異物分析や不良解析、環境分析では、微小な無機物を分析し同定しなければなりません。しかし測定法はさまざまで、どの方法が適しているのか判断が難しいですよね。また測定機器は多くのメーカーから販売されているので、どの機器を導入すべきか悩ましいです。
そこでこの記事では、微小な無機物を分析する方法をご紹介し、おすすめ機器もお伝えします。分析計測ジャーナルでは、無機物分析に関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
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微小な無機物を非破壊で分析できる方法
微小な固体無機物を非破壊で分析できる方法を、2つご紹介します。どちらも原理は似ていますが、得意な元素や感度が異なります。分析したい元素の種類や、すでに所有している機器に応じて最適な方法を選びましょう。
【EDX】エネルギー分散型蛍光X線分光法
EDX(エネルギー分散型蛍光X線分光法)は、微小な無機物をほとんど前処理なしに非破壊で特定できる方法です。試料に電子線を照射し、発する元素特有のX線を検出して同定する原理です。X線の強度の違いで、試料の濃度も求められます。測定可能元素は、周期表でNa(ナトリウム)~U(ウラン)の81種類です。検出感度は高く、数ppmの元素でも分析できます。
EDXは幅広い元素を複数元素も同時に測定できます。観察カメラや電子顕微鏡で表面を観察しながら、特定の場所の無機物が同定でき、異物分析などで活躍する方法です。
EDXについての詳しい情報は、こちらの記事も参考にしてみてください。
【WDX】波長分散型蛍光X線分光法
波長分散型蛍光X線分光法は、Wavelength Dispersive X-ray spectroscopyからWDXと呼ばれます。WDXは試料に蛍光X線を照射し、得られるX線の波長から元素を同定します。EDXはX線のエネルギーを求めるのに対して、WDXはX線の波長を測定する点が異なる点です。WDXは目的の蛍光X線を選択的に測定できるため、分解能と精度がEDXよりもいいのが特徴。測定したい元素の目途がついており、微量ならWDXが最適ですよ。
溶液中の微量な無機物を分析する方法
溶液中の微量な無機物なら、以下の4つの方法があります。
- ICP発光分光分析及びICP質量分析
- 原子吸光法
- イオンクロマトグラフィー
- キャピラリー電気泳動
それぞれ詳しく特徴をご紹介します。
【ICP-AES】ICP発光分光分析/【ICP-MS】ICP質量分析
ICP発光分光分析は、希ガスとハロゲンを除いた約72種類の元素分析ができます。試料にプラズマエネルギーを照射し、元素を励起させイオン化。元素が基底状態に戻るときに発する発光線を検出する原理です。発光線は元素特有のため、未知元素の同定ができます。またその強度から濃度測定もでき、10ppb以下の低濃度でも測定可能です。
ICP-AESに似た手法で、ICP-MS(ICP質量分析)があります。ICP-MSは検出方法がICP-AESと異なり、イオン化したあとの元素を質量分析にて同定・定量する方法です。ICP-MSはICP-AESに比べて低濃度の分析に適しており、pptレベルの測定ができます。しかし原子量が80以下の軽い元素は測定が難しいことがあります。分析したい物質の種類と濃度によって、ICP-AESかICP-MSを選びましょう。
【AAS】原子吸光法
AAS(原子吸光法)は、無機物の定量分析ができる方法です。試料を高温で原子化し、光を照射したのち、その吸収スペクトルを測定します。吸収スペクトルの量から、元素の濃度を求めます。多元素の同時分析は難しいので、ある程度どの元素か目星をつけて測定しなければなりません。
検出濃度はppmオーダーの元素なら精度よく測定できます。測定可能元素は、金属元素の44種類。機器に試料を入れれば10秒ほどですぐに濃度が算出されます。
ICPに比べて装置がコンパクトで価格が安いので、導入しやすい特徴があります。AASは工業排水の分析や河川の水質調査などで活躍している方法です。
【IC】イオンクロマトグラフィー(HPLC)
イオンクロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィー(HPLC)機器で無機物の測定ができます。イオン交換樹脂を充填したカラムに試料溶液を流すと、イオンの価数・イオン半径・疎水性の違いにより成分が分離します。検出器には電気伝導度検出器を用いて、セルを通過する溶液のイオン成分を検出する原理です。
イオンクロマトグラフィーで測定できる物質は、無機の陰イオンと陽イオン。陰イオンと陽イオンの同時分析はできませんが、同じ電荷なら複数種類のイオンが同時分析可能です。さらに価数の異なるFe2+とFe3+のようなイオンも分けて定量できます。
測定可能濃度はppt~ppmオーダーの微量濃度でも、定量定性分析が可能です。イオンクロマトグラフィーは、HPLCがあればイオンクロマトグラフィー用のカラムと検出器で測定できるので、手軽に無機物の分析がおこなえますよ。
【CE】キャピラリー電気泳動
キャピラリー電気泳動は、シリカでできた中空キャピラリー管に緩衝液を満たして、試料をキャピラリーの片方から注入。そして電圧をかけて電気泳動し、成分を分離する方法です。定性分析はもちろん、ピークの面積から定量分析もできます。
分析できるものはイオンクロマトグラフィー(IC)と同じく、無機イオンです。試料量が数nLのみでよく、分離能はICに比べて高いのが特徴です。ICで分析できない超微量なものや、分離しにくいものには、CEを試すのはいかがでしょうか。
無機物ではないかも?微小な有機物の分析は顕微FT-IR
未知物質は無機物であると想定して、さまざまな分析法をおこなっても同定に至らないことはよくあります。そんなときは、有機物の可能性も疑ってみましょう。微小な有機物の分析には、「顕微FT-IR」がおすすめです。
顕微FT-IRは、光学顕微鏡とFT-IRを組み合わせた機器です。光学顕微鏡で微小範囲を観察しながら、特定エリアの未知物質について同定ができます。全反射法(ATR)を使えば、非破壊で分析できますよ。
FT-IRを持っているなら、専用の光学顕微鏡のみを準備すると測定が可能です。光学顕微鏡部分は取り外しが簡単なので、通常のFT-IRとしても使いながら、顕微FT-IRとしても活躍します。
顕微FT-IRについて詳しく知りたいなら、こちらの記事も参考にしてみてください。
微小な物質の分析ができる機器と特徴を紹介
微小な物質を分析できる方法は多く、機器も各メーカーからさまざまな種類が販売されています。今回は高い品質を誇る日本メーカーの、㈱島津製作所製の機器をご紹介します。機器メーカー選びに迷ったら、日本語対応で使いやすく、トラブル時もすぐにサポートが受けられる㈱島津製作所がおすすめですよ。
【EDX】EDX-7200
EDX-7200は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置です。液体・粉末・凹凸のある製品もそのまま機器にセットするだけで、元素分析ができます。横幅460mm、奥行590mmのコンパクトサイズなので、実験室台に置きやすいです。
インターフェースの使いやすさにこだわっており、初めてでも使いやすいです。試料をセットすれば次の操作を指示してくれるので、クリックしたり情報を入力したりするだけ。報告書作成もワンクリックで完了します。
工業製品・医薬品・環境分析など幅広い分野で使えます。EDX-7200は非破壊で微小な無機物の分析をおこなうのに最適です。
【ICP-AES】ICPE-9800シリーズ
ICPE-9800シリーズは、溶液中の微量無機物の分析に最適です。食品分野では微量有害元素分析、医薬品分野では医薬品中の元素不純物分析によく用いられています。
ICPE-9800は高濃度でも機器の汚染を気にせず分析できるので、試料濃度はppbからパーセントまで混在している試料でも、一斉測定できます。試料は水溶液と有機溶媒の両方測定可能です。
改良によりアルゴンガスの消費量が少なくて済み、純度の低い安いアルゴンガスでも使用できます。そのため3年で数百万円のランニングコストダウンも可能です。オプションのオートサンプラーを導入すれば、最大240検体が自動で分析できます。
【AAS】AA-7800シリーズ
AA-7800シリーズは、原子吸光分光光度計(AAS)です。AASは一般的に多元素の同時分析が難しいですが、AA-7800はホローカソードランプが8本あるので、多元素分析ができます。横幅940mmは世界最小レベルで、実験室に導入しやすいサイズです。手動モードにすればバーナの角度を変更でき幅広い試料に対応できます。ガス流量やバーナ高さなどの分析条件はシステムがサポートしてくれるので、初めての測定でも分析法開発が簡単ですよ。
【赤外ラマン分光法】AIRsight
AIRsightは赤外分光法とラマン分光法を同時に測定できる顕微鏡です。赤外測定とラマン測定はクリック1つの簡単操作。2つのスペクトルを重ねあわせて表示もできるので、詳細な解析が可能です。またラマン測定では赤外測定では苦手な無機物の情報取得もできるので、幅広い物質の解析に使えます。2つの機能を持っていながら1台分のスペースに収まる機器サイズです。そのため両方の購入を検討していたり、将来的にラマンも測定したいならおすすめの1台ですよ。
まとめ
微小な無機物を非破壊で分析する方法は、「エネルギー分散型蛍光X線分光法(EDX)」と「波長分散型蛍光X線分光法(WDX)」です。
溶液中の微量無機物の分析には、以下の4つの方法はいかがでしょうか。
- ICP発光分光分析及びICP質量分析
- 原子吸光法
- イオンクロマトグラフィー
- キャピラリー電気泳動
分析計測ジャーナルでは、無機物の分析法や測定機器に関する相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
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ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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