ものづくり補助金とは、正式名称を「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」という中小企業や小規模事業者を対象とした補助金です。
その名前を聞く機会は多いと思いますが、自社に活用できるか検討したことはあるでしょうか。
この記事では、ものづくり補助金の制度の概要や、どのような事業に対して適用され、申請の難しさはどこにあるのかを詳しく解説します。
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ものづくり補助金とは?制度の仕組み
ものづくり補助金は、中小企業等による生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する補助金です。 これだけを見ると漠然とした印象を受けますが、簡単に言えば「生産性を上げるための設備投資に対する補助金」なので、その範囲は多岐にわたります。 まずは、ものづくり補助金の制度の仕組みについて見ていくことにしましょう。
制度の概要と対象者
2013年に「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」としてスタートしたこの制度は、名称や内容を変えながら今に至っています。
「ものづくり」という言葉から製造業を対象とした制度のように感じられますが、生産性向上のための取り組みであれば、ほとんど業種は問われません。
ものづくり補助金の対象者は、「事業規模」と「申請要件」の2つを満たしているかで決まるので、個人事業主や事業組合に所属の組合員、NPO法人なども対象です。
事業規模ですが、中小企業と小規模事業者では分けられており、小規模事業者は常勤従業員数で定義されています。
その人数は製造業その他業種・宿泊業・娯楽業の場合20人以下、卸売業・小売業・サービス業では5人以下の、会社または個人事業主とされていますが、事実上は個人事業主の基準といえるでしょう。
中小企業は、業種ごとに下表の数字以下になっているかで判定します。
業種・組織形態 | 資本金 | 従業員(常勤) |
製造業、建設業、運輸業 | 3億円 | 300人 |
卸売業 | 1億円 | 100人 |
サービス業 (ソフトウエア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5,000万円 | 100人 |
小売業 | 5,000万円 | 50人 |
ゴム製品製造業 (自動車または航空機用タイヤ、チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く) | 3億円 | 900人 |
ソフトウエア業、または情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
旅館業 | 5,000万円 | 200人 |
その他の業種(上記以外) | 3億円 | 300人 |
申請要件については、以下の3つを満たす、3~5年の事業計画の策定および実行が補助要件となっています。
- 付加価値額+3%/年
- 給与支給総額+1.5%以上/年
- 事業場内最低賃金≧地域別最低賃金+30円
「付加価値額+3%/年」というのは、営業利益・人件費・減価償却費を足した金額を年間3%上昇させる事業計画であるということで、補助金を有効活用することで事業規模を拡大させるということです。
また人件費に関する要件が2つ入っており、給与総支給額を毎年1.5%アップさせ、なおかつ事業内最低賃金を地域別最低賃金よりも30円多くなるよう設定しなければなりません。
補助金のコースと給付額
ものづくり補助金には、企業が取り組もうとする生産性向上の内容によって、以下の5つのコースがあり、条件に当てはまれば補助率の向上や、補助額の上限アップが見込めます。
- 一般型(通常枠)
- 一般型(回復型賃上げ・雇用拡大枠)
- 一般型(デジタル枠)
- 一般型(グリーン枠)
- グローバル展開型
各コースの詳しい内容と、補助率・補助額の上限は下表のとおりですが、補助額の下限は各枠100万円となっています。
コースの内容 | 補助上限額 | 補助率 |
(通常枠) 新製品・新サービス開発・生産プロセスの改善に必要な設備投資及び試作開発を支援 | 5人以下: 750万円 6~20人:1,000万円 21人以上: 1,250万円 | 1/2、 2/3(小規模・ 再生事業者) |
(回復型賃上げ・雇用拡大枠) 業況が厳しい事業者が賃上げ・雇用拡大に取り組むための革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資 等を支援。 ※前年度の事業年度の課税所得がゼロである事業者に限る。 | 2/3 | |
(デジタル枠) DXに資する革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・サービス提供方法の改善 による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援。 | ||
(グリーン枠) 温室効果ガスの排出削減に資する取組に応じ、 革新的な製品・サービス開発又は 炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に 必要な設備・システム投資等を支援 | エントリー 5人以下: 750万円 6~20人:1,000万円 21人以上: 1,250万円スタンダード 5人以下: 1,000万円 6~20人:1,500万円 21人以上: 2,000万円アドバンス 5人以下: 2,000万円 6~20人:3,000万円 21人以上:4,000万円 | |
(グローバル市場開拓枠) 海外事業の拡大等を目的とした設備投資等を支援。 海外市場開拓 (JAPANブラン ド) 類型では、海外展開に係るブランディング・プロモーション等に係る経費も支援。 | 3,000万円 (従来、補助下限額は1,000万円のところ、 100万円に引き下げ) | 1/2、 2/3(小規模・再生事業者) |
対象になるなら活用すべき補助金
ものづくり補助金は業種による制限がほとんどありません。そのため、ものづくり補助金では事業規模と要件を満たせば、製造業以外の業種でも申請はできます。
そして補助の対象となる支出ですが、設備投資と聞くと大規模な機械等の取得を想像しますが、実は対象範囲が広いので対象になるのであれば申請する価値は大いにあります。
ものづくり補助金の補助対象経費は、一般型とグローバル市場開拓枠で以下のような内容となっています。
一般型 | |
補助対象経費の種類 | 詳細 |
機械装置・システム構築費 | 補助事業のためだけに使われる機械や装置、システム、工具などを購入・製作・レンタルする際の費用 |
技術導入費 | 補助事業に必要な知的財産権等の導入にかかる費用 |
専門家経費 | 補助事業のためにコンサルティングや相談を大学教授などの専門家に支払われる費用 |
運搬費 | 補助事業をするために必要となる、運搬、宅配・郵送の費用 |
クラウドサービス利用費 | 補助事業のためだけに必要となるクラウドサービス費用 ※自社が保有するサーバーの利用料は対象外 |
原材料費 | 補助事業の試作品づくりのために必要な原材料および副材料の購入費用 |
外注費 | 補助事業で必要なWebデザインなどの作業の一部を外部に委託する際の費用 ※事業計画自体の企画を外注するのはNG |
知的財産権等関連経費 | 補助事業で必要となる特許の申請にかかわる弁理士の代行費用、外国特許申請のための翻訳料などの費用 |
グローバル市場開拓枠 | |
海外旅費 | 海外事業の拡大・強化等を目的とした渡航費・宿泊費用 |
通訳・翻訳費 | 海外事業の拡大・強化のための広告宣伝・販売促進に必要な通訳・翻訳費 ※事業計画書作成のための通訳と翻訳費は対象外 |
広告宣伝・販売促進費 | 海外事業で展開する製品・サービスに必要な広告(パンフレット、動画、写真等)の作成や媒体掲載費用など |
これを見ても分かるとおり、ものづくり補助金における、設備投資を主として、対象事業に係る事業資金全般となっています。
事業効率化を真剣に考えている経営者にとって、こんなにありがたい補助金はなかなか見当たりません。
ものづくり補助金の申請
ものづくり補助金は、2023年5月12日から「第15次公募」の申請が始まりました。
これ以降も、切れ目なく公募が行われることが中小企業庁より発表されていますが、実際の申請方法や注意点について確認しましょう。
必要書類と申請方法
ものづくり補助金は申請手続きだけでなく、採択通知以後の補助事業の中間検査や実績報告、補助金の支払いを含めたすべての手続きが100%電子化されています。 そのため申請前に、「GビズIDプライムアカウント」の発行が必要になるのですが、これに〜3週間ほどの時間が必要です。
GビズIDプライムアカウントは、国への申請に関する行政サービスを一つのアカウントで利用できる認証システムで、ものづくり補助金の申請時だけでなく、他の補助金制度でも利用可能です。
なおGビズIDプライムアカウントの申請には、下記のものが必要になるので用意しましょう。
- メールアドレス(アカウントID)
- 操作端末(パソコン)
- 操作端末から印刷可能なプリンター
- 印鑑証明書・登録申請書
- スマートフォンまたは携帯電話
GビズIDプライムアカウントを取得出来たら、申請手続きに入るのですが、交付申請書類は、IDをもとに発行された申請マイページ上にてPDFなどの電子データで提出します。
申請に必要なのは、自社の基本情報と以下の書類です。
必要書類 | 詳細 |
事業計画書 | 様式は自由ですが、A4で計10ページ以内での作成が推奨されています |
補助経費に関する誓約書 | 専ら事業計画書に記載の事業のために使用する旨を誓約する(所定書式による) |
賃金引上げ計画の誓約書 | 直近の最低賃金と給与支給総額を明記し、それを引き上げる旨の誓約 |
決算書等 | 設立1年以上2年未満の企業は1期分の書類を提出し、設立後間もない企業は事業計画書および収支予算書を提出(個人事業主は確定申告書等) |
従業員数の確認資料 | 法人の場合は法人事業概況説明書の写し、個人事業主の場合は所得税青色申告決算書または所得税白色申告収支内訳書の写し |
労働者名簿 | 応募申請時の従業員情報 |
また、申請の類型によっては上記の書類に加えて以下の書類が必要になります。
類型 | 必要書類 |
再生事業者のみ | 応募申請時において再生事業者であることを証明する書類 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠のみ | 課税所得の状況を示す確定申告書類 |
グリーン枠のみ | 炭素生産性向上計画および温室効果ガス排出削減の取組状況 |
グローバル市場開拓型のみ | 海外事業の準備状況を示す書類 |
申請にあたっての注意点
ものづくり補助金は、申請したら必ず採択されるわけではなく、採択結果が公表された第13次公募の結果を見ると、3,261件の応募に対して採択件数は1,903件に留まっています。
つまり申請に多くの労力を費やしても、それが報われないことがあるのです。 また申請にあたってはスケジュールを慎重に考える必要があり、とくに設備の納期に関しては注意しましょう。
機械装置等やシステムの購入時期は交付が決定した後に行うことになるので、購入時期が決まってしまっている場合は補助が使えないかもしれません。
事前に発注している分に関しては補助対象にはならないので注意しましょう。
申請採択のポイント
ものづくり補助金の申請をして採択されやすくするためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。
とくに事業計画書については、補助要件である「付加価値額アップ」「給与支給総額アップ」「地域内最低賃金に上乗せする待遇」がクリアできる計画であることが必要です。
しかも単なる数字合わせではなく、その内容は「具体性」「実現可能性」「根拠」が明確でなくてはなりません。
つまり審査における重要なポイントは、要件で求められる要素を十分に理解し、その要素を提出書類に盛り込めているかです。
なお、過去3年以内に、ものづくり補助金の交付決定(採択)を1回でも受けたことがあると、減点の対象になります。2回以上の場合は申請できません。
ものづくり補助金の利用事例
ものづくり補助金には多くの利用事例があるあるのですが、それらを見るとものづくり補助金のハードルはそれほど高くなく思えます。
例えば歯科医院でCTを導入したという採択事例では、CT導入により患者の利便性的が向上し、院内のオペレーションも効率が良くなるという計画です。
採択され、その効果によって付加価値が上がり、給与支給額も増えました。
また板金加工を行う事業者のケースでは、試作品作成の時間がかかる問題を解決するため、ものづくり補助金を利用して3Dプリンターを導入しています。
これも試作品を短期間で作成することが、売上サイクルを早める結果となり、補助要件をクリアした事例です。
中小事業者にとって難しいポイント
ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者を対象とした補助金ですが、それゆえの難しさが存在します。
その主な理由は、事業規模が小さいほど事務作業に割ける労力が限られていることや、資金的な余裕が乏しい傾向があるためです。
ここでは中小事業者にとって難しいポイントの説明と、その解決策を考えてみましょう。
煩雑な書類と5年間の継続報告
ものづくり補助金は、事務方にマンパワーを割きにくい中小事業者にとって申請書類だけでも大変な作業となります。また、採択後も、下記の通り事務的な手続きがあります。採択後は、事務局と採択事業者が二人三脚で進めていくことが必要になります。
手続きや作業 | 詳細 |
交付申請 | 地域事務局からのヒアリングを終えた後、事業計画書を提出し、その費用と事業の内容が再審査されます。 ここが事業計画書の本番といえるでしょう。 |
中間監査 | 補助事業開始後、一定期間を経て事務局の中間監査があります。 補助対象経費の支払いは、補助事業期間に支払いが完了しているものに限るので、事前のスケジューリングが大事です。 |
実績報告 | 補助事業終了後に実績報告書を提出しなければなりません。 補助対象経費の支払いなど、原始記録の提出や補助事業期間中の取り組みなどを報告します。 |
確定検査 | 実際に補助金を受け取るためには、地域事務局に実績報告書を提出した後、確定検査を受けることになります。 補助期間中の取組や事業の成果を事務局に説明し、その後支給額が決定します。 |
補助金の請求 | 確定した補助金を事務局に請求し、そのご補助金の支払いを受けます。 |
事業化状況報告 | ものづくり補助金の対象事業完了後、5年間は毎年事業の状況を報告する必要があります。 ものづくり補助金を使用した事業が実際に行われているかどうかを確認するための報告です。 |
事前申請から始まり、以後5年間の継続報告は中小事業者にとってかなりの負担になります。
問題なければ、基本的には返還の必要がない補助金なので仕方のないことですが、ものづくり補助金は簡単に利用できないという側面があるのです。
先にお金を払うため資金繰りにも注意
ものづくり補助金は、先ほどまで説明した諸手続きを終えた後の後払いになる点には注意が必要です。
簡単に言えば、新しい取り組みのために支払う設備投資等は自前で資金を用意する必要があります。
事業規模が大きいほど資金繰りに影響を与えるので、ものづくり補助金の申請書類以外に自社の資金繰りをよく検討しなければなりません。
場合によっては、金融機関へつなぎ融資の依頼なども必要なので、申請前から考えておきましょう。
事業に専念するためプロに依頼も
ものづくり補助金は、中小事業者にとって新しい取り組みを支援してくれる制度ですが、その手続きは中小事業者にとって大きな負担になってしまいます。
その手続きに人的リソースを取られることで、ものづくり補助金対象事業はおろか本業自体に悪影響がでるようでは本末転倒です。 そのことを考えれば、中小事業者にとってものづくり補助金の事業計画策定・申請書作成を中小企業診断士等の国家資格を持つプロに依頼することも積極的に検討すべきでしょう。
そうすることで本来業務に集中し、ものづくり補助金を活かせるようになります。
まとめ
自社の事業効率化や新規事業を検討している方にとって、ものづくり補助金は大変有効な事業サポートとなり得ます。
あらゆる補助金にいえることですが、「何かを始める」という意思があってこそ活用できるものなので、まずは自社に不足している部分をよく検討してみましょう。
課題が見つかったら、あとはものづくり補助金を活用できないか専門家などに相談し、ありがたく支援を受けるだけです。
この記事を参考にして、今こそ自社の課題と向き合ってみましょう。
分析計測ジャーナルでは、補助金サポートも行っております。いつでもお問い合わせくださいませ。
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