• HOME
  • 記事一覧
  • デキる教授が直伝!高額機器を買わない理由

解決事例

デキる教授が直伝!高額機器を買わない理由

2022.01.25 (Tue)

  • インタビュー
  • 機器
  • 研究

記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

現状の問題

・研究に必要な機器が高額なため予算がいつでも不足している
・研究に必要な検査機器が購入できない
・失敗の実験が多い
・学生が「やらされている」と感じている

解決策

・実験に失敗はないと思うようにする
・買えない機器は借りる
・使いたい人がいたら機器を貸す
・機器の貸し借りはコミュニティを広げるために行う

展望

・機器メーカーやベンチャー起業といっしょに検査機器を作りたい
・人がやっていない研究をしたい
・エネルギー問題を解決したい


予算不足が理由で研究機器が買えない。研究者にとって共通する大きな悩みであると言えます。

研究機器が買えないという問題を、「心配しても仕方がない」「買えなければ買わなければいい」と固定概念にとらわれずに解決されてきた同志社大学大学院 理工学部環境システム学科 新エネルギーシステム研究室 後藤琢也教授。

研究者のみならず、ビジネスマンにも共通するネットワークやコミュニティを広げるためのヒントを後藤琢也教授(以下、後藤)にお伺いしました。

研究費を自分で稼ぎ初めた学生時代

―――まずは研究内容について教えて下さい。

後藤: CO₂や砂のようなエネルギー効率が低いと言われる“ゴミ”のような物質にエネルギーを与えて再資源化を行う研究や、元素を自由に組み替えて新しい物質を作る研究をしています。

―――どのような研究方法なのですか。

後藤:「溶融塩電解」という技術を使い特殊な方法で個体を融解させて分析し、自然にならって新しい物質を作ります。電解するのに大量の電力を必要とするので、現在日本ではあまりされていない研究です。また分析するのに多種多様な最新分析機器が必要となりますので、研究予算は膨大に必要とします。

―――予算取りは苦労されているのですか。

後藤:いえ、苦労していません。というより、お金は入る時は入るし、心配しても仕方がないと諦めています。私は京都大学ドクターコースの学生の頃から、海外研修はDC1などの研究費を当てて自分で獲得したお金で行っていました。その頃から研究に必要なお金は自分でなんとかするというスタンスができあがって、今もその考えは変わりません。

―――申請した研究費はすべて当ててきたということですか。

後藤:いえ、そうではなくて。学生の頃、研究の計画、予算、必要な装置など研究にまつわる工程すべてをリストアップした時に、自前ではできないことがでてきます。そこで仲間をたよったり、他の研究室の先生がお持ちの装置を使わせてもらったりし始めました。

高額な研究機器ほど借りやすいと気づいた若手時代

―――他の研究室の装置は借りにくいという話を聞きます。

後藤:お金はなかったらあるところに行く、装置もなかったらあるところに行く、それがいちばんだと思っています。若手研究者は学会などで発表して褒めてもらうことが重要だとは思いますが、中にはけなしてくる先生もいます。それがチャンスです。「先生、この研究には〇〇という装置が必要なんです」と言うと、「うちの研究室にあるから使いにこい」とだいたいこうなる。高額な装置ほど稼働率がそんなに高くなく、先生もそれを気にしてらっしゃる。この手法は京都大学にいたときに学びました。

驚き! ノーベル賞を5度も受賞するパリの研究所に招待される

―――「買わずに借りる」スタンスができあがったのですね

後藤:この方法だと一生自分では買えないような装置を使えます。京都大学で助手をしていたときにフランスから声がかかり「キュリー研究所」に短期間留学のようなカタチで行くことになったんです。キュリー夫妻をはじめ過去5度のノーベル賞受賞がある世界的権威のある研究所。そのきっかけが「NMR」という、物質の分子構造を原子レベルで解析することができる特殊な装置を私の研究に使わせてくれるということでした。日本や世界でも研究者が少ない「溶融塩電解」という技術を使った研究に世界の「キュリー研究所」が注目してくれたことは、私の研究人生に大きな影響も与え「この技術の研究で一生頑張っていこう」と決意させてくれたスタートでもありました。今でもその研究所との良い関係は続いています。

新天地、同志社大学でも “借りる”研究生活で飛躍

―――研究人生がガラッと変わったのでは。

後藤: 学生当時から「溶融塩電解」は全く人気がない研究でした。しかし、「キュリー研究所」の件をきっかけに他に誰も使える人がいない技術なので、私が世の中に必要とされていると実感。「溶融塩電解」を使ってもっと大きなことができるという可能性も改めて感じました。その後、同志社大学に移り予算、機器ともに無い中でイチからスタートとなりました。その時も装置をお持ちの先生のお手伝いをしては装置を貸していただくことを繰り返しましたね。そんな中で、同志社大学の前学長である松岡敬先生にナノインデンテーションという非常に微小なところの硬さを測定できる装置をお借りできて、最終的には学長補佐をさせていただくほど松岡先生との距離が縮まりました。

ついに宇宙ステーションを“借りて”実験!

―――今でも借りることは続いていますか。

後藤: 今度、国際宇宙ステーションに積んである装置を使って宇宙飛行士に実験をお願いすることになっています。無重力空間での実験が可能になるのはそこだけ。宇宙ステーションで実験を依頼する一般的なルートはありません。私は「溶融塩電解」という技術が「人類の月移住に役に立つ」というような研究グループにも在籍しているので、そういったことが可能になったんだと思います。

―――今の研究室では装置を買わないのですか。

後藤:基本的には、人に借りられるものは借ります。国際宇宙ステーションにも借りるくらいなので。ただ、研究室に置いておくと研究効率が上がるとか一般の装置では分析できないのでカスタム仕様にしないといけないなど、仕方がないときは買います。私がそういう方針なので、もちろんうちの装置はどんどん他の研究者や学生さんに使ってもらっています。うちの学生さんにもいろんなところに借りに行って、よい刺激を受けておもしろい研究をして欲しいですね。

―――学生さんの教育のためにもなっているのですね。

後藤:学生さんが「やらされている」と感じることがないように気を配っています。学生さんだけでなく研究員にも。ひとつのところにとどまるのではなく、いろんな世界を見て研究に励んでほしいです。

世間が必要としているものを作りたい

―――今後の新しい取り組みがあれば教えて下さい。

後藤:「機器は借りる」とは言っていますが、研究を続けるにはやはりお金は必要です。世間が何を欲しているかを考えて行動すること、自分の専門分野の中で世間にどうアピールしていくかという態度が重要だと思います。同志社大学では、「次の環境」協創コースという大学院のコースを創設しました。ダイキン工業株式会社の研究施設の社員と同志社大学の大学院生がいっしょに学びます。その中の「フューチャーデザイン演習」では未来の生活を予測し、最終的にミッション研究と称して研究テーマにして、良さそうであればダイキンさんと共同研究を始めたいと思っています。それが実現すれば非常にユニークで、産学連携の理想になるのではと今から楽しみです。


■お話をお伺いしたのは・・・

同志社大学大学院 理工学部 環境システム学科 新エネルギーシステム研究室

研究室人数:24名

教授 後藤 琢也氏

1997年京都大学大学院工学研究科単位取得定退学、同研究科助手、准教授、2012年同志社大学工学部准教授、2015年から現職。同志社大学学長補佐も務める。

JAXA宇宙科学研究所の工学委員会の委員を努め、人が月や火星で生活する宇宙居住空間の研究も積極的に行っている。同志社大学創設者 新島襄の「良心と自由に満たされた学園」という夢に賛同し学生の教育にも力をいれている。

記事をシェアする


記事を書いた人 :

bunseki-keisoku