
「光学顕微鏡では見えない細かい構造まで観察したい」「でも、据え置き型のSEMは高額で導入が難しい…」
そんな悩みを持つ方に注目されているのが、コンパクトで使いやすい卓上SEMです。最近では、高分解能や元素分析機能を備えた高性能モデルも登場しており、研究開発や品質管理の現場でも導入が進んでいます。
この記事では、卓上SEMの基本的な仕組みや光学顕微鏡との違いに加え、主要メーカー4社の特長と価格帯を比較。さらに、導入前に押さえておきたい選定ポイントもわかりやすく解説しています。
分析計測ジャーナルでは、卓上SEM選びに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
卓上SEMとは?
卓上SEM(Scanning Electron Microscope)は、電子線を試料に照射し、発生する二次電子や反射電子を検出して高分解能な画像を得る装置です。従来の大型(フロア型)SEMと比較して、卓上SEMはコンパクトで特別な設置工事が不要な場合が多く、導入コストが抑えられ、操作性も簡便になっている点が大きな特徴です。
卓上SEMの主な特徴は下記の通りです。
- 光学顕微鏡よりはるかに高い分解能(数十nm~数nm程度)で微細構造を観察可能
- 深い焦点深度により、凹凸のある試料も立体的に観察しやすい
- 低真空機能(オプション含む)により、導電性のない試料や水分を含む試料も前処理を簡略化、または不要にして観察できる場合がある
- 直感的なソフトウェアや自動機能により、専門知識がなくても比較的容易に操作可能
- コンパクトな設計で、実験室や品質管理部門のデスクサイドにも設置しやすい
出典:走査型電子顕微鏡(SEM)とは:測定原理と応用例 | Semi journal
たとえば卓上SEMで半導体材料を観察した場合、上記右側の画像のように観察結果が出ます。試料表面の微細な構造が、ナノメートルレベルの解像度で観察できるので、試料の表面形状や微細構造がわかります。
卓上SEMと顕微鏡の違い
光学顕微鏡と卓上SEMは、観察原理が異なるため、それぞれ得意とする分野があります。主な違いは以下の通りです。
項目 | 光学顕微鏡 | 卓上SEM |
分解能 | 約0.2μm (200nm) | 数十nm~数nm |
観察原理 | 光(可視光) | 電子線 |
レンズ | ガラスレンズ | 電磁レンズ |
焦点深度 | 浅い | 深い |
最大倍率目安 | ~2,000倍程度 | ~200,000倍程度 (機種による) |
試料の前処理 | ほぼ不要 | 導電性処理が必要な場合あり(低真空観察可) |
得られる情報 | 色、形態(表面・透過) | 表面の微細構造(凹凸)、組成(EDS併用時) |
主な用途 | 一般的な観察、材料の粗観察 | 微細構造観察、元素分析、品質管理、研究開発 |
卓上SEMは、光学顕微鏡では見えない詳細な表面構造を観察できます。また卓上SEMにEDS(エネルギー分散型X線分析装置、多くはオプション)を組み合わせると元素分析も可能です。そのため、卓上SEMは材料の品質管理、研究開発、異物分析などに適しています。一方、光学顕微鏡はカラー観察が可能で、より手軽に扱える利点があります。

出典:走査電子顕微鏡(SEM)の原理と応用 | JAIMA 一般社団法人 日本分析機器工業会
上記は顕微鏡と卓上SEMの画像を比較した図です。卓上SEMはより詳細な分析が可能です。一方、光学顕微鏡は手軽で低コストですが、微細な構造や立体的な観察には不向きです。
卓上SEMおすすめメーカー4選
卓上SEMの導入を検討する際、どのメーカーの機種を選ぶかは非常に重要なポイントです。分解能や倍率、試料サイズへの対応、自動化機能やEDSとの連携など、用途に応じて必要なスペックは異なります。ここでは、導入実績の多い主要4社の代表機種を取り上げ、それぞれの特長と価格帯をわかりやすくまとめました。最適な1台を選ぶための比較材料としてご活用ください。
Thermo Fisher Scientific
Thermo Fisher Scientificが提供する卓上型SEM「Phenomシリーズ」は、高性能と操作性を両立した機種です。Phenom XL G2は、CeB₆電子源により長寿命かつ高速起動(約60秒)を実現し、デスクトップSEM最大級の試料室で大型サンプルにも対応。直感的なタッチUIと全画面表示モードで、初心者でも簡単に高品質な観察が可能です。さらに統合型EDSにより、観察と同時に元素マッピングが行えます。
Phenom Pharos G2はFEG電子源を搭載し、最大100万倍・数nmの高分解能でナノ構造の詳細観察に対応。材料・半導体・ライフサイエンス分野など、高精細画像と高速解析が求められる研究開発現場で活躍しています。価格帯はおおよそ1,000万~2,500万円です。
日本電子 (JEOL)
日本電子(JEOL)の卓上SEM「NeoScope™ JCM-7000シリーズ」は、光学顕微鏡からSEMへのシームレスな移行を可能にするZeromag機能を搭載しています。倍率を上げるだけで光学像からSEM像へ自動切り替えされ、試料探索の手間を大幅に削減。さらに、Live Analysis(ライブEDS分析)により、SEM像取得中にリアルタイムで元素マッピングが可能です。
高真空・低真空の切替に対応し、非導電性試料でも前処理を簡略化。多彩な検出器構成やタッチパネル対応の直感的UIも魅力です。長年SEM開発を続ける国産メーカーとして、品質とサポート面でも高い信頼を得ており、価格帯は約500万〜1500万円のエントリー〜ミドルレンジです。
日立ハイテク (Hitachi High-Tech)
日立ハイテクの卓上SEM「Miniscope®TMシリーズ」は、直感的な操作性と高い再現性で、教育現場から品質管理まで幅広く活躍しています。TM4000IIIは、試料の位置調整や倍率設定、画像取得までの操作を「レシピ」として記録・自動実行できる機能を搭載。再現性の高い観察を誰でも簡単に行えます。また、フィラメントモニタリング機能により、電子線源の寿命を常時確認でき、突発的な観察中断リスクを低減します。
上位機種のTM4000PlusIIIでは、レシピ実行時のステージ振動制御や安定動作を強化し、より長時間の連続観察に対応。ユーザーフレンドリーなGUIと充実したヘルプ機能により、初心者でも扱いやすく、教育用途やQA部門での導入にも適しています。価格帯は500万〜1500万円程度のエントリー~ミドルレンジです。
SEC(エス・イー・シー)
SEC(エス・イー・シー)は韓国に本社を構える電子顕微鏡メーカーで、コストと性能のバランスに優れた装置を世界各国へ展開しています。主力製品の「SNE-4500M Plus」は、最大150,000倍の高倍率観察に対応し、微細構造解析から材料評価まで幅広くカバー。5軸可動ステージにより、試料の傾斜や回転を自在に行え、複雑形状や断面の観察にも対応可能です。SE・RE・BSE検出器を標準搭載し、EDSやEBSDといった高度分析オプションにも対応。エントリーモデルながら充実した基本性能を備えており、中小ラボや教育機関にも導入しやすい設計です。価格帯は約500万〜1500万円のエントリー〜ミドルレンジとなっています。
失敗しない卓上SEMの選び方
卓上SEMを導入するときは、本体価格だけでなく、EDSなどのオプション価格、消耗品(フィラメント等)、年間保守契約費用を含めたトータルコストで比較検討します。卓上SEM導入時にチェックするポイントをまとめました。必要な機能と予算のバランスを見極めましょう。
分解能と倍率
観察したい対象に対して十分な分解能と倍率があるかを確認することは、SEM選びで非常に重要です。たとえば、金属表面の腐食状態の観察や樹脂材料の充填剤分散の確認であれば、5,000倍〜30,000倍程度の倍率と数十nmの分解能で十分な場合が多いです。
一方、半導体の配線構造やナノ粒子の粒径測定を目的とする場合は、100,000倍以上の倍率と数nmレベルの高分解能が求められます。目的以上の性能を持つ装置は魅力的ですが、オーバースペックになると本体価格や維持コストが高くなるため、「何を見るか」に応じて適切なスペックを見極めることが、導入コストと実用性のバランスを取る上で重要です。
試料サイズと観察条件(真空度、導電性)
観察対象となる試料の大きさに対して、装置の試料室が十分なスペースを持っているかを確認することが重要です。たとえば、電子基板や加工部品など、厚みや面積のある試料を前処理なしで観察したい場合は、大型チャンバーや広いステージ可動範囲を備えた機種が適しています。
また、非導電性の樹脂やセラミックス、植物組織、食品サンプルなど、水分を含んだり導電性の低い試料を扱う場合には、低真空モードの有無とその性能が重要です。低真空モードを活用すれば、導電性コーティングを施さずに観察できるため、前処理の手間を減らせるほか、試料へのダメージも抑えられます。観察対象の種類や状態に応じて、真空度や試料処理の条件にも注目して機種を選ぶことが大切です。
操作性とメンテナンス
装置を誰が使うのかを踏まえて、操作のしやすさを確認することが大切です。たとえば、初心者や学生が使う場合は、直感的に操作できるソフトウェアインターフェースや、自動フォーカス・自動露光といった補助機能があると安心です。操作性の確認には、実機を使ったデモンストレーションが有効で、導入前に実際の使用感を把握しておくことが推奨されます。
また、長期的に使い続けるためには、メンテナンスのしやすさも重要です。フィラメントの交換や校正作業など、日常的な保守作業がどれくらい簡単に行えるかを確認しましょう。さらに、メーカーや代理店のサポート体制も事前にチェックしておくと安心です。保守契約の内容や修理対応のスピードによって、稼働率や運用コストに大きな差が出ることがあります。
価格と機能
SEMは高額な設備投資を伴うため、価格とコストパフォーマンスを十分に考慮する必要があります。基本的な本体価格に加えて、消耗品やアクセサリー、メンテナンス費用などのランニングコストも考慮することが重要です。たとえば、カソード(電子源)やビームスキャナ、真空ポンプなどの交換部品の費用が予想以上に高くなることもあります。また、試料のコーティングや補助機器(冷却機能、加熱機能など)の有無がランニングコストに影響を与えるため、それらのコストも予算に入れておきましょう。
システムによっては、ソフトウェアや解析機能の充実度にも差があります。高機能な解析ソフトを搭載したモデルは、初期投資は高めですが、長期的には分析精度が向上し、作業効率が改善されることが多いため、トータルコストを考慮して選定することが推奨されます。
まとめ
卓上SEMは、光学顕微鏡では捉えきれないナノレベルの微細構造や凹凸を、電子線を用いて高解像度で観察できる装置です。特に、数十nm〜数nmの分解能や深い焦点深度により、立体的な観察が可能な点は、光学顕微鏡との大きな違いです。
近年の卓上SEMはコンパクトで設置も容易、操作性も高く、特別な知識がなくても扱える機種が増えています。分解能や倍率、試料サイズ、真空機能、操作性、サポート体制、そして導入・維持コストまで、導入時には総合的な視点で比較検討しましょう。
分析計測ジャーナルでは、卓上SEM選びに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
記事をシェアする