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LC-MS導入で分析現場はどう変わる?人と装置の“共存”が生んだ成果

2025.12.04 (Thu)

  • LC-MS

記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

人と分析装置の共存

LC-MSを導入すべきかどうか?この判断は、研究室でも品質管理部門でも意外と迷う場面が多いと思います。

「GC-MSとの違いは?」
「HPLCでは足りないのはどんなところ?」
「導入するとどれだけ効率が上がるのか?」

そんな疑問を、私自身もこれまで多くの現場で耳にしてきました。

そこで本記事では、LC-MSの特徴を一つずつ丁寧に整理しながら、
“どんな分析に向いているのか”
“導入すると現場がどう変わるのか” 
を、できるだけシンプルにまとめています。

難しい理論よりも、「実際の業務ではどう役立つのか」に焦点を置きました。もしGC-MSやHPLCで手詰まりを感じる場面があるなら、LC-MSがどこで力を発揮するのか?この記事でそのヒントをつかんでいただければ幸いです。

分析計測ジャーナルでは、LC-MSに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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LC-MSの基本と、どんな場面で力を発揮するのか

LC-MSの基本

LC-MSを初めて検討する方にとって、「結局この装置で何ができるのか?」という視点は欠かせません。GC-MSやHPLCを普段から使っている研究者ほど、それぞれの分析で“これ以上は難しい”と感じる瞬間があるはずです。

そこでここでは、LC-MSが特に強みを発揮するポイントを、できるだけ実務に寄せて整理します。

GC-MSでは拾えなかった化合物に届く

GC-MSを使っていて「この農薬、今日はピークが立たない……」そんな経験をした方は多いかもしれません。熱に弱い化合物や極性の強い成分はGC-MSでは不安定になりがちです。LC-MSは、まさにその“抜けやすい領域”を得意とします。

LC-MSが対応しやすい例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 熱分解しやすい物質
  • 極性が高くGCで保持できない成分
  • 大きめの分子量で揮発しにくい物質

LC-MSは、GCでは難しいところを補う役割として導入されることが増えています。

HPLC以上の「判断材料」を短時間で得られる

HPLCでは、“分離の良し悪し”までは分かっても、そのピークが何かという判断には時間がかかります。標準物質を追加したり、別の分析法を回したり……確認作業に追われてしまって時間が足りなくなるというのも「あるある」です。LC-MSでは、これが大きく変わります。

  • 分子量
  • MS/MSによるフラグメントパターン
  • その場で候補化合物を絞り込める判断材料

これまでHPLC+GC-MSの二段階でやっていた作業が、1台で完結するケースが増えるため、判断までの時間が大幅に短縮されます。

微量分析で“再分析が減る”という実感が出やすい

食品や化成品の評価では、微量成分の定量が必要になる場面が多くあります。HPLCだとバックグラウンドに埋もれたり、再現性が足りなかったりと、どうしても再測定につながりやすいところがあります。

LC-MSのMRM測定は、以下の部分で特に効果が出ます。

  • ノイズが減り、定量範囲が広がる
  • ロット間差の評価がしやすくなる
  • 日による安定性が向上し、結果の信頼性が上がる

微量域の分析が安定すると、品質評価・規格設定・製品開発という上流工程の精度も自然と高まります。LC-MSは「万能な装置」というより、既存の分析で困っている部分を自然に補ってくれる存在です。

LC-MS導入で現場はどう変わったのか?実例から見る効果

LC-MSで現場はどう変わる?

LC-MSの導入効果は、スペック表だけ見てもなかなか実感しづらいものです。

「本当に現場がラクになるのか?」
「どの作業が速くなるのか?」

こうした疑問は、多くの研究者・技術者が抱える共通の悩みです。

そこでここでは、実際の研究機関や分析センターでLC-MSが導入されて何が変わったのかという“変化のポイント”を、実例をもとにまとめます。専門分野にかかわらず参考にしやすいよう、食品・化成品・品質管理の3つの場面に分けて紹介します。

食品中農薬分析―GC-MSでは難しかった成分が安定して測れるように

農薬分析では、従来GC-MSが主流でしたが、近年は極性が高い・熱に弱いなど、GCでは扱いにくい農薬が増えています。このため、「測れたり測れなかったりする」不安定さが現場の悩みの種になっていました。

LC-MSに切り替えた現場では、こうした不安定さが大きく改善されています。特に極性農薬では、ピーク形状の揺らぎが減り、再分析の回数も目に見えて減少したという声が多くあります。

また、GC-MSでは前処理として派生化が必要なケースがあり、担当者の熟練度によって品質が左右されやすいという問題もありました。LC-MSではこの工程が不要になるため、作業負担が減るだけでなく属人化が軽減されるメリットが生まれています。ポイントは、以下の通りです。

  • 極性農薬の検出が安定
  • 再分析が減り、1日の処理件数が増える
  • 派生化不要で作業時間が短縮
  • 初心者でも同じ品質で分析しやすくなる

化成品の不純物分析―“正体不明のピーク”の判断が早くなる

樹脂・界面活性剤・高分子材料の研究現場では、HPLCのクロマトグラムに突如現れる“正体不明のピーク”がよく問題になります。原因調査には追加分析が必要になり、HPLCとGC-MSを行き来するため、1つのピークの解明に時間がかかっていました。

LC-MS/MSを導入すると、フラグメント情報から候補物質を絞り込めるようになるため、「そもそもこれは何か?」という部分の判断が一気に早くなります。追加でGC-MSを回す必要がなくなるため、検討サイクル全体が短縮され、研究開発のスピード向上につながるケースが多くあります。

  • フラグメント情報で候補物質を短時間で絞れる
  • HPLC+GC-MSの二段階分析が不要に
  • 不純物の由来調査が速くなる
  • 開発サイクルの前倒しが可能になる

品質管理の微量成分分析―LOQ向上で再分析が激減

香料や添加剤などの微量成分は、HPLCではバックグラウンドの高さや他成分の干渉でピークが埋もれ、再分析が続くことがよくあります。LC-MSのMRMでは特定成分だけを選択的に観測できるため、バックグラウンドが下がり、微量域でもピークが安定します。

その結果、LOQ(定量下限)が改善し、ロット差の判断も明確になります。品質報告書の作成がスムーズになり、評価に必要なデータが早く揃うようになるという点もメリットです。

  • 微量成分のピークが安定して見える
  • LOQが改善し、ロット差の評価が容易に
  • 再分析が大幅に減る
  • 品質評価が前倒しで進められる

ここまで見てきた3つの事例で共通するポイントを表でもまとめました。

改善項目食品分析化成品研究品質管理
測定できる範囲の拡大
判断スピードアップ
前処理の削減
再分析の減少
属人化の軽減

この表からも分かるように、分野が異なっても「測れるものが増える」「判断が早くなる」「前処理が減る」という3つの軸が LC-MS 導入の大きな効果として共通していました。

どのLC-MSを選ぶべきか―現場で失敗しないための視点

どのLC-MSを選ぶべきか

LC-MSは多くのメーカーから高性能な機種が出ています。そのため「どれも良さそうに見えて、違いがよく分からない」という声をよく耳にします。実際、スペック表の数字だけでは“どの現場でどんな強みが生きるのか”が見えにくいのが正直なところです。

そこで本章では、装置を比較するときに現場で差がつきやすいポイントを中心に整理しました。

イオン源の切り替え・対応範囲は現場の自由度につながる

LC-MSを選ぶとき、まず注目したいのはどんな化合物に強いかという点です。これはイオン源の仕様で大きく変わります。

以下、チェックしておきたいポイントです。

  • ESI/APCIの両方に対応するかどうか
  • 切り替えがスムーズか
  • 熱不安定物質・極性物質など、対象化合物の許容範囲

分析対象が幅広い現場ほど、イオン源の柔軟性が重要になります。

MS/MSの性能差は“判断スピード”に直結する

MS/MS(タンデム質量分析)は、未知ピーク・不純物・分解物などの判断に強い機能です。装置によっては「スキャン速度」「感度」「MRM の安定性」に違いがあり、これが 分析スピードや再現性 に直結します。

比較の際には、次の点を確認しておくとよいです。

  • MRMの感度とS/N比
  • スキャン速度の速さ
  • 微量域での再現性
  • 定性と定量どちらに比重を置いたモデルか

日常業務で使うほど“判断までの時間” が装置によって大きく変わることが実感しやすい部分です。

保守・消耗品・使いやすさ―導入後の“運用負荷”を左右する部分

本体の性能はもちろん重要ですが、導入後に一番差が出やすいのは維持しやすさです。清掃や消耗品交換の頻度、緊急時のサポート体制、ソフトウェアの使い勝手など、“毎日の扱いやすさ” に影響する部分は必ず確認したい項目です。

実務で差が出やすいのは、以下のようなポイントです。

  • イオン源まわりの清掃がどれくらい手間か
  • 消耗品の価格と入手性
  • 自動化オプション(前処理・サンプラーなど)との相性
  • サポート拠点の距離・対応速度
  • ソフトウェアの直感性・データ管理のしやすさ

どれほど高性能でも、動かしにくい装置は“現場で眠ってしまう” こともあります。運用面まで含めて選ぶことが、長く使ううえでは欠かせません。

LC-MSの比較は「数値の大小」だけを見ると迷ってしまいがちです。実際には、

“どんなサンプルを扱うのか”
“どれくらいの頻度で運用するのか”
“前処理の負担をどこまで減らしたいか”

といった実務の条件で見えてくる差が大きい装置です。

LC-MSの導入コストはどれくらい? ― 判断のための“ざっくり全体像”

LC-MSの導入コスト

LC-MSを検討するとき、多くの研究者が気にするのが「結局いくらぐらいかかるのか?」という点だと思います。ただ、LC-MSのコストは本体価格だけで判断すると後からギャップが生まれやすい部分でもあります。

そこでこの章では、導入前にイメージしておきたい“初期費用+運用費用の全体像”を、できるだけわかりやすく整理します。

本体だけでなく“設備まわり”の費用差が大きい

LC-MS本体の価格帯は、一般的に1,000〜3,500万円前後。

この幅が大きい理由は、四重極・トリプル四重極・ハイレゾなど装置の構造や性能による違いです。しかし実際には、付帯設備の工事費が数百万円単位で変わることが多く、ここが予算のズレにつながりやすいポイントになります。LC-MS本体以外に、以下の項目は初期費用として見積もっておくようにしましょう。

  • オートサンプラなど前処理ユニット
  • 排気設備、電源工事、制振台などの環境整備
  • 初期メソッド支援や講習費

装置の性能よりも、設置する部屋・既存設備との相性で費用が上下しやすいのが注意点です。LC-MSに関わる費用については、下記の記事でも詳しく紹介しています。

ランニングコストは“5年単位”で見ると全貌がつかみやすい

ランニングコストは消耗品・清掃・定期点検・突発修理などが中心です。年間では70〜150万円程度で推移することが多く、本体価格と比べて見落とされがちな部分です。

  • イオン源の清掃頻度
  • 消耗品の価格・入手性
  • サービス契約(年次点検・スポット修理の体制)
  • ソフトウェア更新料

このあたりは、予算に含めるのを忘れないようにしましょう。モデルやメーカーによって“日常的な維持のしやすさ” が大きく違うため、導入前に比較しておきたい要素です。

総コストは“分析効率の改善”を含めて見ると判断しやすい

装置価格だけを見ると「高い機種=避けるべき」と思われがちですが、総コストで見ると評価が変わるケースも多くあります。分析効率が上がる装置は、再分析の減少・前処理の短縮・スループット向上といった部分でコストを回収しやすく、結果として“安く運用できる装置”になることもあります。

  • 1日あたりの分析件数がどの程度変わるか
  • 前処理や派生化の削減量(→工数減に直結)
  • 再分析が減ることでロスがどれくらい減るか
  • トラブル時の復旧速度

これらは事前に確認することをおすすめします。

LC-MSは、“高価な装置だから気軽に選べない”というより、“長く使う前提で最も効率の良い選択肢を探す装置” に近い位置づけです。費用の面だけを見ると迷いやすいLC-MS ですが、実際には 分析内容・頻度・前処理の負担 によって最適な選び方が大きく変わります。

まとめ

LC-MSが本当に必要かどうか

LC-MS が本当に自分たちの現場に必要なのか?これは、サンプルの種類や分析フローによって答えが変わるテーマです。

本記事で整理した内容を踏まえて、「いまの分析で負担になっている部分」「前処理や再分析が特に大変なところ」を少し書き出してみるだけでも、LC-MS が向いているポイントが自然と見えてきます。

もし「もう少し詳しく違いを知りたい」「自分の分野に近い事例を見ておきたい」と感じたら、関連記事をあわせて確認してみてください。

自分のケースに合う情報を拾っていくことで、装置選定に必要な判断材料が揃い、次に何をすべきかがはっきりしてくるはずです。

分析計測ジャーナルでは、LC-MSに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

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ライター名:西村浩
プロフィール:食品メーカーで品質管理を10年以上担当し、HPLC・原子吸光光度計など、さまざまな分析機器を活用した試験業務に従事。現場で培った知識を活かし、分析機器の使い方やトラブル対応、試験手順の最適化など執筆中。品質管理や試験業務に携わる方の課題解決をサポートできるよう努めていきます。

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