• HOME
  • 記事一覧
  • 分野別にみるマイクロチップ電気泳動の応用事例7選

お役立ち

分野別にみるマイクロチップ電気泳動の応用事例7選

2025.07.07 (Mon)

  • 電気泳動装置

記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

マイクロチップ電気泳動は、その高速性・高感度・自動化対応といった特長により、研究・診断・製造現場での活用が広がっています。従来のゲル電気泳動では対応しきれなかった課題を解決する手段として、導入を検討する研究者や技術者も増えつつあります。

本技術は単なる小型化ではなく、分離精度や再現性、作業効率の向上といった多方面のニーズに応える進化系の分離分析法です。近年では、ライフサイエンス領域を中心に、環境、食品、法科学、教育といった分野にも応用の幅を広げています。

この記事では、マイクロチップ電気泳動がどのような現場で、どのように活用されているのかを、7つの分野に分けて具体的に紹介していきます。それぞれの導入背景と得られている効果を知ることで、自身の業務や研究テーマにおける活用のヒントが得られるはずです。

分析計測ジャーナルでは、マイクロチップ電気泳動システムに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはコチラ

バイオ医薬品開発での応用

マイクロチップ電気泳動は、抗体医薬品やmRNA医薬品などの品質評価手法として活用が検討されています。従来のゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動に比べ、微量かつ高速での分離が可能なことから、今後の実用展開が期待されている分野のひとつです。

抗体医薬品の品質確認における可能性

抗体医薬の品質管理では、不純物や分解産物の検出が重要なポイントになります。これまで一般的だったSDS-PAGEやキャピラリー電気泳動に加えて、マイクロチップ型の分析装置を用いた測定事例も報告されています。

たとえば、Agilent 2100 バイオアナライザを活用したアプリケーションノートでは、モノクローナル抗体のサイズ確認において、迅速かつ再現性の高い分析結果が得られたと紹介されました。
このような高速測定と再現性の高さにより、製造プロセスの中間検査や最終製品の確認工程での活用が検討されています。

mRNA医薬品における構造確認への活用

mRNA医薬品の開発では、RNA鎖の完全性やキャッピングの有無といった構造評価が不可欠です。特に、RNAの分解や混入物の確認には、高速かつ高分解能な分離技術が求められます。

マイクロチップ電気泳動を使ったRNAのサイズ評価や純度チェックにおいて、RT-qPCRや蛍光標識法と組み合わせて活用されたという事例が報告されています。一例として、Agilent RNA 6000 Nano Kitでは、RIN(RNA Integrity Number)による品質評価の効率化が実現されました。このようなシステムは、貴重な試料を無駄にせずに正確な解析を行いたい研究開発現場に適しており、将来的なルーチン化も視野に入ると考えられます。

バイオ医薬品分野では、まだ一部の機関に限られるものの、マイクロチップ電気泳動の導入が着実に進んでいます。特に、限られた時間・資源で精度の高い分析が求められる現場において、本技術が今後の標準となる可能性は十分にあると言えるでしょう。

遺伝子解析・NGS前処理への活用

近年、ゲノム解析や転写産物の網羅的解析を可能にする手法として次世代シーケンシング(NGS)が用いられるようになっています。これは、従来のサンガー法に比べて大幅に処理スピードが速く、かつ一度に大量の塩基配列を読み取れるのが特徴です。

NGSを行う前には、DNAやRNAを断片化し、ライブラリとして調製する工程が不可欠です。ここで対象分子のサイズ分布や濃度を正確に把握する必要があり、その品質がその後の解析結果に直結します。特にRNA-Seqなどの場合、劣化したサンプルを用いると正確な発現解析が困難になるため、前処理段階での品質管理が非常に重要です。

マイクロチップ電気泳動が前処理に適している理由

こうした背景から、サンプルの迅速なスクリーニング法としてマイクロチップ電気泳動の活用が注目されています。わずか数nLの試料であっても、高分解能な泳動パターンを取得できるため、研究室レベルから大規模プロジェクトまで幅広く利用されはじめています。

たとえばAgilent社の「2100 バイオアナライザ」は、マイクロチップ電気泳動技術をベースとした代表的な機種の一つです。ライブラリ調製前のサイズ確認や濃度評価に使われており、RNAやDNAの断片長を数分で可視化できる点が大きな魅力とされています。

RNA解析における応用の広がり

RNA品質のチェックにおいても、本技術の有用性は高く評価されています。「RNA 6000 Nano Kit」などのキットと組み合わせることで、RNA Integrity Number(RIN)という指標を用いた定量的な品質評価が可能になります。これはRNA-Seqなどの成功率を左右する重要な前処理項目の一つです。

このような評価システムを用いることで、従来の目視に頼る染色法に比べて、再現性の高い品質判断が可能になっています。

今後の研究現場での展望

現在のところ、マイクロチップ電気泳動は一部の研究施設や遺伝子解析企業で導入が進んでいる段階です。ただし、サンプルあたりの処理時間の短縮や、省試料での高精度な判定が求められる環境では、今後より多くの前処理工程で活用されていく可能性が高いと考えられます。

NGSの精度と効率を同時に求めるこれからの研究体制において、本技術が果たす役割は決して小さくありません。

臨床診断分野での迅速な診断

マイクロチップ電気泳動は、臨床現場での迅速な遺伝子診断や感染症スクリーニングなどに活用される技術として、病院・検査機関研究用途を中心に導入が進みつつあります。現時点では、保険適用を受けた医療機器としての正式な承認は確認されておらず、あくまで先進的な研究機関や試験的導入に留まるという位置づけです。

とはいえ、従来のゲル電気泳動に比べてスピードと再現性の面で明確なメリットがあることから、将来的な実用化・制度化を視野に入れた動きも見られます。

感染症領域における迅速診断の補助ツールとして

例えば、インフルエンザやノロウイルスといった感染症のPCR増幅産物を短時間で確認したい場合、マイクロチップ電気泳動は高感度・高速な分離能力を発揮します。数分でバンドパターンを表示できるため、スクリーニング工程の確認や二次検証としての使用例も報告されています。

国内でも、一部の大学病院や臨床検査ラボで研究用途としての活用事例が報告されており、特に感染症対応で迅速性が求められる分野ではニーズが高まりつつあります。

遺伝子異常・がん診断

がんの分子診断においても、遺伝子変異や融合遺伝子の検出に関連するPCR産物の確認工程にマイクロチップ電気泳動を用いるケースがあります。特定変異の有無を迅速に確認するため、PCR後のサイズ確認に同技術を活用する流れが一部の施設で試みられています。

このような応用においては操作性と定量性のバランスが取れていること、および測定結果のデジタル出力が可能である点が評価されています。

現状の立ち位置と今後の展望

マイクロチップ電気泳動は現在のところ診療報酬上の保険適用外であり、あくまで研究用分析機器としての扱いです。そのため、導入実績も限定的であり、すべての医療機関にとって現実的な選択肢とは言い難い状況です。

ただし、研究・検証段階での評価が進んでいること、また臨床分野における迅速性・再現性・省スペースといった要素の重要性が増していることを考慮すると、将来的に制度対応や応用範囲の拡大が検討される可能性もあるでしょう。

このように、マイクロチップ電気泳動の臨床応用はまだ発展途上の段階にありますが、一部先行施設で研究的に導入されている技術として、今後の展開を注視すべき分野のひとつです。

環境モニタリングでの利用

マイクロチップ電気泳動は、水質検査や土壌分析など、環境モニタリングの分野においても潜在的な応用可能性があります。実際に導入が進んでいるわけではありませんが、以下のような用途での利用が技術的に想定されており、特に迅速な現場対応が求められる場面で有効性が期待されます。

水質中の微生物DNAの確認

たとえば、河川や湖沼などの環境水に含まれる微生物のDNAをPCRなどで増幅した後、その存在を素早く確認する方法として、マイクロチップ電気泳動の活用が検討されています。バンドパターンによって特定の微生物を検出できれば、水質評価のスピードアップに役立つと考えられるからです。

特に水道水や工業用水など、安全基準が求められる領域においては、目視や培養と比べて迅速かつ定量的な判断材料となる可能性を秘めています。

重金属や無機イオンに関する間接的分析

直接的な金属イオンの検出にはICPなどの装置が一般的ですが、金属と結合する特定の生体分子(DNAアプタマーや合成オリゴペプチドなど)の挙動をマイクロチップ電気泳動で観察することで、間接的に重金属を定量できるケースもあります。

たとえば、カドミウムや鉛などのイオンと結合するDNAプローブの移動パターン変化を利用して定性分析を行う手法は、研究が進められています。

携帯型分析システムとの連携による即時対応

環境調査では、測定地点での即時判定が求められる場面も少なくありません。マイクロチップ電気泳動は装置の小型化が進んでいることから、将来的には携帯型の簡易モニタリングシステムとして検討が進められています。

近年では、ハンドヘルド型の蛍光検出装置と組み合わせた簡易分析システムの開発も進んでおり、水質異常や突発的な環境汚染への初動対応ツールとして注目が集まっています。

現時点での導入状況と課題

とはいえ、こうした応用はまだ提案・研究段階にあり、環境分析の主流手法として確立されているわけではありません。とくに分析対象が複雑な環境試料では、前処理工程やマトリックス干渉の課題もあるため、マイクロチップ電気泳動の導入は現時点で限定的です。

一方で、現場即応性や低消耗での測定といった利点は、持続可能な環境監視の観点からも今後注目される領域と考えられます。

このように、マイクロチップ電気泳動は環境モニタリングにおいても、一部の用途において将来的な選択肢として検討されている技術です。既存の分析法を補完する手段としての活用に向けて、研究開発が進められています。

食品分野での品質保証

食品の安全性と品質を担保するためには、原材料の真正性や異物混入の確認、アレルゲン管理など、さまざまな検査が求められます。マイクロチップ電気泳動はこれらの分析ニーズに対応し得る技術として、一部の研究用途や検討段階での活用が見られ始めています。

原材料の真贋確認やDNA分析の補助

食品の原材料に関するトレーサビリティでは、原産地偽装や種別の誤表示といった問題がしばしば課題になります。そこでマイクロチップ電気泳動をDNA解析と組み合わせて、たとえば水産物や肉製品の種判別、植物由来原料の確認といった検査に応用できると考えられています。

この分野では、農研機構や大学の食品研究室などがDNAバーコーディングやPCR法をベースに研究を進めており、泳動工程をマイクロチップ化することで作業の省力化と再現性の向上が期待されています。

異物混入の解析補助

食品中に混入した微細な異物(毛髪・昆虫片・植物片など)について、DNAを抽出して同定する工程では、PCR産物の確認に泳動が不可欠です。従来はアガロースゲルが使用されていましたが、作業時間の短縮や定量性の向上を図る目的で、マイクロチップ電気泳動の導入が一部で試みられています。

特に、製造ラインの品質管理において、混入源の特定を迅速に行いたいケースでは、こうした小型・自動化機器が重宝されるのではと期待されています。

アレルゲン管理や微量検出用途への展開

小麦、落花生、そばなど、特定原材料の混入検査では、PCRによるDNA検出が有効です。ここでも、検出結果の確認工程にマイクロチップ電気泳動が活用できる場面があります。特に、nL単位の試料でも信頼性の高い分離結果を得られる点は、微量混入を懸念する食品業界にとって魅力的です。

また、HACCPやISO22000の導入が進む中、デジタルデータとして出力可能な検査結果は、記録管理の観点からも有用性が高いと考えられます。

実際の導入状況と今後の展望

現在のところ、食品業界での導入はごく一部の研究施設や企業内の品質保証部門に限定されており、業界標準としての普及には至っていません。ただし、省試料・高速・自動化といった特長は、将来的に他の検査手法と併用される形も想定されています。

すでにDNA判別などを行っている企業や、異物混入対応に高い迅速性を求める現場にとっては、補完的な技術として導入を検討する価値はあると言えるでしょう。

法科学・犯罪捜査への応用

DNA型鑑定や微量物質の分析が重視される法科学の分野では、迅速かつ正確な検体処理が求められます。マイクロチップ電気泳動は、こうした現場ニーズに対応する技術の一つとして、一部の研究施設や法科学機関での検討が始まっています。

犯罪現場のDNA鑑定への応用可能性

犯罪捜査では、現場に残された血液・毛髪・唾液などの試料からDNAを抽出し、個人を特定するDNA型鑑定が行われます。この鑑定工程では、PCR後のDNA断片サイズを確認するための電気泳動が必要不可欠です。

マイクロチップ電気泳動は、これまで使用されてきたゲル電気泳動に比べて、短時間で正確に分離できる点が評価されつつあります。特に、限られた試料量しか得られない現場においては、微量での測定が可能な点が大きなメリットです。

携帯型分析装置としての可能性

将来的には、マイクロチップ技術と小型検出装置を組み合わせた「簡易型DNA分析システム」が、捜査現場での即時確認に利用される可能性もあります。たとえば、事件現場でPCR済み試料のバンドパターンをその場で確認するようなフローが実現すれば、証拠採取から初動判断までの時間短縮が図れると考えられています。

現時点ではこうした技術は研究段階にあり、実際の現場で広く使われているわけではありませんが、法科学の自動化・迅速化に貢献する可能性のある要素技術として注目されている状況です。

現在の導入状況と技術的課題

ただし、現場運用に求められる耐久性・信頼性・コストパフォーマンスといった点では、まだ課題も残されています。また、既存のDNAプロファイリング装置との互換性や、証拠保全の観点からの信頼性担保なども、実用化に向けて検討すべき重要な要素です。

このように、マイクロチップ電気泳動は法科学・犯罪捜査の分野においても、特に迅速性と微量試料対応が求められる局面での補完技術として、研究・試験導入が始まりつつある技術といえるでしょう。

教育・実習用途での活用

マイクロチップ電気泳動は、分析化学や分子生物学の教育現場においても、実習教材や操作体験ツールとしての応用が期待されている技術です。現在は限られた教育機関での利用にとどまりますが、将来的には学生教育の現場でも導入が広がる可能性があります。

視覚的かつ安全な電気泳動体験に

従来のゲル電気泳動実習では、アガロースゲルの作成や電圧管理、染色・脱色などの工程が含まれ、学生の安全管理や準備作業に時間がかかることがありました。一方、マイクロチップ電気泳動装置は、

  • ゲル作製が不要
  • 自動化されており操作がシンプル
  • 測定が短時間で完了

といった特徴があるため、短時間かつ低リスクで「泳動」という概念を視覚的に理解させる教材として有用です。

デジタル表示とデータ解析の実習にも対応

また、装置によっては波形データやサイズ推定の結果がデジタル出力されるため、単なるバンド観察にとどまらず、簡易的な定量解析や波形の読み取り実習にも応用できます。単なる操作だけでなく、実際の研究に近い解析体験を教育に組み込めます。

現在の導入状況と展望

現時点では、バイオ関連学部を有する大学や専門学校の一部実習において、マイクロチップ電気泳動を用いた教育プログラムが試験的に導入されているケースがある程度にとどまります。費用や装置の台数などの制約もあり、広範な導入には至っていません。

とはいえ、ICT活用や省スペース化が求められる教育現場においては、手軽に電気泳動を体験できる選択肢としての価値が見直されつつあります。今後、教材用モデルの低価格化やレンタル提供の仕組みが整えば、普及が進む可能性もあるでしょう。

まとめ

マイクロチップ電気泳動は、従来のゲル電気泳動とは異なり、高速・微量・自動化という特長を併せ持つ分離技術として、さまざまな分野での応用が検討されています。現時点では、主に研究用途での導入が中心となっており、医療や食品といった実用現場での標準化には至っていないものの、試験的な運用や先行導入の事例は着実に増えつつある状況です。

特に、バイオ医薬品開発や次世代シーケンシング(NGS)の前処理工程では、サンプルの品質管理や迅速な検査へのニーズに応える技術として評価されており、環境モニタリング・法科学・教育現場などでも、用途に応じた活用方法が模索されています。

今後は、アプリケーションキットの拡充や装置の小型化・低価格化、さらに制度的な整備が進むことで、より多くの実務領域に展開される可能性は十分あります。そのためには、目的に応じた検出方式や分離性能、操作性などを見極め、慎重に導入検討を進めることが重要です。

分析計測ジャーナルでは、マイクロチップ電気泳動システムに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはコチラ


ライター名:西村浩
プロフィール:食品メーカーで品質管理を10年以上担当し、HPLC・原子吸光光度計など、さまざまな分析機器を活用した試験業務に従事。現場で培った知識を活かし、分析機器の使い方やトラブル対応、試験手順の最適化など執筆中。品質管理や試験業務に携わる方の課題解決をサポートできるよう努めていきます。

記事をシェアする


記事を書いた人 :

bunseki-keisoku