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原子吸光分光光度計(AA)メーカー別、価格比較

2022.06.30 (Thu)

  • AA

記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

原子吸光分析法で金属濃度を測定する

試料中に存在する金属濃度を把握したいだけだから、と思われるかもしれません。
しかし、基本的な測定原理をしっかりと把握していないと、致命的な過ちを犯すことがあります。

装置を使用するあるいは導入して、いざ測定あるいはデータ解析となったときに期待していたことと違うというようなミスマッチを防ぐことができます。市販電化製品のように、簡単には返品ということはできませんので、ご一読していただければと思います。

原子吸光分析法にはどのような種類があるのでしょうか?

原子吸光(atomic absorption:AA)分析法には大別すると、3種類の手法があります。これらの手法は元素を原子化する方法により区別され、

  1. 1.フレームAA法(高温フレームにより原子化する手法)
  2. 2.電気加熱炉AA法、黒鉛炉AA法
    (電気的に加熱した炉あるいは黒鉛炉において原子化する手法)
  3. 3.冷蒸気AA法、水素化物発生AA法
    (加熱することせずに原子化する手法)

があります。
現在市販されているAA分析装置には、上記の分析手法の1種類に特化したモデルと複数の手法を1台の装置で行うことができるモデルがあります。
それでは、これらAA分析装置は、どのように使い分けられるのでしょうか。

AA分析法を適用する試料中に存在する金属濃度を正確に測定するためには、どのモデルを選択することがベストなのでしょうか。
ここではAA分析装置を使用あるいは選定する際の1つの判断材料となることを期待し、AA分析法について話を進めたいと思います。

これを知らないと装置選択できません~AA分析装置の測定原理

アルコールランプやガスバーナーなどの炎の中に溶液を付着させた白金棒を入れると、その溶液中に含まれた元素種によりさまざまな色を発する実験を覚えていますか?
これは、金属種に由来する炎色反応を観察しました。

一方、元素を構成する原子レベルまでズームアップして、元素を原子蒸気にまで変化させると、その元素に特有な波長の光を吸収する性質を見ることができるようになります。この吸光現象を利用したのがAA分析法であり、機器分析装置としたものがAA分析装置です。

原子蒸気を形成させるプロセスには、前述のように3種類あるので、AA分析装置にも3種類のタイプが存在します。
このような話をすると、3種類の分析方法を適用しようとすると、3台も分析装置が必要なるのかと考えがえる方もおられるかと思いますが、分析機器メーカーの努力により、1台の装置で3種類の分析手法を適用できるモデルもあります(装置本体にオプション部品などを接続することにより、これらのAA分析法のすべてを実施することができるようになっているものもあります)。

一般的なAA分析装置の装置概略

前述したようにAA分析装置は、分析機器メーカーの努力によりさまざまな機能や技術が搭載されています。各メーカー特注の特長を活かしたAA分析装置が数多くラインナップされていますが、AA分析装置の構成部位は、

  • 光源部
  • 試料導入部
  • 原子化部
  • 分光器
  • 検出器

といった主要部位により構成されています。

[光源部]
測定原理の項でご説明させていただいたように、AA分析法では測定対象元素に特有な吸光現象をモニターすることになりますので、測定する元素の光源(中空陰極ランプが多用されています)が必要となります。
たとえば、Naを測定するときには、Naの中空陰極ランプが必要となります。
近年、連続スペクトルを有する光源を搭載したAA分析装置が開発され市販されています。
この装置の場合は広い波長域をカバーするランプを光源とするため、測定元素ごとのランプが必要ないということになります。

[試料導入部]
3種類のAA分析法により、異なる構造を有しています。
フレームAA法:検体を細かい霧状にする構造を有し、フレームを規制する燃焼ガスと混合するシステム
電気加熱炉AA法:検体を電気加熱炉内に導入する構造
水素化物発生AA法:原子蒸気あるいは水素化物とする反応槽で発生したガスを集める構造

[原子化部]
装置に導入した検体中に存在する測定対象元素を熱エネルギーで原子状態とするのが、原子化部となります。
前述の3種類のAA分析法では、この部位がそれぞれの手法により異なります。

フレームAA法:一般的に、空気-アセチレン混合ガス中に、霧状にした検体を導入して燃焼フレームの熱エネルギーで原子化
電気加熱炉AA法:一般的に、グラファイトチューブ(炭素で成形されたチューブ)に検体溶液を導入し、電気的な加熱による熱エネルギーで原子化
水素化物発生AA法:原子蒸気を石英セルにとどめておくシステム

[分光器および検出器]
AA分析装置では光(スペクトル)現象を測定するため、原子化部で起こった測定対象元素のスペクトルの吸光現象を分光器で正確に他のスペクトルと分離して、これを効率よく検出器に導くように設計されています。
分光器ならびに検出器は、各メーカーによりさまざまな手法ならびに技術が採用されています。

AA法における干渉

AA法がスペクトル分析である故に、分光干渉、化学干渉および物理干渉の影響を及ぼされることになります。
これらの干渉についてAA法について詳述された教科書的な書籍に目を通すと、本項目だけで数ページを割いて説明されています。

今回、記述スペースが限られていますので、詳細については次の機会に譲るとして、干渉の1つである分光干渉注目します。
この分光干渉に対する各装置における干渉除去システムすなわち補正方法が、各メーカーより提供されている分析装置に採用されているので、この干渉除去機能について簡単に触れます。

  • 連続光源バックグランド補正(D2ランプ)法:重水素(D2)ランプのような連続スペクトルを有する光源を用い、バックグランド補正を行う方法
  • 自己反転補正(SR)法:中空陰極ランプに印可する電流値を変えることにより生じる光の自己反転現象を利用してバックグランド補正を行う方法
  • ゼーマン補正法:スペクトル成分を磁場内で分裂させ、測定対象元素のスペクトルのみを得る補正方法

AA分析装置を選択するときの重要なパラメータ

AA分析装置のおおよそのところが見えてきたところで、どのようなAA分析装置を選択したら、目的を達成できるのかを考えたいと思います。
測定したい元素といっても、さまざまなものがあります。
知りたい金属の濃度レベルは、どのくらいでしょうか。

試料は、どのような物理的・化学的特徴を有しているものでしょうか。
環境試料。産業系試料、食品試料それとも生体試料ですか。AA分析装置にも得意、不得手がありますので、

        a.対象となるものが何なのか(試料の特徴)

        b.対象となる金属元素種

        c.対象となる濃度範囲(予想される測定濃度レベル)

        e.測定に供することができる試料容量

などが、AA分析装置を選択するときに重要な項目になります。
フレームAA、電気加熱炉AA(これ以降、このように表記します。)

および水素化物発生AA(これ以降、このように表記します。)
の3種類で何が異なるのでしょうか。

装置選択時のパラメータ~試料の特徴

AA分析装置は基本的に、検体である溶液を装置に導入して、金属元素濃度を測定するものです。したがって、試料が液体あるいは何らかの溶媒(一般的には酸溶液ですが、有機溶媒でも可能な場合もあります)に溶解できるものでなければ、AA分析装置に導入して測定することができません。
しかし、特殊なAA分析装置では、固体試料を直接的に装置に導入して測定することができる分析装置もあります。

意図をもって実験的に調製した試料でない限り、試料中には測定したい元素だけが存在するわけではありません。ここに存在する共存物質ならびに共存元素が、測定対象元素の測定に影響を及ぼすことがあります(マトリックス元素による干渉)。これらの点にも、注意が必要です。

装置選択時のパラメータ~元素種

試料中の測定対象元素を原子蒸気として、原子吸光現象を観察することができるものであれば、測定対象元素となり得ます。
水素化物発生AA法では、加熱することなく原子蒸気を形成させることができる元素あるいは化学反応を利用して水素化物(蒸気)を形成することができる金属元素に限定されます。前者にはHgなどが挙がられ、後者にはAs、Sb、SeおよびTeなどを挙げることができます。

装置選択時のパラメータ~検出濃度範囲

測定できる濃度レベルは、分析手法が同じだとしても、測定者、分析装置、検体調製法ならびに試料の特徴などに大きく影響されるので断言することはできません。
しかし、非常にラフな見方ですが、

フレームAA法:mg/Lレベル
電気加熱炉AA法:μg/Lレベル
水素化物発生AA法:μg/Lレベル

という目安をつけることはできます。
測定対象元素ならびに測定技術により、フレームAA法でも、サブmg/Lレベルまで測定できるものがありますので、あくまでも目安であると言うことを強調しておきます。また、各メーカーより提供されている技術レポートなどを参照されると、注目している元素がどのくらいの濃度レベルまで測定することができるのかをイメージしやすいと思われます。

装置選択時のパラメータ~必要検体容量

測定に供する検体容量は、どのくらい必要なのでしょうか。
もちろん、測定対象元素、分析手法、測定条件ならびに分析装置などに依存するものが大きくなっています。
ここでは、検体容量としての一般的な目安をお示しします。

フレームAA法:数10mL
電気加熱炉AA法:数mL
水素化物発生AA法:数10mL

検体を1回導入することに基づいた測定(一般的な積分時間、読み取り回数など)とした場合の目安です。
もちろん、積分時間や読み取り回数を増減することで検体の導入消費量を減らすことができます。測定結果の精度に影響を及ぼさない限りのパラメータの変更であれば、検体消費量に大きなインパクトを与えるでしょう。

装置選択時のパラメータ~付帯設備

分析装置を選択する際、重要パラメータとなり得ない項目であるかもしれませんが、付帯設備も、AA分析装置を運用するためには、大切な者です。装置本体ではないので、装置の設置環境について整備が見落とされがちになります。

装置を導入する際には、メーカーの担当者から必要な付帯設備などの案内があると思いますが、予算策定時に抜けていることがあるようです。これらの点は、メーカーが提供している設置要件を熟読するようにしてください。
分析装置設置予定場所には少なくとも、これらの点が必要になります。

  1. 分析装置設置場所(装置を設置しても問題のない耐荷重を有している)
  2. 排気ダクト設備
  3. 分析用ガスの設置場所ならびに配管設備(ガスボンベそのものは?)
  4. 電源の確保
  5. 廃液の保管場所ならびに処理方法

標準品は?

AA分析装置の販売メーカーにおけるラインナップ

2020年度実績における、AA販売実績の上位5メーカーに着目した、AA分析装置のラインナップを紹介します。各装置の特長などは、メーカー提供のカタログなどをご参照ください。
また、価格については税抜き価格で表示し、装置本体のみの価格となっています。

20年度AA販売実績1位:日立ハイテクサイエンス

ZA3000シリーズを展開中。
価格は、日立ハイテクサイエンスのホームページより引用。


ZA3300:フレームAA分析装置(偏光ゼーマン補正法を採用)、470万円~
ZA3700:電気加熱炉AA分析装置(偏光ゼーマン補正法を採用)、780万円~
ZA3000:フレーム/電気加熱炉AA装置(偏光ゼーマン補正法を採用)、990万円~

20年度AA販売実績2位:島津製作所

AA-7800シリーズを展開中。詳細は島津製作所WEBサイトより引用。


AA-7800F:フレームAA分析装置(基本システム、D2補正および自己反転法を採用)
AA-7800F/AAC + ASC-7800:フレームAA分析装置(オートバーナシステム、D2補正および自己反転法を採用)

AA-7800G+ASC-7800:電気加熱炉AA分析装置(オートサンプラシステム、D2補正および自己反転法を採用)

AA-7800+ ASC-7800:フレーム/電気加熱炉AA分析装置(手動デュアルアトマイザシステム、D2補正および自己反転法を採用)

AA-7800/AAC+ ASC-7800:フレーム/電気加熱炉AA分析装置(自動デュアルアトマイザシステム、D2補正および自己反転法を採用)

20年度AA販売実績4位:サーモフィッシャーサイエンティフィック

iCE3000シリーズを展開中。価格は、株式会社薬研社のホームページより引用。
iCE3300:フレームAA分析装置(D2補正を採用)、335万円~
iCE3400:電気加熱炉AA分析装置(ゼーマンおよびD2補正を採用)、785万円~
iCE3500:フレーム/電気加熱炉AA装置(D2補正を採用)、932万円~

20年度AA販売実績3位:パーキンエルマージャパン

PinAAcleシリーズを展開中。価格は、株式会社池田理化のホームページより引用。

500 Touch:フレームAA分析装置(D2補正を採用)、359万円から
900F:フレームAA分析装置(D2補正を採用)、600万円~
900Z:電気加熱炉AA分析装置(並行交流ゼーマン補正を採用)、1000万円~
900H:フレーム/電気加熱炉AA装置(D2および並行交流ゼーマン補正を採用)、1000万円~

20年度AA販売実績5位:アジレント・テクノロジー

200シリーズを展開中。価格は、和研薬株式会社のホームページより引用。
240FS:フレームAA分析装置(D2補正を採用)、478.1万円~
240Z:電気加熱炉AA分析装置(ゼーマン補正を採用)
280FS:フレームAA分析装置(D2補正を採用)
280Z:電気加熱炉AA分析装置(ゼーマン補正を採用)

原子吸光光度法の測定原理、試料と測定対象元素との関係が大切です

原子吸光光度法に限りませんが測定手法の原理を把握していないと、

・せっかく準備
・調製した検体が装置に導入できない
・測定対象元素の光源がない
・検体容量が足りなくて、再測定ができない
・測定結果がおかしい

などのトラブルが起こってしまいます。
試料の物理的・化学的特徴ならびに原子吸光光度法をよく理解した上で、測定を行うことが大変重要なポイントとなるでしょう。

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