電気泳動装置は国内外さまざまなメーカーがありますが、どのメーカーのものがいいのか悩ましいですよね。また電気泳動には複数の種類があるので、目的に応じた機種選定が欠かせません。そこでこの記事では、電気泳動の原理や種類を解説し、電気泳動装置のおすすめメーカーを11社紹介します。初めてのゲル電気泳動装置選びや、高度な評価をしたくてキャピラリー電気泳動装置を検討しているなら、参考になりますよ。
分析計測ジャーナルでは、電気泳動装置の相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
電気泳動とは?
電気泳動装置は生物学・分子生物学などの分野において、混合物質を分離するための重要な装置です。電気泳動の原理と実際に使われている事例などを詳しく紹介します。
電気泳動の原理
電気泳動とは溶液中で帯電している物質が、電圧によって電場勾配が生じて移動する現象のことです。分子量や電荷の違いにより、移動速度が異なるので混合物が分離できます。分子の移動速度は以下の条件によって決まります。
- 電荷量:電荷が強いほど移動速度が早い
- 分子量:分子が小さいほど移動速度が早い
電荷量が強いものは、電場の力により引っ張られて早く進むイメージです。電気泳動の支持体には膜やゲルが用いられますが、これらは網目構造をしているので分子量が大きいものは引っかかりが多くなるので移動速度が遅くなります。一方、分子量が小さいものは網目に引っかからずスムーズに進みます。これらの特性を活かして、混合物を単一物質ごとに分離するのが電気泳動です。
電気泳動装置が活躍する分野
電気泳動装置は、タンパク質や核酸などの生体分子が対象の分野において活躍しています。具体的な使用例は次のとおり。
- 医療:臨床検査において血液や尿中のタンパク質分析に使用
- 環境科学:水質分析や汚染物質の検出。微量な金属イオンや有機化合物の測定に使用
- 食品:食品中のタンパク質やアミノ酸の分析
- 医薬品:抗体医薬品の研究や品質評価
電気泳動装置は広い分野で重要な役割を担っています。研究や診断技術の発展により、今後も電気泳動装置の需要は高まるでしょう。
電気泳動の種類は大きく分けて3種類
電気泳動の種類は、「ゲル電気泳動」・「キャピラリー電気泳動」・「マイクロチップ電気泳動」の3種類です。さらにそれぞれの電気泳動の中に、原理の異なるいくつかの手法があります。各電気泳動の原理について、詳しく解説します。
ゲル電気泳動
ゲル電気泳動は高分子ポリマーを用いて水溶性高分子を分離する方法です。特定のタンパク質やDNA、PCR産物のチェックに用いられています。ゲル電気泳動には4つの種類があります。
- アガロースゲル電気泳動
- アクリルアミドゲル電気泳動
- 等電点電気泳動
- 二次元電気泳動
アガロースゲル電気泳動
海藻由来の多糖であるアガロースを使った電気泳動です。主にDNAをやRNAなどの核酸を分離するために使用されます。ゲルのポアが大きいので、分子量が大きい物質や高分子のタンパク質の評価に最適です。ゲルの濃度によって分画単位が変わり、濃度が低いほど高分画な物質が測定できます。
アクリルアミドゲル電気泳動
アクリルアミド電気泳動(PAGE)は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加したSDS-PAGEが有名。界面活性剤の一種であるSDSが、水に溶けにくいタンパク質を疎水性タンパク質やリポタンパク質に結合し、可溶化させます。さらにSDSの結合量によって電荷が決まるので、分子量ごとに分離できるのです。
等電点電気泳動
タンパク質などの両性の荷電物質は、pH勾配によって有効表面電荷が0となる点(等電点)で停止します。この原理を利用してタンパク質を濃縮分離する手法です。
二次元電気泳動
二次元電気泳動は等電点電気泳動の応用版。一段回目は等電点電気泳動により分離し、二段階目でSDS-PADGEにより分子量により分ける方法です。高度な分析で複雑なタンパク質混合物でも分離可能。ただし熟練の技術が必要で実験時間もかかります。
キャピラリー電気泳動
キャピラリー電気泳動は緩衝液が充填された細管(キャピラリー)内で電荷により分離する方法です。ゲル電気泳動に比べて、高速で高精度な分離ができます。キャピラリー電気泳動装置は上記図のような構造です。電源は10〜20kVの直流高電圧電源が用いられます。キャピラリーは一般的に外形350〜400μm、内径50〜100μm程度のものが多いです。
キャピラリー電気泳動では、分子の電荷・サイズ・キャピラリー内壁との相互作用によって移動速度が異なるので、混合物が分離できます。検出器にはUVや蛍光検出器が多く用いられており、質量分析器なども接続可能です。分離手法の違いによりキャピラリー電気泳動は次の3種類に分かれます。
- キャピラリーゾーン電気泳動(CZE):基本的なキャピラリー電気泳動
- キャピラリー等電点電気泳動(CIEF):分子の等電点により分離。タンパク質の分離に最適
- キャピラリーゲル電気泳動(CGE):キャピラリー内にゲルを充填し、分子サイズにより分離
マイクロチップ電気泳動
マイクロチップ電気泳動はキャピラリー電気泳動の応用版で、数センチ四方のマイクロチップに縮小した電気泳動装置です。マイクロチップ上に微細な流路を作り、物質を分離します。迅速で高感度な分析が可能で、全自動化もしやすい測定方法です。サンプル量も微量でいいので、貴重な検体の評価にも適しています。
電気泳動装置おすすめメーカー11選!各メーカーの人気機種も紹介
電気泳動装置を製造販売しているメーカーは国内外に多数あります。今回は導入実績の多いメーカーを11社紹介し、各メーカーの人気機種もお伝えします。電気泳動装置のメーカー選びの参考にしてみてください。
日本エイドー㈱
日本エイドー㈱は電気泳動装置が主力の企業です。ゲル電気泳動に関するさまざま装置が販売されています。たとえば蛋白質基本分析用電気泳動システムは、初めてタンパク質の電気泳動をしたいときに必要な機器が全てそろっています。参考価格は34万1000円〜なので、学生実験や予算の限られている研究にも導入しやすい価格帯です。また二次元電気泳動装置についても充実のラインナップです。
アトー㈱
出展:アトー㈱ WSE-1030 コンパクトPAGE Neo
アトー㈱はバイオサイエンス研究に必要な機器や試薬を、開発・販売しているメーカーです。電気泳動装置はもちろん、既成ゲルやゲル撮影システムなどもあります。電気泳動装置について、幅60mm✕高さ60mmのコンパクトタイプ、30検体まで乗せられるワイドタイプ、等電点電気泳動用の電源一体型などがそろっています。アトー㈱は製品数の多さでは日本トップクラスです。WSE-1030 コンパクトPAGE NeoはSDS-PAGEに最適な機種。使いやすい構造と優れた泳動性能が人気です。
参考価格:11万8千円〜
㈱キアゲン
出展:㈱キアゲン QIAxcel Connect System
㈱キアゲンはドイツに本社を持つグローバル企業の日本支社です。電気泳動装置は、QIAxcel ™ Advanced Systemがあります。この装置はRNA/DNA分析ができる自動キャピラリー電気泳動装置です。DNA/RNA 100pg/µLレベルの高感度と、15bp~10kbpの広い分析レンジが特徴です。また12サンプル同時分析ができ、1サンプル約8分の高速分析ができます。日常的に分析数が多いときや、ゲル電気泳動で課題がある場合にQIAxcel ™ Advanced Systemを検討してみてください。
参考価格:416万5000円〜
㈱ミューピッド
㈱ミューピッドは1988年に設立された日本の実験機器メーカーです。コンパクトで使いやすい電気泳動装置を開発・製造しています。国内製造検査、充実の技術サポート、迅速な修理対応などがあり、初心者でも安心して使えるメーカーです。電気泳動装置はMupid-2Plusが主力製品であります。Mupid-2Plusはゲル電気泳動装置で、電源一体型です。本体サイズは幅162×奥行162×高さ51.5mmと小型で、実験台に収まります。価格も安いので、学生実験や複数台装置を導入したいときにおすすめです。
参考価格:4万5千円〜
㈱島津製作所
出展:㈱島津製作所 MultiNA II MCE-301カタログ
㈱島津製作所は日本を代表する分析機器メーカーです。電気泳動装置は、高度な研究向けのマイクロチップ電気泳動システムMultiNA II MCE-301を展開しています。MultiNA II MCE-301は全自動電気泳動装置で、サンプルの希釈から解析までを自動でしてくれます。過去のデータとの比較やゲルイメージの並び替えなど、ゲル電気泳動ではできなかった解析も簡単。品質管理から高度な研究まで広く使える機器です。
参考価格:426万円〜
富士フイルム和光純薬㈱
富士フイルム和光純薬㈱は富士フイルムホールディングスのグループ企業で、化学製品や試薬の開発、製造、販売を行っています。試薬メーカーだった和光純薬工業㈱から発展しているので、研究用試薬と連携した電気泳動装置や常時観察可能な装置などもあります。MARINE23STはアガロースゲル電気泳動に最適な機器。タイマーが付いており自動で電源が落ちる仕様なので、泳動させすぎの失敗を防止します。
参考価格:4万8千円〜
アジレント・テクノロジー㈱
出展:アジレント・テクノロジー Agilent 7100 キャピラリ電気泳動システム
アジレント・テクノロジー㈱は世界中で実績がある分析機器メーカーです。キャピラリー電気泳動システムのリーダー的存在で、高分解能力と迅速な分析能力を持つAgilent 7100電気泳動システムなどを提供しています。海外メーカーの機器ですが、操作は日本語対応なので初心者でも安心です。検出器に自社製品のAgilent 6000シリーズMSシステムが接続できるのは、分析機器を豊富にそろえるアジレント・テクノロジーならでは。アジレント製品をすでに導入しているなら、おすすめのメーカーです。
参考価格:890万円〜
SCIEX(サイエックス)
出展:SCIEX 生物製剤解析システムPA 800 Plus
SCIEX(サイエックス)は質量分析装置(MS)や液体クロマトグラフィー(LC)などを展開する、カナダのメーカーです。電気泳動装置ではさまざまなタイプのキャピラリー電気泳動装置ががあり、MS接続したものや全自動の装置も販売されています。PA800 Plusは抗体やタンパク質の分析に最適な装置です。USPに準拠しているので、生物製剤を取り扱う製薬会社に導入するのも安心です。
参考価格:お問い合わせください
㈱日立ハイテク
出展:㈱日立ハイテク 小型キャピラリー電気泳動シーケンサー DS3000
㈱日立ハイテクは日立製作所の子会社で、電子顕微鏡や半導体製造装置、分析・計測機器、医用機器などの分野で高い技術力があります。電気泳動装置は、「小型キャピラリー電気泳動シーケンサー DS3000」を販売しています。D3000はDNAの塩基配列や塩基長の解析に特化した装置です。メンテナンス頻度が少なく、直感的に使いやすいタッチパネル操作なので、誰でも使いやすいのが特徴。医薬品やゲノム研究の分野で利用されています。
参考価格:お問い合わせください
BIO-RAD(バイオ・ラッド)
BIO-RAD(バイオ・ラッド)は世界有数のライフサイエンス研究機器メーカーです。電気泳動分野では世界のリーダー的存在で、ゲル電気泳動装置から全自動電気泳動装置までさまざまな機種がそろっています。さらに試薬やゲルも販売されているので、バイオ・ラッドなら電気泳動で必要なものが全て準備できますよ。ミニプロティアン Tetra セルは垂直電気泳動装置です。最大4枚のゲルを同時に泳動でき、短時間で実験が完了します。電気泳動に関して必要なものが見つからない、というときはまずバイオ・ラッドで探してみると早く解決するでしょう。
参考価格:7万4千円〜
Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
出展:Thermo Fisher Scientific Invitrogen E-Gelプレキャストアガロース電気泳動システム
Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)は、幅広い実験機器を製造する大手メーカーです。高品質で革新的な電気泳動装置も提供しています。E-Gel Power Snap Systemは、ゲルが不要な電気泳動装置です。解析カメラにてリアルタイムで泳動の様子も観察できます。最先端の電気泳動装置を探しているなら、サーモフィッシャーを検討してみてください。
参考価格:18万4900円〜
まとめ
電気泳動装置はタンパク質などの生体分子を分離分析する装置のことです。分子量や電荷量によって、混合物を分離します。電気泳動装置のおすすめメーカーは次の11社です。
- 日本エイドー㈱
- アトー㈱
- ㈱キアゲン
- ㈱ミューピッド
- ㈱島津製作所
- 富士フイルム和光純薬㈱
- アジレント・テクノロジー㈱
- SCIEX(サイエックス)
- ㈱日立ハイテク
- BIO-RAD(バイオ・ラッド)
- Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
これらのメーカーでは、高精度な電気泳動装置が製造されています。そのため電気泳動装置選びに悩んだら、今回紹介した11社から探してみてください。また分析計測ジャーナルでは、電気泳動装置選びに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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