出する順番が前後することもあります。
条件検討時にカラム温度を変更するなら、使用可能な温度の上限を守ってください。
カラム選びに困ったらご相談を
最適なカラムの選び方がわからない、いくつか試したいカラムがある、という場合は分析計測ジャーナルにご相談ください。
弊社にはお客様のカラム選びをサポートするシステムがございます。
気になるカラムの貸出や、メーカー担当者への相談なども可能です。
詳しくは下記リンクより、ご連絡お願いいたします。
(注)メーカーやカラムの種類により対応できない場合もございます。
ご了承ください。
まとめ
HPLCのカラムの選び方を紹介しました。
カラムを選ぶポイントは次の4つです。
- 原理(分離モード)
- 長さ
- 太さ
- 粒径
カラムは定期的に洗浄し条件を守って使うと、分離能を落とさず長く使えます。
カラム選びに困ったら、メーカーや代理店に相談することも可能です。
分析計測ジャーナルはカラム選びをサポートしますので、お気軽にお問い合わせください。
ライター:バッハ
大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。
さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。
幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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