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HPLC試料用前処理フィルターの選び方|フィルターの疑問を解決!

2022.08.18 (Thu)

  • HPLC
  • 前処理フィルター

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bunseki-keisoku

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HPLCの試料溶液を前処理フィルターでろ過するのは、機器を大切に使うために必要な作業です。しかし前処理フィルターの種類はとても多く、聞きなれない素材もあるのでどれを選べばいいか悩ましいですよね。新しい条件で測定し、これまでに見られなかった結果が得られた場合、フィルター選びが間違っていることもあります。
そこで今回は、HPLC試料の前処理フィルターの選び方や、フィルターメーカーをご紹介します。さらにHPLCに関わるフィルターの疑問も解決するので、ぜひ最後までお読みください。また分析計測ジャーナルでは、HPLC前処理フィルター選びについて、ご相談いただくことも可能です。

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HPLC分析の試料調製!フィルターろ過をする意味って?

とは?

HPLCで分析する試料溶液の調製において、フィルターろ過は実施していますか?試料溶液のフィルターろ過は、サンプル数が多くなると作業負担が増えるので、面倒と考える研究者もいるのではないでしょうか。しかし試料調製におけるフィルターろ過は、機器を大切に使うだけでなく、トラブルを回避する役割もあります。フィルターろ過をせずに試料溶液を注入すると起こる代表的なトラブルは以下の3つがあります。

  • HPLCの流路の詰まり
  • カラムの汚染
  • 検出器のセルを汚染し感度低下

HPLC流路の詰まりやセルの汚染は、溶媒で洗い流せることもありますが修理や部品の交換が必要な事態にもなりかねません。また汚染したカラムは分離能が悪くなり、分析結果に影響を及ぼし、カラムの買い替えになることも。そのためHPLCで分析するための試料溶液は、フィルターでろ過しなければならないのです。次に、フィルターの選び方をみていきましょう。

HPLC試料の前処理フィルターの選び方

HPLC分析の試料調製で使用する前処理フィルターは、メンブレンフィルターと呼ばれるものです。メンブレンとは「膜」という意味で、フィルターが薄い膜でできています。
試料溶液の前処理で使えるメンブレンフィルターは、さまざまな種類があります。そこで前処理フィルターの選び方を詳しく解説します。

フィルター素材をチェック

フィルターの素材は各社さまざまな素材を販売していますが、代表的な素材4つの特徴を以下の表にまとめました。

素材使用できる溶媒特徴
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)水系/有機系低溶出で低吸着。親水性処理されたPTFEは水系有機系の両方に使える万能フィルター。
PVDF(フッ化ポリビニリデ)水系/有機系汎用性が高い。タンパク質の吸着が少ないのでペプチド分析などに向いている。
PES(ポリエーテルスルホン)水系タンパク質の吸着が少ない。目詰まりしにくいので2段ろ過の1段目に使える。
ナイロン水系/有機系溶出物があるので高感度や低波長分析では避ける。

フィルターの形状

前処理フィルターには、以下の3種類の形状があります。

  • シリンジフィルター
  • 遠心ろ過フィルター
  • 吸引ろ過フィルター

一般的なのはシリンジフィルターです。シリンジにフィルターを装着し、加圧してろ過します。遠心ろ過フィルターは、少量サンプルのろ過や試料数が多い場合に向いています。試料量が多い場合は、吸引ろ過フィルターが有効です。

フィルター孔径

フィルターの孔径(穴の大きさ)は、HPLCでは0.45μm、UPLCやLC/MS用の試料は0.2μmを選びましょう。試料に大きなサイズの不純物が混入しているなら、1μmのフィルターを通してから0.45μmや0.2μmのフィルターを通すと、ろ過性を落とさずにスムーズにろ過できますよ。

膜直径を確認

シリンジフィルターの直径は、25mm・13mm・3mmなどがあります。直径が大きくなるほど詰まりにくくろ過しやすいですが、吸着する場合は初流廃棄量を多くする必要があります。2mL程度の試料量が必要な場合、25mmや13mmのフィルターがよく使われます。

滅菌の有無

通常の環境下で行われることが多いHPLC分析では、フィルターの滅菌は無しで問題ありません。滅菌有のものを使えば、試料溶液を無菌状態にできます。フィルターの滅菌方法には、γ線滅菌やEOG滅菌があります。無菌にする必要がある場合のみ、滅菌有りのフィルターを選びましょう。

HPLC前処理用フィルターメーカーの紹介

HPLCの試料溶液調製時に使用する、フィルターメーカーを3社ご紹介します。3社とも研究者から長年愛されているフィルターメーカーです。フィルター選びに困ったら、まずはこの3社から選んでみるのはいかがでしょうか。

メルク

メルクはドイツに本社を置く、世界的に有名な化学用品・医薬品企業です。メルクは買収を通して大きく成長してきた会社で、2011年にフィルター産業大手であるアメリカのミリポアを買収しました。そのためフィルターと言えば、メルクではなくミリポアというイメージの研究者も多いのではないでしょうか。メルク(ミリポア)のフィルターは、長年世界中のユーザーに使われてきた実績と、高い品質が自慢です。会社名は変わってもフィルターの製品名はそのままなので、馴染みやすいです。

参考:メルク

日本ポール

日本ポール

出典:日本ポール

日本ポールは、アメリカのポール社のグループ会社です。ろ過と分離のエンジニアリングカンパニーとして、フィルターの研究開発や製造販売をしています。試料前処理用フィルターは、HPLC用、UPLC用、HPLC・IC用など幅広い機器に適した製品があります。特にアクロディクスMSシリンジフィルターは、業界初のすべてのロットに保証書がついたフィルターで、安心して使えますよ。

参考:日本ポール 製品情報

ADVANTEC

ADVANTEC(アドバンテック)は、ろ過と理化学機器の専門メーカーです。日本初のろ紙メーカーとして創業したアドバンテックは、日本のろ過技術の最先端を走っています。HPLC前処理フィルターは種類が豊富で選ぶのが難しいですが、ADVANTECのカタログは適用条件が詳細に書かれているので、選びやすいですよ。
参考:ADVANTEC

HPLC前処理フィルターのよくあるトラブルと回避方法

解決策

初めての分析条件で測定する場合、トラブルはつきものです。HPLC前処理フィルターも種類が豊富なので、条件が異なるとこれまでには見られなかったトラブルの一つになります。ここでは、よくある前処理フィルターに関するトラブルを3つ挙げて回避方法もご紹介します。

フィルター吸着により含量低下

試料の含量が想定より低下した結果が得られたら、フィルター吸着が疑われます。フィルター素材と溶媒、測定物質の相性によって、吸着の度合は異なります。
フィルター吸着を防ぐために、まずフィルター素材が合っているかどうか確認しましょう。また少量の吸着であれば、ろ過時に初流廃棄するとフィルターに吸着し切った状態になり、正常な含量が得られることがあります。初流廃棄量や吸着を見極めるには、初流から1mLずつ分取して含量の変化を測定すると把握できますよ。

フィルターが詰まる

ろ過中にフィルターが詰まる原因は以下の2つが考えられます。

  • フィルターに溶媒耐性がなくダメージを受けている
  • 大きな粒子が原因で目詰まりを起こしている

フィルターと溶媒の相性が悪い場合は、フィルター素材を変更してみましょう。目詰まりを起こしている場合は、1段目に大きな孔径のフィルターを通してから目的の孔径のフィルターでろ過してみてください。

ゴーストピークが出る

HPLCチャートにゴーストピークが見られるときは、フィルターの溶出物が原因かもしれません。吸光検出器を使った分析において低波長で測定をすると、フィルター溶出物を拾うことがあります。特にナイロン素材のフィルターは溶出物が出ることがあるので、注意が必要です。
フィルター溶出物由来のゴーストピークを防ぐ方法は、フィルターの素材を変更するか、可能であれば検出波長を変更することです。

HPLC標準試料はフィルターろ過するべき?

疑問

HPLC標準試料は、前処理フィルターでのろ過は必要ありません。なぜなら、標準試料は精製された純度の高い標準物質と、HPLC用の水や溶媒を使っているからです。そのため機器に影響を及ぼす不純物は、ほぼ入っていないのです。よってフィルターろ過はせずに、そのまま注入できます。
ただし、どうしても試料溶液にフィルター由来のゴーストピークが出る場合や、微量の吸着が見られるときは、標準試料と試料溶液の条件を同一にするためにフィルターろ過しても構いませんよ。

HPLC機器に備わっているフィルターについて

HPLC本体にもフィルターがいくつか備わっています。ここではHPLC機器内のフィルターについて、3つを挙げて役割とメンテナンス方法をご紹介します。さらに機器のフィルターに負担をかけない方法とその理由についても解説します。

ラインフィルター

ラインフィルターは、ポンプとインジェクターの間についているフィルターです。移動相に含まれる不純物を取り除く役割をしています。ラインフィルターは消耗品で、定期的に交換する必要があります。これまでと同じ測定条件にもかかわらず、圧力が高くなった場合は、ラインフィルターが詰まっている可能性が考えられます。ラインフィルターが詰まったら工具を使ってラインフィルターを外し、新しいものに付け替えてください。

サクションフィルター

サクションフィルターは、移動相瓶を装着するラインについているフィルターのことです。ラインフィルターと同じく移動相に含まれる不純物を取り除きます。サクションフィルターは移動相が接する最初のフィルターなので、目詰まりしやすいです。流速が一定でなかったり、圧力が不安定だったりする場合、サクションフィルターが詰まっているかもしれません。

詰まっているときはサクションフィルターを取り外し、洗浄液を入れたビーカーに入れて超音波洗浄を実施してみてください。洗浄しても詰まりが解消しない場合は、交換しましょう。

プレカラムフィルター

プレカラムフィルターは、インジェクターの直前に装着するフィルターのことです。ラインフィルターと同じく、移動相に含まれる不純物がインジェクター以降の流路に入らないようガードします。プレカラムフィルターは特に高価なカラムを使用するときに装着しておくと、カラムを大切に使えますよ。

HPLCのフィルターに負担をかけないために

HPLCの内部にはいくつかのフィルターが備わっています。しかし機器を大切に使うためには、使用する溶液は事前にフィルターろ過しましょう。移動相も脱気と不純物ろ過のためにろ過をします。
サイズの大きな不純物が機器内に流れると、詰まりの原因になります。HPLCが詰まると、詰まっている箇所の特定に時間がかかり、測定が遅延することも。自力では直せず業者に修理を依頼することにもなりかねないので、前処理時のフィルターろ過は重要です。

まとめ

まとめ

HPLCの試料溶液調製における前処理フィルターについて、選び方やフィルターメーカーをご紹介しました。フィルターの種類は豊富ですが、試料溶液に合ったフィルターを選ぶことが肝心です。フィルターメーカーに悩んだら、「メルク」、「日本ポール」、「ADVANTEC」から選ぶのはいかがでしょうか。

分析計測ジャーナルでは、前処理フィルター選びに困っているあなたをサポートすることもできますので、お気軽にお問い合わせください。

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分析計測ジャーナルライターバッハ

ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。

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