研究の一環でフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を導入してみようと思っているけど、実際どんなことに使えるかイメージできていない、このような悩みを抱えている方は少なくありません。
とはいえ、じっくり調べる時間もあまりない…
決めるのに時間をかけたくない…
そんな忙しい研究者のために本記事では、FTIR分析の原理から付属品までわかりやすくご紹介していきます。 これさえ見れば、FTIR分析の基礎が把握できる!そんな内容となっております。
ぜひ最後まで見ていただき、研究の参考にしていただけると幸いです。
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フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)とは?
FTIRとは、フーリエ変換赤外分光光度計( Fourier Transform Infrared Spectroscopy,FTIR)のことで、主に有機化合物の構造推定(定性)を行う分析装置です。
赤外分光法を行う装置として、ひと昔前まで主流だったのが回折格子を用いた分散型赤外分光光度計です。その後、技術の進歩とともに、レーザ光による波数モニタ・移動鏡を有する干渉計・コンピュータによる電算処理部を有するフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)が現在の主流となっています。
汎用性が高く、操作が容易なことから、世界中のラボにおいて重要な分析法となっています。最小限のサンプル前処理で定性および定量情報がすばやく得られるのも、大きな特長です。
(引用元:株式会社島津製作所「フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)」、アジレント・テクノロジー株式会社「FTIR分光分析法の基礎」)
FTIR(フーリエ変換赤外線分光法)の原理
FTIRは、試料に赤外光を照射し、分子に一部吸収されたエネルギーの記録を取ることにより試料を定性や定性する分析することができます。
分子は、赤外光が当たると振動が引き起こされます。
この時の振動数は分子ごとに異なり、この振動に必要なエネルギーと赤外光のエネルギーが一致すると赤外光が吸収されます。
これをインターフェログラムといいます。
インターフェログラムを全て記録し、横軸を波数(波長)にしてまとめてグラフにしたものが、赤外スペクトルと言われるものです。
赤外スペクトルは各物質ごとにパターンが決まっていて、
そのパターンと照らし合わせて、試料を同定していきます。
複数の成分が混ざっていたり、試料が劣化していたりすると、
スペクトルが混在しているため、解析していく難易度が上がっていきます。
縦軸の吸光度は物質の濃度や厚みに比例するため、ピークの高さや面積から定量分析を行うことも可能です。
(引用元:株式会社島津製作所「フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)」、JASCO日本分光「FTIRの基礎」)
従来の分散型の分光法との違い
分散型赤外分光光度計では、分散素子によって入射光がスペクトル成分に分割され、各成分が 1 つずつ個別に測定(「スキャン」)されるのに対し、FTIR では、光のすべての周波数が同時に測定されます。その後、フーリエ変換と呼ばれる数学的変換によって、IR スペクトルが取得されます。
FTIRは高感度、高分解能で高速に測定できる分析手法として、広帯域の赤外スペクトルを測定する場合や、複雑な混合物の中から物性を同定する場合など応用範囲が広まっています。
(引用元:アジレント・テクノロジー株式会社「FTIR分光分析法の基礎」,ケイエイブイ株式会社「FTIRとは」)
特徴と用途
異物分析などの不良解析においてFTIRを用いた分析は簡便で大変有効な方法であることから薬学、農学、生物学、ガス分析、鑑識など幅広い分野で活躍しています。有機物から無機物までさまざま形状や状態の試料を定性定量することが可能です。
FTIRには赤外顕微鏡法や1回反射ATR法など、多種多様な測定方法やアクセサリーがあり、分析対象や目的に応じた測定方法、アクセサリーの選択は良好なスペクトルを得るために大変重要です。
医薬品
FTIRは世界各国の薬局方で標準化された分析方法として、製薬業界で広く使用されています。固体や液状の医薬品の成分の濃度測定ができ、研究開発や品質管理の用途として使用されています。
FTIR分析装置メーカーでは薬局方で定められた基準に準拠した仕様・プログラムを提供しています。
食品
食品に混入した異物の成分分析を行い、異物の特定や混入経路を調査する用途として使用できます。
油分分析
エンジンオイルや潤滑油に含まれる炭化水素の結合は赤外線領域に強い吸収スペクトルを持ちます。FTIRを使うことで油に含まれる成分を定量測定し、例えばオイルの劣化や状態などを見分けることが可能です。
ガス分析
各分子固有の赤外線領域の吸収スペクトルを選択することで、共存する他のガスや水の干渉を受けずにガス計測することが可能です。FTIRは広い赤外線領域を包括できるため、複数ガスの同時測定・モニタリングに適しています。
(引用元:株式会社島津製作所「FTIRによる異物分析 -異物スペクトルの扱い方-」JASCO日本分光「FTIRの基礎」,ケイエイブイ株式会社「FTIRとは」)
測定方法①(透過法)
FTIRには、大きく分類すると2つの測定方法があります。
その2つの分類からさらに細かい方法がありますので、その種類と特徴をまとめていきます。
透過法からご紹介しています。
透過法とは、測定試料に光を照射し、透過してくる光を検出する方法である。
光学系のイメージを上記に示した。試料を光が透過するため、試料は薄いいことが望ましい。
光源から出た光は大気、試料、試料台を透過して検出器で検出される。このため、大気、試料台の吸収は余分である。このため、あらかじめ大気、試料の吸収を測定しておき(このデータをバックグラウンドという)、試料の測定の際に補正する。特に大気中に含まれる二酸化炭素、水は赤外領域に吸収を持つため、試料のデータと混同しないようにしなければならない。
(参考引用:FT-IR 分析における測定方法 - 福島県)
KBr(臭化カリウム)錠剤法
KBr(臭化カリウム)錠剤法は、最も基本的な測定手法で様々な試料、分析目的に用いることができます。主に固体試料を測定するための測定手法です。
錠剤法はハロゲン化アルカリが可塑性を持ち、圧力を受けると赤外領域で透明な板になるという性質を利用していま す。錠剤用に用いられるハロゲン化アルカリとしては臭化カリウム(KBr)が最も一般的で、塩化カリウム(KCl)やヨウ化セシウム(CsI)が用いられることもあります。
第十五改正日本薬局方において錠剤法は、
「固体試料1~2mgをめのう製乳鉢で粉末とし,これに赤外吸収スペクトル用臭化カリウム又は塩化カリウムを0.10~0.20を加え、湿気を吸わないように注意し、速やかによくすり混ぜた後, 錠剤成型器に入れて加圧製錠する.」
と記述されています。
錠剤を作成する際には測定試料に対して臭化カリウムをおよそ100倍程度加えることが必要とされています。
潮解性があり水分の影響を受けやすく、また塩酸塩を測定する際にはイオン交換反応などがあるため注意しなければなりません。これらの点に留意していただければさまざまな試料を測定することができる測定法です。
(参考引用:株式会社島津製作所「FTIR測定法のイロハ -KBr錠剤法-」)
ヌジョール法
この方法は試料調製が容易な粉体試料の測定法の一つで、屈折率がほぼ等しい液体に試料を分散させて赤外スペクトルを測定する方法です。 分散させる液体としては赤外領域で吸収が少なく、不揮発性の流動パラフィン(ヌジョール)が一般に用いられています。
試料の調製法は,試料約10mgを乳鉢で微粉砕し,そこに流動パラフィンを1〜2滴滴下してよく混合し,試料を流動パラフィンに分散させます。 これを液体セル(KBr結晶板など)に塗り付け,もう一枚のセル板で挾んで測定します。
(参考引用:株式会社島津製作所「粉体試料の測定法」)
液膜法
液体の透過測定では、液体セル、液体用気密セル、固定セルの3種類のセルが用いられます。
液体試料を1枚の窓板上に数滴滴下し、気泡が入らないように注意しながらもう1枚の窓板で挟み込みます。これにより2枚の窓板の間に液体試料の膜(液膜)ができるので、透過測定することで膜の厚さに応じた吸収強度の赤外スペクトルが得られます。
試料の吸収強度が小さい場合には窓板の間にスペーサを挟むこともあります。このような分解可能なセルは窓板を洗浄することが容易なので、粘性のある試料や分解して洗浄しなければ汚れが落ちにくいような試料の測定に適しています。
その反面、ネジによる固定が一定ではないために測定毎にセルの厚さが変わることから、定量分析には不向きと言えます。また挟んだ液体は徐々に揮発していきますので、揮発性が高い液体の測定には注意が必要です。
その他、粉末を測定する手法である ヌジョールペースト法にも使用可能です。
(参考引用:株式会社島津製作所「FTIR測定法のイロハ -液膜法-」)
ガス測定
一般的には,ガスクロマトグラフ法などを用いておこないますが、ガスセルを用いて赤外分光法により、ガスの定性分析、定量分析をおこなうことができます。
ガスセルに導入した測定対象ガスの赤外吸収スペクトルを測定して、測定ガス特有のピーク波数とそのピーク強度から定性・定量をおこないます。
測定対象ガスをガスセルに導入した時点で、測定をおこなえば、その赤外吸収スペクトルから定性・定量がおこなえるので、前処理なしに短時間で分析が可能です。また、ガスの組成を変化させない赤外線を照射する非破壊分析のため、分析後のガスを繰り返し利用することができます。このため、反応によるガスの組成変化・濃度変化を連続してモニタリングするシステムを構築することも可能です。
このようにガス分析では、赤外分光法は,理想的な測定法のように思えますが、他の電磁波と比べて比較的エネルギーの弱い赤外線を照射して分析するため、他の分析法と比べて、あまり高感度な測定が期待できないこと、物質の分子極性(正確には、分子振動に伴う双極子モーメントの変化量)の強弱に感度が大きく影響を受けるため、分析できるガスと制約や感度差があるなどの欠点もあります。
(参考引用:株式会社島津製作所「ガス分析」)
測定方法②(反射法)
次に、反射法の種類と特徴についてです。
ATR法
簡便かつ幅広い種類の試料を訂正できる方法がこのATR法です。
非常に汎用性が高く、よく使われる測定方法の1つです。
赤外光がプリズム内で全反射する際に生じる、試料への光のもぐり込みを利用した反射測定法です。試料を挟んで、プリズムに密着させるだけで測定可能です。酸、アルカリ溶液を測定する場合は、腐食しないダイヤモンドプリズムを選択する必要があります。
様々な試料に使える方法ですが、硬い試料や表面がざらざらとしている試料に関しては、プリズムを傷つけてしまったり、密着がしづらいため、測定が困難になってしまいます。そう言った場合は、他の測定方法を検討しましょう。
(参考引用:株式会社島津製作所「ATR法のイロハ」)
拡散反射法
拡散反射法とは、粉体試料に光を照射して、粉体表面で正反射する光と、試料内部に入り込み透過と反射を繰り返し、再び表面に出てくる拡散反射光(散乱光)があります。このうち拡散反射光を用いて粉体の赤外スペクトルを得るのが拡散反射法です。
一回反射のATR法の普及とともに、固体、粉体、液体など様々な形状の試料が簡便に測定できるようになりました。しかしながら、硬くて表面形状がザラザラとした固体や粉体の測定では、試料とATRプリズムの密着性が低いため、良好な赤外スペクトルを得ることが困難な場合もあります。
拡散反射法は、表面形状が粗い固体や粉体の測定に適した手法です。
錠剤を作る必要がないため前処理時間が少なくすみ、確認試験の方法としてもよく用いられています。この手法は試料表面への結合や吸着物質に対する知見が透過法に比べて多く得られる特徴もあります。
(参考引用:株式会社島津製作所「FTIR測定法のイロハ -拡散反射法,新版-」)
正反射法
正反射法は、金属基板上の膜や平らな板状樹脂などを前処理なく測定できる簡便な測定手法です。平均入射角は10度です。
試料面に対して光をある角度で入射させるとき、入射角と等しい角度で反射される光を正反射光と呼びます。この正反射光から得られる赤外スペクトルを正反射スペクトルと言います。
コーティング物の厚さが1〜2μm 以上ある場合は,正反射法で測定します。
測定方法は、コーティング物のない金属板がある場合、金属部分でバックグラウンドを測定します。そのような金属板がない場合は、付属のアルミニウムミラーでバックグラウンドを測定します。 試料は、試料面(コーティング物部分)を下に向けてサンプル測定を行なうだけなので、簡単に再現性よく測定でさます。 そのため,すでに厚さのわかっているコーティング物試料のピーク高さ・面積を用いて検量線を作成し、コーティング物の膜厚を定量することも可能です。
(参考引用:株式会社島津製作所「金属板上コーティング物の測定法」、「FTIR測定法のイロハ -正反射法,新版-」)
高感度反射法
コーティング物の厚さが,数μm 以下の場合に使用します。 数nm 〜10nm と薄い膜を測定する場合には,これらの高感度反射測定装置にグリッド偏光子を組み合わせて,平行偏光で測定します。
平均入射角が70度で,遮光板を取り付けると75度になります。
厚いコーティング物(数μm 以上)の試料を,高感度反射法で測定すると,ピーク波数がずれたり,スペクトルが歪んだりすることがあります。 また,無機物の場合には,屈折率の異常分散現象により,透過法と比較してピーク波数が異なることがありますので,スペクトルの解釈には注意が必要です。
(参考引用:株式会社島津製作所「金属板上コーティング物の測定法」、「FTIR測定法のイロハ -正反射法,新版-」)
FTIRを販売しているメーカー一覧
これまで、FTIRとは?について書いていきました。
この章では、実際に販売しているメーカーと機器を一覧にしていきます。
検討していくヒントにしていただけると幸いです。
株式会社島津製作所
島津製作所からは3つのFTIRが出ています。
IRSpirit
持ち運びできるコンパクトなボディが特徴です。
2018年度レッドドットデザイン賞を受賞しています。
誰でも簡単にスタートすることができるモデルになっています。
商品情報:https://www.an.shimadzu.co.jp/ftir/irspirit/index.htm
IRAffinity-1S
高いSN比と分解能をもち、光学素子のメンテナンスの省力化や装置サイズのコンパクト化も実現しています。また、異物解析を強力にサポートする異物解析プログラムと受入検査や出荷前検査などに有効な日本薬局方プログラムを標準装備しました。
商品情報:https://www.an.shimadzu.co.jp/ftir/affinity/iraf.htm
IRXross
IRXrossはミドルクラスFTIRでありながら、ハイエンドクラス並のS/Nを実現。1分積算でP-P値 55,000:1以上のクラス最高レベルの低ノイズを可能に。
試料室上にサンプルの無い状態でBKG・サンプルを連続で測定し、100%Tラインを取得。
水蒸気のピーク、二酸化炭素のピークを除くと、ノイズ量(P-P値)でわずか±0.005%Tで、ノイズの少ないデータが取得可能です。
商品情報:https://www.an.shimadzu.co.jp/ftir/irxross/index.htm
IRTracer-100
干渉計や検出器の性能を向上させ、クラス最高の高感度を実現すると共に,高速な反応追跡を実現しました。
LabSolutions IR 異物解析プログラムを組み合わせることで、微小・微量の試料でも、素早く、簡単に、美しいデータの測定と解析ができます。
さらにネットワークに接続し、特に製薬業界などでニーズの高い、ラボ全体のデータやユーザーの一元管理が可能です。
商品情報:https://www.an.shimadzu.co.jp/ftir/irtracer/index.htm
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社
Nicolet Summit
フィルム、粉末、液体などどのような形状でもATRで測定ができます。
タッチスクリーン、モニター、ノートPCの3つからオプションを用途や環境に合わせて選ぶことも可能です。
商品情報:https://www.yamato-net.co.jp/product/detail/10950/
Nicolet iS20
誰もが簡単に使える簡単な操作性で、高感度な分析が可能です。
商品情報:https://www.yamato-net.co.jp/product/detail/10951/
Nicolet iS50
高感度・高速スキャン性能を装備し、長寿命、高安定が特徴のFTIR。
干渉計・光源を10年保証しています。
商品情報:https://www.yamato-net.co.jp/product/detail/10952/
日本分光株式会社
FT/IR-4000 シリーズ
低ノイズ電気系による高感度化およびDSP技術を用いた高精度な移動鏡制御と、コーナーキューブミラーによる安定性の向上により短時間で高品位のスペクトルが得られます。 コンパクトな筐体のため設置場所をとらず、ルーチン分析に適しています。
商品情報:https://www.jasco.co.jp/jpn/product/FTIR/lineup.html
FT/IR-6000シリーズ
FT/IR-4000シリーズの上位機種として感度、分解、拡張性を追求し、数々の特長を有しています。
商品情報:https://www.jasco.co.jp/jpn/product/FTIR/lineup.html
株式会社パーキンエルマージャパン
Spectrum Two+
高機能ながらもコンパクト。サンプリング機能と携帯用途向けオプションを備え、研究室だけでなく屋外の現場環境であっても分析が行えます。
一体型タッチパネル採用で、直感的で使いやすいインターフェースになっています。
商品情報:https://www.perkinelmer.co.jp/ft/tabid/591/Default.aspx
Spectrum 3シリーズ
1台で3つのレンジ(NIR-MIR-FIR)をカバーしています。
アクセサリの豊富さにより、さまざまな状態の分析に対応することができます。
商品情報:https://www.perkinelmer.co.jp/ft/tabid/592/Default.aspx
ブルカー・オプティクス
ALPHA II
設置面積が A4 用紙 1 枚分という、非常にコンパクトなモデルとなっております。化学分析に使用され、原材料の受入検査をはじめとする品質管理や着目成分の定量分析などが可能です。統合型タッチパネルPCをオプションでつけることができ、誰でも簡単に操作することができます。
INVENIO®
品質管理を目的とした日常的な分析から研究開発の分野における高度な測定まで、広範な目的に適合できるよう設計された1台です。
オプションの一体型タッチ PC はきわめて直感的に使用できるため、FT-IRの初心者からエキスパートまでをサポートすることができます。
まとめ
FTIR分析の基礎をご紹介していきました。
特徴から測定方法、実際の機器を見ることで理解が深まったのではないでしょうか?
これをもとに、ぜひ研究に合わせてFTIRを導入し、分析の幅を広げより正確に定性できる環境を作り上げてみてください。
さらに詳しい内容や、実際に導入する際に気になる点などがありましたら、それぞれのケースに合わせてご対応をすることが可能です。
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些細なことから導入のサポートまで対応可能ですので、
お困りの際は、こちらからお問い合わせください↓
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