元素分析の方法は種類が多く、どの方法で測定すべきか悩ましいですよね。また原理も複雑で理解しにくいものもあります。元素分析の方法を表す略語は非常に多く、同じものでも異なる名前や、同じ名前でも違う方法を指すこともあるので混乱します。
そこでこの記事では、EDXをはじめとする元素分析について原理や特徴をやさしく解説します。さらに各方法を用いたおすすめ機器もご紹介。難しい元素分析の謎が解けますよ。
分析計測ジャーナルでは、EDXや元素分析に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
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EDXやEDSって何?原理と分析できるものも解説!
EDXとは、Energy Dispersive X-ray Spectroscopyの略で「エネルギー分散型蛍光X線分光法」と呼ばれる分析手法です。EDSと呼ばれることがありますが、同じものを指し、ここではEDXに統一します。それではEDXの原理や特徴を紹介しましょう。
EDXの原理
試料に電子線やX線などを照射すると、固有の特性X線や蛍光X線がエネルギーとして発生します。生じるエネルギーは元素固有であるため、元素同定ができるのです。また特性X線の強度で元素の含有量が測定できます。
EDXで分析できるものと特徴
EDXで分析できるものは無機物です。元素分析や組成分析ができます。検出可能な元素は、検出元素はNa(ナトリウム)~U(ウラン)の81種類です。検出限界は最高で0.1ppm~測定可能な元素があります。有機物質の同定にFT-IRが使われるのに対して、無機物質の同定にEDXは欠かせない機器として研究者に愛用されています。
EDXの特徴は以下の5点です。
- 前処理不要
- 高感度
- 多元素同時測定
- 非破壊で分析できる
- 凹凸があっても測定可能
EDXが活躍する分析例
EDXは製薬・化粧品・工業業界など幅広い分野において利用されています。EDXで分析できる一例は以下のとおりです。
- 異物の組成分析
- 無機・有機材料の製品分析
- 電池や半導体などの薄膜評価構造評価
- 電子デバイスの故障解析
- 残留溶媒分析
EDX以外の元素分析の種類と原理を紹介
元素分析ができる方法は、EDX以外にもあります。その他の無機分析手法の原理や特徴をお伝えします。
電子線マイクロアナライザー(EPMA)
波長分散型蛍光X線分光法は、Wavelength Dispersive X-ray spectroscopyからWDXと呼ばれます。WDXは試料に蛍光X線を照射し、得られるX線の波長から元素を同定します。EDXはX線のエネルギーを求めるのに対して、WDXはX線の波長を測定する点が異なる点です。WDXは目的の蛍光X線を選択的に測定できるため、分解能と精度がEDXよりもいいのが特徴。測定したい元素の目途がついており、微量ならWDXが最適ですよ。
ICP発光分光分析(ICP)
ICPは高周波誘導結合プラズマの頭文字をとったものです。試料にプラズマエネルギーを与えて、元素を励起。励起された元素が、低いエネルギーに戻る時に放出する発光線を検出する方法です。発光線は元素の種類によって波長が異なるので、元素の種類を同定できます。また発光線の強度から元素の含有量の測定も可能です。ICP高感度で10ppb以下でも検出が可能であり、多元素の同時分析もできます。
試料は霧状にしてプラズマに導入するので、測定試料は水溶液の状態にしなければなりません。そのため固体試料の場合は前処理をおこない、溶液化する必要があります。測定できる元素は希ガス・ハロゲンなどを除いた、約72~73種類です。
食品業界ではミネラルの含有量測定、医薬品業界では原薬中の元素不純物分析などに用いられています。
原子吸光法(AAS)
原子吸光法とは試料を高温にして原子化し、照射した光の吸収スペクトルを測定する方法です。原子は励起状態になるときに、光として与えられたエネルギーを吸収します。吸収する光の波長は、元素によって特定の波長が吸収されます。そのため吸収された光の波長を測定すると、元素の種類が判別できるのです。また吸収量から元素の濃度もわかります。
測定ができる元素は金属元素で、44種類あります。試料の状態は水溶液です。土壌に含まれる金属元素の定量や、工場排水や河川に含まれる金属分析などに使われる方法です。
元素分析用の機器を紹介
元素分析ができる機器はさまざまな種類がありますが、前処理が基本的に不要でそのまま測定できるEDXとWDXについておすすめ機器をご紹介します。どの機器も品質が自慢の、日本企業が製造販売するものです。
【EDX】EDX-7200(㈱島津製作所)
㈱島津製作所のEDX-7200は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置です。検出器に高分解能SDD検出器を搭載し、高感度な検出ができます。また独自アルゴリズムを改良し、従来機よりも測定時間が短縮。横幅460mmで実験台にも置きやすいコンパクトな形状です。直感的に操作できるので、初心者でも使いやすいです。
【WDX】Supermini200(㈱リガク)
㈱リガクのSupermini200はコンパクトなサイズの波長分散型小型蛍光X線装置(WDX)です。本体の大きさは580 (W) x 670 (H) x 680 (D) mmで、これまで必要だった冷却水も不要になったので、置き場所に困りません。検出できる元素はO~Uまで。軽元素の感度がよく、分解能も高いです。環境分析や鉱物資源の分析をおこないたいなら、最適の1台ですよ。
【SEM-EDX】TM4000Ⅱ/TM4000PlusⅡ+Quantax75(㈱日立ハイテク)
この機器は、㈱日立ハイテクの卓上電子顕微鏡(SEM)に、ドイツのブルカー社のEDXを装着した機器です。指定した位置を選択すると、マッピング・ポイント分析・ライン分析が表示され、試料の状態が一目で把握できます。SiとWなど重なりやすい元素をリアルタイムでピーク分離し、正確な測定が可能です。Word®やExcel®への結果をエクスポートできるので、レポート作成も簡単です。
【TEM-EDX】JED-2300T(日本電子㈱)
日本電子㈱のJED-2300Tは、同社の透過電子顕微鏡(TEM)に取り付けて使う機器です。JED-2300はピークが接近しやすいホウ素・炭素・窒素・酸素の軽元素も明確に分離できます。プレイバック機能を使うと、スペクトルの時間変化観測も可能です。また時系列による試料変化も測定。操作画面は日本語なので使いやすいです。
まとめ
EDXについて解説し、さまざまな元素分析の方法についてもお伝えしました。
EDXとは、「エネルギー分散型蛍光X線分光法」と呼ばれる分析手法で、無機物の同定や含有量測定に用いられるものです。
EDX以外の元素分析の手法は、以下の方法があります。
- EPMA:電子線マイクロアナライザー
- WDX:波長分散型蛍光X線分光法
- ICP:発光分光分析
- AAS:原子吸光法
元素分析は種類が多く、どの方法が適しているのか判断が難しいことがあります。分析計測ジャーナルでは、EDXや元素分析に関するご相談や機器のご質問を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
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ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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