液体クロマトグラフィー(HPLC)やLC/MSのオートサンプラーを使用する場合、HPLCバイアルを使用します。しかしHPLCバイアルは、さまざまなメーカーから複数の種類が販売されているので、どれを選べばいいのか悩ましいです。また機器のメーカー純正のHPLCバイアルを使い続けている場合、別メーカーのものに変更するとコストダウンができる可能性もあります。
そこでこの記事では、HPLCバイアルの選び方とおすすめメーカーを紹介します。ぜひHPLCバイアル選びの参考にしてみてください。さらによくあるトラブルの、バイアル吸着を防ぐ方法もお伝えします。また分析計測ジャーナルでは、HPLCバイアル選びをご相談いただくことも可能です。
HPLCバイアルの選び方
HPLCバイアルは、さまざまな種類があります。そのため測定の目的に応じて適切なバイアルとキャップを選ばなければなりません。HPLCバイアルの選び方のポイントを順に解説します。
バイアル瓶の色で選ぶ
バイアル瓶の色は、透明と褐色のものがあります。光が当たると成分が分解してしまう試料は、褐色を選んでください。褐色バイアルのほうが透明バイアルに比べて割高です。そのため遮光が必要ない試料は、透明を使いましょう。
遮光が必要であっても褐色のバイアルが手元にないときは、透明バイアルにアルミホイルを巻いて代用することも可能です。しかし厚くアルミホイルを巻くと、オートサンプラーの中に入らないので、できるだけ薄く巻いてください。
バイアルの素材をチェック
バイアルの素材は以下の3つが主流です。順に特徴を解説します。
- ガラス
- ポリプロピレン
- TPX
ガラス
ガラスバイアルは、最もよく使われているバイアルの素材です。ほとんどの化学物質の測定に適しています。汎用性が高いので、価格も安く在庫も安定してます。
極性化合物はガラスに吸着することがあり、回収率が低くなることも。そのため各社、ガラス表面に不活性化処理を施し、低吸着のバイアルも開発しています。
ポリプロピレン
ガラスに反応するものや吸着する物質は、ポリプロピレン製のバイアルを選びましょう。ペプチドなどのタンパク質の分析、塩基性化合物で高吸着しやすい物質は、ポリプロピレンを試してみてください。特に薄い濃度の場合は吸着の影響が大きいので、ポリプロピレンバイアルが効果を発揮します。
TPX
ポリメチルペンテン(TPX)は、プラスチック素材のバイアルです。ガラスに吸着したり反応したりする物質に有効です。TPXはガラスと同じような透明性があります。
貴重な試料は低容量用やインサート使用
試料量が微量の場合は、低容量用のバイアルがあります。また通常のバイアルにインサートを入れて使用することも可能です。
HPLCバイアルの容量は1.5mL~2mLの容量が一般的で、試料量はその約8割必要です。試料量が少ないとインジェクターの先が試料に届かず、目的の容量を注入できません。しかし貴重な試料の場合、1.5mLほどの量を確保するのが難しい場合があります。
低容量用バイアルは、バイアルの内側が底にかけて細い三角形になっており、0.2mL程度の容量でもバイアル上部まで試料を満たします。インサートは細い管になっており、通常のバイアルに入れて使います。インサートはわずか0.1mLの少ない試料量で、測定が可能です。
セプタムの種類
セプタムとは、キャップの内側にある栓のことです。柔らかい素材でできており、インジェクターの針が刺さりやすくなっています。キャップとセプタムが一体化しているものと、別々のものが販売されています。セプタムの種類は数種類あり、試料溶液中の溶媒の種類によって使い分けなければなりません。それぞれのセプタムの詳細をご紹介します。
PTFE+シリコン
PTFE+シリコンのセプタムは、汎用性の高いセプタムです。2つの素材が層になっており注入前は2層で栓をし、注入後はシリコン層が栓の役割を果たします。そのため複数注入が可能です。穴が開く前はPTFE、開いた後はシリコンの耐溶媒性が必要です。
逆相クロマトグラフィーでよく使用される、アセトニトリルやジメチルスルホキシドなどの有機溶媒に耐性があります。しかし順相クロマトグラフィーで使用することの多い、ベンゼンやトルエンには耐性がないので使用できません。
PTFE+ゴム
PTFE+ゴムは、価格が安く経済的なセプタムです。逆相クロマトグラフィーで使用する溶媒に耐性があり、実験室でよく使われている種類の1つです。柔らかいのでシリンジの針が通りやすく、機械に負担をかけにくい特徴もあります。
しかし再シール性が低いので、複数注入は避けたほうがよさそうです。PTFE+ゴムのセプタムを使う場合、同一試料を複数注入したいなら、別のバイアルに同じ試料を入れて注入しましょう。
PTFE
PTFEのセプタムは、化学的に安定でほとんどの有機溶媒に使えます。順相クロマトグラフィーの溶媒でも使用可能です。しかし再シール性がないので、注入は1回のみになります。シリコンやゴムが使えない溶媒の場合のみ、使用するのがおすすめです。
ポリエチレン
ポリエチレンのセプタムは、キャップと同化しておりセプタムレスとも呼ばれます。針が刺さる部分のみ薄いポリエチレンの層になっています。1回注入のみ可能で、再シール性はありません。アルコール類や油などに耐性があり、塩素系溶剤やベンゼンには耐性がありません。
セプタムのスリット有無
2層のセプタムの場合、セプタムの上部にスリットが入っているものがあります。スリットは針の貫通をしやすくし、ニードルの詰まりを避ける役割もあります。またスリットが入っていると、注入量が多いときにバイアル内が陰圧になるのを防ぐことも。
試料の注入量が100μLなど多い場合は、バイアル内が陰圧や真空になりやすく正確な量を注入できないこともあります。そのため注入量が多いなら、スリット有を選んでみてください。
HPLCバイアルおすすめメーカー
HPLCバイアルは機器のメーカーはもちろん、他の化学用品メーカーからも販売されています。機器のメーカー純正品ではないバイアルを選ぶ場合は、使用する機器に適合しているかどうか調べてから選んで下さいね。ここでは、HPLCバイアルの価格が安くて高品質なメーカー3社をご紹介します。
ジーエルサイエンス㈱
ジーエルサイエンス株式会社はHPLCやGC(ガスクロマトグラフィー)の装置はもちろん、周辺部品や消耗品も幅広く揃えているメーカーです。HPLCバイアルは、アジレント用・島津用・Waters用・サーモ用など、各機器メーカーに対応するものがあります。
ガラスバイアルは全て低アルカリで高い不活性度があるので、どんな試料にも使いやすいです。またジーエルサイエンス社製のポリプロピレンバイアルは、高純度なポリプロピレンを使用しており、LC/MSのブランクでゴーストピークが出にくくなっています。
アズワン㈱
アズワン株式会社は、理化学機器や医療分野の総合商社です。実験室で使うありとあらゆる器具を取り扱っています。研究者であれば、アズワンの分厚い製品カタログを一度は手にしたことがあるのではないでしょうか。
HPLCバイアルは種類が豊富で、世界中のバイアルメーカーのものが手に入ります。そのため低価格のバイアルも見つけやすく、用途に応じたHPLCバイアルが見つかりますよ。
参考:アズワン㈱
㈱島津ジーエルシー
株式会社島津ジーエルシーは、分析機器メーカーの島津製作所のグループ会社です。分析機器の消耗品や、部品を開発販売しています。
自社で開発したHPLCバイアルはもちろん、海外メーカー製のバイアルも取り扱っています。分析機器メーカーのグループであるため、高品質で低吸着なHPLCバイアルが強みです。
参考:㈱島津ジーエルシー
HPLCバイアルの価格比較
HPLCバイアルの価格はメーカーによって異なります。そこで今回は島津製のHPLCのオートサンプラーで使えるバイアルを一例に、同一条件の純正バイアルと他メーカーバイアルの価格を比較してみました。(2022年7月現在)
品名 | メーカー | バイアル材質/色 | セプタム材質 | 容量 | 入数 | 価格 | 1本あたりの価格 |
LabTatal Vial for LCキット(証明書付き) | 島津製作所 | ガラス/透明 | PTFE/シリコン | 1.5mL | 100 | ¥13,000 | ¥130 |
スクリューバイアル | GLサイエンス | ガラス/透明 | _ | 1.5mL | 100 | ¥2,600 | ¥101 |
スクリューキャップ | GLサイエンス | _ | _ | _ | 100 | ¥2,300 | ¥101 |
セプタム | GLサイエンス | _ | PTFE/シリコン | _ | 100 | ¥5,200 | ¥101 |
オートサンプラー用バイアル | アズワン | ガラス/透明 | _ | 1.5mL | 100 | ¥1,800 | ¥76 |
シリコン/PTFEスリットセプタム付キャップ | アズワン | _ | PTFE/シリコン | _ | 100 | ¥57,950 | ¥76 |
島津LabTotal Vial for LC製品カタログ
GLサイエンス製品カタログ
アズワン AXEL
上の表において、純正メーカーの島津に対してGLサイエンスとアズワンのHPLCバイアルの価格を比較しました。1本あたりの価格でみると大きな差はありませんが、毎日たくさんの試料を分析する研究室では使用本数が多くなるので、見過ごせない差になることもあります。消耗品であるHPLCバイアルを見直すと、研究費の削減になりますよ。
HPLCバイアルの種類を変更する場合、突然変えるとこれまで見なれなかった結果になることがあります。そのため変更前後のHPLCバイアルにそれぞれ同じ試料を入れ測定し、バイアル間差がないか確認することをおすすめします。
定量精度が落ちるのはバイアルへの吸着かも!?
HPLCの定量結果で回収率100%が得られないことはよくあり、研究者を悩ませます。定量精度が悪いのはさまざまな原因がありますが、HPLCバイアルへの吸着も原因の一つです。そこでHPLCバイアルへの試料の吸着が起こっているかどうかの判断基準と、吸着を予防する方法をご紹介します。
こんな場合はバイアル吸着を疑え!
以下の3つの現象のうち1つでも当てはまったら、HPLCバイアルの吸着を疑ってみてください。
- 分析後半にかけて定量結果が徐々に低くなっている
- 仕込み量100%の試料を作っても定量値100%が得られない
- HPLCバイアルのメーカーを変えたら定量精度が落ちた
バイアル吸着を予防する方法
HPLCバイアルの吸着が疑われた場合、下の方法を試すと定量精度が上がることがあるので、検討してみてください。
- HPLCバイアルを試料で共洗いしてから使用する
- 試料濃度を上げる
- 低吸着バイアルに変更する
吸着に悩むなら、島津のHPLCバイアルLabTotal Vial
HPLCバイアルの吸着に悩み低吸着のバイアルを探しているなら、島津のHPLCバイアルLab Total Vialはいかがでしょうか。Lab Total Vialはガラス表面に低吸着加工がされており、吸着しやすい塩基性物質でも高い回収率が得られます。製品の品質証明書もついているので、安心して使えますよ。
参考:㈱島津製作所 製品情報
まとめ
この記事ではHPLCバイアルの選び方とメーカーについてご紹介しました。過剰なスペックのHPLCバイアルは割高になります。そのため、用途に応じた機能と必要な品質の製品を選びましょう。
分析計測ジャーナルでは、HPLCバイアル選びに困ったあなたをサポートすることも可能ですので、お気軽にご相談ください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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