HPLCの測定結果をみたら、ピーク形状がこれまでと違っていて困っていませんか?
測定条件の検討をしているが、どうしてもきれいな形のピークが得られなくて悩むこともあります。
HPLCで得られるクロマトグラムのピーク異常は、機器や測定条件などのトラブルを表しています。
きれいな形状のピークでなければ、正しく評価ができているとは言えません。
しかしピークの異常は何が原因なのか、わかりにくいです。
原因が1つでない場合もあります。
そこでこの記事では、製薬会社の研究員としてHPLCの測定条件を研究していた私が、理想のHPLCピークが出ずにお困りのあなたに、解決策を提案します。
今回は私もよく遭遇した、6つのHPLCピークにまつわるトラブルを挙げました。
それぞれの原因と対処法を丁寧に解説していますので、あなたのお悩みを解決することでしょう。
さらにHPLCの測定条件を検討をしている方におすすめのサービスも紹介しますので、最後までお読みください。
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トラブル1:HPLCのピーク面積にばらつきがある
HPLCでピーク面積のばらつきがあると、正確な成分の定量値が算出できません。
また日本薬局方では、HPLCを用いた試験を実施する際、ピーク面積が一定かどうかを確認することが求められています。
参考:厚生労働省 第十八改正日本薬局方 参考情報 システム適合性
ピーク面積がばらついていると、試料の測定を開始すべきではありません。
HPLCのピークがばらつく原因と対処法は次のとおりです。
原因
- オートサンプラーに空気が嚙んでいる
- 試料の温度が安定していない
- 移動相の調製が不十分
- キャリーオーバーしている
オートサンプラーに空気が入っている場合、毎回の試料注入量が異なります。
また液体は温度によって体積が変化するので、サンプルクーラーを使用し試料温度が安定していない場合も、注入量が一定ではありません。
移動相の有機溶媒相と水相がしっかり混ざっていない場合も、移動相勾配が一定ではなくなるので、ピーク面積がばらつきます。
対処法
- オートサンプラーの脱気をおこなう
- 試料の温度が安定するまで待つ
- 移動相を調製しなおす
- インジェクター洗浄液を補充する
製薬業界の品質管理においてピーク面積のばらつき具合は、相対標準偏差(RSD)で判断します。
同一試料を6回注入し、定量の場合RSD=1.0%以下、類縁物質測定の場合RSD=2.0%以下に設定されることが一般的です。
参考:厚生労働省 第十八改正日本薬局方 参考情報 システム適合性
ピーク面積の値だけを見るのではなく、RSDを算出し許容できる範囲のばらつきかどうかを判断しましょう。
トラブル2:HPLCのピークが出ない
HPLCのピークが出ないと測定を開始できません。
これまでと同じ分析条件にもかかわらずピークが出ないのか、新しい分析条件でピークが出ないのか、状況によって原因と対策が異なります。
原因
これまでと同じ分析条件でピークが出ない
- 液が漏れている
- カラムの接続忘れ
- 検出器の電源が入っていない
新しい分析条件でピークが出ない
- 検出波長が間違っている
- 試料濃度が薄すぎる
- カラムに試料が吸着している
- 試料がカラム内から出てきていない
ピークが出ない原因は、初歩的なミスとカラムの問題の2つあります。
試料がカラムから出てきておらず検出器まで流れていない、検出器が適切に設定されていない場合はピークがでません。
対処法
- カラム接続部分や検出器接続部分を接続しなおす
- 検出器の状態と波長を確認する
- 試料濃度を変更する
- カラムの種類や移動相組成を再検討
これまでと変わらない分析条件で測定してピークが出ない場合は、液漏れや検出器に異常がないかを確認しましょう。
条件検討しているときにピークが出ないなら、カラム・試料・移動相の相性を再確認してください。
逆相クロマトグラフィーの場合、試料の疎水性が高くカラムから出てきていない場合があります。
移動相の有機溶媒比率を上げて、ピークが出てくるかどうか試してみてしてください。
新しいカラムを使ってピークが出ないなら、残存シラノールや金属不純物に吸着している可能性が考えられます。
何回か測定をしてカラムを使い慣らすか、充填剤を残存シラノールが少ないものに変更することもおすすめです。
トラブル3:HPLCのピークがブロード
ピーク形状は、鋭くシャープなものが正常なピークです。
横に広がり高さが低いブロードな形状のピークは、測定結果の精度が落ちます。
原因
- カラムが劣化している
- 試料がカラムに吸着している
- 試料の注入量が多すぎる
- 配管にデッドボリュームが発生している
- 試料の調製溶媒が移動相の有機溶媒比率と異なる
ピーク形状がブロードになる原因は、試料とカラムの相性の問題やカラムの状態の変化です。
これまでと同じ条件で分析していてピーク形状がブロードになった場合は、カラムの劣化を疑ってみてください。
対処法
- カラムを洗うか交換する
- 試料の注入量を減らす(半分~1/10程度)
- 配管をつなぎ直す
- 試料溶液と移動相の有機溶媒比率を同じにする
逆相液体クロマトグラフィーで試料調製溶液に有機溶媒100%を使うとブロードになることがあります。
そのため試料溶液の有機溶媒比率は、移動相の比率に合わせることがベストです。
トラブル4:HPLCのピークが重なる
HPLCのピークが重なっている状態は、2つの成分が分離できていない状態を示します。
重なっているピークをいかにして分離させるかということは、HPLCの条件検討で最も難しく、研究者の醍醐味でもあります。
2つのピークが分離しているかどうかの指標は、ピークを目視する他に分離度(Resolution:R)を確認してください。
日本薬局方において、分離度1.5以上が完全にピークが分離していると定義されています。
参考:厚生労働省 第十八改正日本薬局方 一般試験法 液体クロマトグラフィー
原因
これまでに測定したことのある分析条件で突然ピークが重なるようになったら、カラムの劣化が原因であることが多いです。
もしくは移動相の調製に失敗してる可能性もあります。
分析条件の検討においてピークが重なる場合は、条件の変更が必要です。
対処法
分析条件の検討でピークを分離させる方法は、たくさんあります。
どの方法で効果があるのか机上で検討しつつも、一つずつ試すことが早く条件を確立させる近道です。
- カラム充填剤の粒子径を小さくする
- カラムの長さを長くする
- 移動相の有機溶媒を変える
- カラム温度を変える
- 有機溶媒比率を変える
- 移動相のpHの変える
- カラムの充填剤の種類を変える
トラブル5:ゴーストピークが出る
ゴーストピークとは、試料の成分とは関係のないもので、検出されるべきではないピークのことです。
形状が定まらない幅の広いものやシャープなものなど、形状はさまざまです。
ゴーストピークが成分のピークと重なってしまうと、正確な測定ができません。
原因
- 移動相に含まれる水の不純物
- 試料溶液の溶媒
- 前試料のキャリーオーバー
- 有機溶媒に含まれる安定剤
- バイアル瓶のシリコン樹脂
- 実験室の環境
対処法
- HPLC用の水を使って移動相調製する
- 試料溶液の溶媒を移動相と同じにする
- インジェクターやシリンジを洗う
- 安定化剤の入っていないHPLC用有機溶媒を使用する
- バイアルの種類を変える
- HPLCにエアコンの風が直接当たらないようにする
- 長時間空気にさらした移動相は廃棄して調製し直す
移動相が空気にふれる状態で長時間置いておくと、空気中の成分が移動相に溶け込み、ゴーストピークとして検出されることがあります。
長時間の測定で後半の試料に突然ゴーストピークが現れた場合や、以前に調製した移動相を使いまわしてゴーストピークがみられた場合は、空気中の成分が影響している可能性が高いです。
HPLCが実験室のエアコンの吹き出し口に近く、風が直接当たっている場合、ゴーストピークが現れることがあります。
風の向きや強さを変えてみてください。
トラブル6:ピーク形状が悪い
ピーク割れや肩ピークがあるものは、正しく分離ができていません。
1つのピークのみに異常がみられる場合と、全てのピークに同様の異常がみられる場合で、原因と対処法が異なります。
原因
1つのピークのみにみられる場合
- 2つの成分が含まれており分離しきれていない
全てのピークにみられる場合
- カラムが劣化している
- カラムに不純物が付着している
- 移動相と試料溶液の溶媒の溶出力が異なる
対処法
- 分析条件を検討する
- カラムを交換する
- カラムを洗浄する
- 試料溶液と移動相の有機溶媒比率を同じにする
ピーク割れや肩ピークが特定のピークのみにみられる場合は、2つ以上の成分が分離していません。
分析条件の「トラブル4:ピークが重なる」の対処法を参考に、分離する条件を検討してください。
全てのピークに異常がみられる場合は、カラムの状態が悪いことが多いです。
カラムを洗浄するか別のカラムに交換してみましょう。
HPLCのピークトラブルまとめ表
トラブル | 原因 | 対策 |
面積がばらつく | ・オートサンプラーにエア ・試料温度が一定でない ・移動相が不均一 ・キャリーオーバー | ・オートサンプラーの脱気 ・試料温度が安定するまで待つ ・移動相を調製し直す ・インジェクターを洗う |
ピークが出ない | ・液が漏れている ・カラムの接続忘れ ・検出器の電源入れ忘れ ・検出波長が間違っている ・試料濃度が薄い ・カラム内から試料が出ていない ・カラムに試料が吸着 | ・設定条件を見直す ・試料溶液の濃度を確認 ・カラムの種類を変える ・移動相組成を変える |
ピークがブロード | ・カラムが劣化 ・試料がカラムに吸着 ・注入量が多すぎる ・デッドボリュームがある ・試料と移動相の溶媒比率が異なる | ・カラムを洗う ・カラムを交換する ・注入量を減らす ・配管をつなぎ直す ・試料溶媒と移動相の組成を合わせる |
ピークが重なる | ・カラムの劣化 ・成分が分離していない | ・カラムを交換する ・分析条件を再検討する |
ゴーストピークが出る | ・水の不純物 ・試料の溶媒 ・キャリーオーバー ・有機溶媒の安定化剤 ・バイアル瓶のシリコン ・実験室の環境 | ・移動相を調製し直す ・試料溶媒と移動相の組成を合わせる ・機器を洗浄する ・バイアルの種類を変える ・HPLC本体に風が当たらないようにする |
ピーク割れ/肩ピーク | ・分離が不十分 ・カラムの劣化 ・カラムに不純物が吸着 ・試料と移動相の溶媒比率が異なる | ・分析条件を検討 ・カラムを交換する ・カラムを洗う ・試料溶媒と移動相の組成を合わせる |
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まとめ
HPLCのピークに異常がみられて悩んでいる方に、よくある6つのトラブルを挙げて原因と対処法をご紹介しました。
ピークに異常がみられる原因はさまざまで、対処法も1つではありません。
異常が出ている原因に目星をつけて、1つずつ対処法を試していきましょう。
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ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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