高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定において、クロマトグラムのベースラインが不安定で悩んでいませんか?
これまでと同じ測定条件なのに、急にベースラインが乱れると驚きますよね。
新しい測定条件において、ベースラインが不安定なら何が原因なのか突き止めて、条件を変更しなければなりません。
この記事では、HPLCのベースライントラブル5つの症状と解決策を詳しく解説します。
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■よくあるベースライントラブル 5つの症状
- ベースラインが下がる/凸凹になる
- ベースラインが上がる/波打つ
- 定期的なノイズが出る
- ノイズが大きい
- 針状のノイズが出る
安定したベースラインを出せるよう、トラブルを解決していきましょう。
正常なHPLCのベースラインとは?
HPLCのクロマトグラムのベースラインとは、ピークの間の信号がない部分のことです。
正常なベースラインは直線になります。
しかし機器の状態や周辺環境の影響により、ベースラインが安定しないことがよくあります。
不安定な状態のベースラインでは、試料ピークが出ても正しく測定ができません。
原因を特定し対処すると、ベースラインは安定しますよ。
よくあるベースラインのトラブル5選!安定化する方法も紹介
HPLCのクロマトグラムでよくある、ベースラインのトラブルを5つ挙げました。
それぞれの原因と対処法を詳しく解説します。
- 測定中に急にベースラインが急激に下がる
- ベースラインが凸凹になる
原因
- 早い保持時間に1回出ている場合は試料溶液由来のピーク
- 凸凹になる場合は移動相ラインの切り替えによるピーク
試料注入後メインピークが出る前に下がるピークは、試料溶液由来の可能性があります。
試料溶液の調製に使っている溶媒や、試料の添加物や不純物が原因です。
ベースラインが凸凹になるのは、移動相のラインを切り替えているときに起こりやすいです。
配管に気泡が残っていたり脱気が不十分だったりすると、凸凹のベースラインになります。
確認方法と対処法
- ブランクを注入し同じピークが出るか
- 移動相を注入し同じピークが出るか
- 何も注入せずに移動相だけを流して同じピークが出るか
ブランクの注入で正常なピークが出れば、試料の不純物ピークです。
移動相の注入で正常になれば、試料溶液の溶媒ピークです。
試料溶液の溶媒には、できるだけ移動相に近い組成のものを使用してください。
何も注入せずにベースラインが凸凹になる場合は、保持時間を確認してください。
移動相のラインを切り替えている時間に該当しませんか?
配管に気泡が入っている場合、安定するまでしばらく送液してください。
移動相の脱気が不十分なら、再調製しましょう。
ベースラインが上がる/波打つ
- ベースラインが徐々に上がる
- ベースラインが波打つ
- 不定期に上昇する
原因
- エアコンの風
- カラムオーブンの温度ぶれ
- 検出器の温度ぶれ
ベースラインが上がったり波打ったりするのは、測定環境の温度が関係していることが多いです。
RI(示差屈折)検出器での測定の場合、温度変化には特に気をつけてください。
検出器に直接エアコンの風が当たっていると、検出器の温度がぶれやすいです。
カラムオーブンが壊れている場合や、カラムオーブンの扉が開いた状態で温度が一定に保てないときも、検出器に流れる移動相の温度が変化するので、ベースラインが安定しません。
確認方法と対処法
- エアコンの風向きを確認する
- カラムオーブンの温度をチェック
- 検出器の温度をモニタリング
ベースラインが波打つ場合、ブランクの注入や移動相のみの送液でも同じ現象になります。
検出器近くにエアコンの風を感じる場合は、風向きを変えるかエアコンを止めて測定してみてください。
カラムオーブンや検出器の温度も、安定しているかどうか確認しましょう。
測定中の温度変化をモニタリングしておくのがおすすめです。
温度設定を正しくしてもベースラインが改善しない場合、機器が故障している可能性があります。
専門業者に修理の依頼をしてくださいね。
定期的なノイズが出る
- 等間隔なノイズ
- スパイク状のノイズ
原因
- ポンプの脈流
- 気泡
HPLCの種類によってはポンプの脈流が大きく、ノイズがベースラインに出てくることがあります。
スパイク状のノイズは、検出器を通過する気泡の可能性が高いです。
確認方法と対処法
- 送液を止めて同じ現象が起こるか
送液を止めると現象が収まることがあります。
機器を変えて測定するか、ポンプの修理を依頼しましょう。
検出器に気泡が入っている場合は、送液を続けて気泡を出してください。
ノイズが大きい
- 不定期なノイズ
- ノイズが上下する
原因
- 検出器のセルが汚れている
- 光源が弱っている
- 移動相の吸収
- カラムが汚れている
- クロマトグラムを拡大しすぎている
- 試料溶液の濃度調製ミス
ベースラインのノイズが大きい場合の原因は、さまざまです。
これまでと同じ条件で測定しているのにもかかわらずノイズが大きい場合、検出器やカラムについた汚れが溶出していたり、検出器の光源が弱っていたりする可能性が大きいです。
新しい条件で測定している場合は、クロマトグラムの倍率を誤っていたり、試料溶液の濃度が薄すぎたりすることもあります。
UV検出器を使っており測定波長が低波長なら、移動相の吸収も考えられます。
確認方法と対処法
- 送液を止めて確認
- ブランクを注入
- 検出器ランプの累積使用時間を確認
- 測定条件を再チェック
送液を止めてベースラインが安定すれば、検出器が問題です。
セルが汚れていたり、ランプが弱っています。
セルの洗浄をするか、ランプを交換してください。
検出器に異常はなく、ブランクを注入するとノイズが出る場合は、カラムが汚れていることが原因です。
カラムの洗浄をするか、別のカラムに取りかえてみてください。
新しい条件での測定の場合、検出波長を再検討し試料溶液の濃度もチェックしましょう。
針状のノイズが出る
原因
- 気泡
- カラムの温度が移動相の沸点以上
針状のノイズが出る原因は、気泡です。
カラムの温度を上げすぎており、移動相の沸点を超えている場合も気泡が発生しノイズとして検出されます。
長期間機器を使用しておらず、流路が乾燥し始めている場合も気泡が入りやすいです。
確認方法と対処法
- カラムオーブンの温度を確認(20℃~45℃程度ならOK)
- 移動相を脱気して再接続
- しばらく送液してベースラインの変化を確認
移動相にメタノールを使用している場合沸点が低いので、カラム内で気泡が発生しやすいです。
カラム温度を45℃以下に変更してください。
移動相の脱気が不十分で気泡が混入している場合、移動相を超音波やアスピレーターにかけて脱気しましょう。
ベースライントラブル|まとめ表
これまでに紹介した5つのベースライントラブルの解決方法を、下の表にまとめました。
原因を一つずつ探って、適切な対処をしましょう。
ベースラインの形状 | 原因 | 確認方法 | 対処法 |
下がる/凸凹 | ・試料溶液由来 ・移動相の切り替え | ・ブランクの注入 ・移動相の注入 ・送液のみ | ・試料溶液の溶媒を変更 ・試料溶液をろ過 ・機器が安定するまで送液 ・移動相を再調製 |
上がる/波打つ | ・エアコンの風 ・カラム温度のブレ ・検出器温度のブレ | ・エアコンを止める ・カラムオーブンや検出器の温度をチェック | ・エアコンの風向きを変える ・機器が故障して温度が一定に保てないなら修理 |
定期的なノイズ | ・ポンプの脈流 ・気泡 | ・送液を止める | ・脈流の少ない機器で測定 ・機器が安定するまで送液 |
ノイズが大きい | ・セルの汚れ ・光源が弱っている ・移動相の吸収 ・カラムの汚れ ・測定法の設定ミス | ・送液を止める ・ブランクの注入 ・ランプ累積使用時間を確認 ・測定条件の再確認 | ・セルを洗浄 ・ランプを交換 ・カラムを洗浄 ・測定条件の再検討 |
針状のノイズ | ・気泡 ・カラム内で沸騰 | ・カラム温度を確認 ・移動相を確認 | ・カラムオーブンの温度変更 ・移動相の脱気 ・機器が安定するまで送液 |
定期的なメンテナンスでベースラインの異常は避けられる
HPLCは定期的なメンテナンスをすることで、ベースラインのトラブルは避けられることもあります。
HPLCの検出器にUV検出器やPDA検出器を使用している場合、光源のランプが劣化するとベースラインが安定しません。
ランプには寿命があり、累積の点灯時間を超えるとノイズが大きくなることがあります。
定期的なメンテナンスを専門業者にお願いしていれば、点検のたびにランプの状態をチェックしてくれますよ。
点検して少しでもランプが弱っていれば交換をしてくれるので、ノイズが大きくなって測定できないという事態を避けられます。
メンテナンスを専門業者にお願いするなら、保守契約がおすすめです。
保守契約では点検時期になると業者から連絡が届くので、点検忘れの心配がありません。
ベースラインが乱れて測定ができなくなると、研究が遅れる恐れがあります。
HPLCのコンディションを良好に保ち、測定トラブルを避けましょう。
参考:アフターサービス
まとめ
HPLCのクロマトグラムでベースラインが不安定になる5つの症状を紹介し、それぞれの対処法を解説しました。
ベースラインが乱れる原因は、大きく分けて次の4つです。
- 気泡などの不純物
- 機器の汚れ
- 機器の周辺環境
- 検出器の不調
検出器の不調には、ランプの寿命が関係していることがあります。
事前にトラブルを回避するには、定期的な機器のメンテナンスが必要です。
専門業者と保守契約を結び、メンテナンスをお願いすればベースライントラブルを避けることもできます。
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ライター:バッハ
大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。
さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。
幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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