遠心機(遠心分離機)は実験室の基礎的な機器で、学生時代に使用経験のあることも多いのではないでしょうか。しかし遠心機を購入しようとメーカーを検索すると国内外でさまざまなメーカーがあり、どのメーカーがいいのか選ぶのが難しいと思います。そこでこの記事では、遠心機のおすすめメーカーを紹介し各社の特徴を解説します。遠心機の基礎も紹介していますので、初めて遠心機を利用する場合も参考にしてみてください。
分析計測ジャーナルでは、遠心機の相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
遠心機とは?原理や単位について解説
遠心機の原理や用途について詳しく解説します。また遠心機を使うときに用いられる単位は2つあるので、違いについても詳しく紹介しましょう。
遠心機とは?
遠心機(遠心分離機)とは回転運動による遠心力を利用して、液体中の異なる比重を持つ物質を分離する装置のことです。高速回転させると比重の大きい物質は試験管の底に沈み、軽い物質は上に移動する、という原理です。
回転速度が早くなれば遠心力が増して、より微小な粒子が沈殿します。回転時間が一瞬だと大きな粒子のみが沈殿し、長いと微小な粒子も沈殿します。ただし一定時間経過するとほとんど沈殿は進まず頭打ちの状態になるので、時間の見極めは重要です。
遠心機の主な用途は、以下のようなものがあります。
- 細胞培養における細胞の分離・回収
- 血液検査で血球成分の分離
- タンパク質やDNAの精製
- 化学分析における不純物の除去
遠心機の単位
遠心機の単位にはRPM(回転数:Revolutions Per Minute)とg(重力加速度の倍数)の2つがあります。RPMとはローターの回転数を示す指標で、1分間に何回回転するのかを表しています。1000rpmなら1分間にローターが1000回転するということです。RPMは一般的に遠心機の設定で使われている指標で、遠心力の強さを直接示すものではありません。
一方g(重力加速度)は、遠心力がどれだけ強いかを直接示す単位です。1g は地球の重力加速度(9.8m/s²)に相当し、これを基準として何倍の力がかかるかを示します。RPMとgには関係式が成り立ち、ローターの半径や定数によりRPMからgが求められます。
遠心機のサイズは2種類!
研究室でよく目にする遠心機は、大きく分けて卓上型と床置き型の2種類があります。実験の規模や目的によって使い分けていきましょう。
卓上型遠心機
卓上型遠心機は実験台に設置できるコンパクトな遠心機です。省スペースで使いやすく、小規模な実験に最適。マイクロチューブ用の遠心機(マイクロ遠心機)も、この卓上型に含まれます。
卓上型遠心機の特徴
- 設置面積が小さい
- 移動が簡単で、実験台の配置置き換えにも対応しやすい
- 比較的安価(数万円〜数十万円)
- 最大遠心力は概ね30,000×g程度まで
使用例
- クリーンベンチ内での作業用
- 少量のサンプルの濃縮
- マイクロチューブのスピンダウン
床置き型遠心機
大容量のサンプル処理や、高速回転が必要な場合に使用するのが床置き型の遠心機です。床置き型遠心機は研究室の主力機器として、複数の研究者が共有して使用することが多い機種です。
床置き型遠心機の特徴
- 大容量処理が可能(一度に50mL遠沈管を6本以上など)
- 高速回転に対応(機種により50,000×g以上も)
- 冷却機能付きが一般的(4℃までの冷却に対応)
- 安全機能が充実(インバランス検知・異常振動の自動停止など)
使用例
- 大量に培養した細胞の回収
- 複数の実験者のサンプルを同時処理
- タンパク質の精製過程での分離
遠心機の選び方
遠心機の選定は、研究室の投資として非常に重要です。1台数百万円以上もする高額な機器もあるので、慎重に検討したいですよね。ここからは 3つのポイントに絞って、遠心機の選び方を解説します。実験ニーズと予算のバランスを考慮しながら、最適な機種を選びましょう。
冷却機能の有無
タンパク質や酵素など温度管理が必要なサンプルを扱う場合、冷却機能が必要です。冷却機能があれば、遠心機からの発熱も避けて細胞の生存率が向上します。一般的な遠心機の温度管理範囲は4℃~40℃です。冷却機能を使用する場合は、遠心機を使用する前から冷却スイッチをオンにして庫内を冷やしておきましょう。冷却機能付きの遠心機には、運転中の温度モニタリング機能や温度異常時の警報機能などが充実しています。
重力加速度を確認
重力加速度(g)は、実験の目的に合わせた検討が重要です。強いgを出せる遠心機は高額になります。そのため必要以上に高速性能な機器を選ぶと、無駄な投資につながる可能性も。必要な強さは以下を目安として参考に選んでください。
- 100×g:微粒子の沈殿
- 1,000×g:細胞の分離
- 3,000×g:細菌の分離
- 10,000×g:ミトコンドリアの分離
- 20,000×g以上:タンパク質の分離
- 100,000×g以上:ウイルスの分離、膜タンパク質の分離(超遠心領域)
ローターの種類もチェック
遠心機の中心には「ローター」と呼ばれるサンプルチューブを固定する部品があります。実験室用の遠心機のローターは2種類です。「固定各ローター」はサンプルチューブをローターに対して斜めに挿入し、回転中ローターは動きません。一方「スイングローター」はローターに可動式のバスケットをセットし、バスケットにサンプルチューブを入れます。両者の詳細は以下の表の通りです。
ローター名 | 回転方向 | 沈殿位置 | 速度範囲 | 用途 |
固定角ローター | 固定角 | チューブ側面 | 高速 (最大100,000g以上) | 微粒子分離、細胞小器官分離 |
スイングローター | 水平 | チューブ底面 | 中速 (最大50,000g程度) | 血球分離、核酸精製、密度勾配遠心 |
遠心機のおすすめメーカー8選
国内外の遠心機おすすめメーカーは次の8社です。どのメーカーも卓上型から床置き型まで、ラインナップ豊富な遠心機をそろえています。各社の遠心機の特徴を中心に解説しますので、メーカー選びにお役立てください。
㈱コクサン
㈱コクサンは日本の老舗遠心機メーカーです。㈱コクサンの遠心機は、メイドインジャパンの品質と種類が豊富なのが魅力です。技術面では振動制御システムが優秀で、振動による試料のダメージを抑え運転音を低減します。安全機能も3重になっており、使用時の事故を未然に防げますよ。高い日本品質を求めるなら、㈱コクサンの遠心機はいかがでしょうか。
㈱トミー精工
㈱トミー精工は1958年に遠心機を主力製品として製作する企業として発足しました。業界初の機能を備えた遠心機もこれまでに発売されています。たとえばWonder Spinシリーズ One Spinはチューブ1本で回せる遠心機で、特許を取っており他のメーカーにはない1台です。またエコモードを搭載した機種もあり、従来機より44%も電力消費を抑えられます。マイクロプレート用の遠心機(PS-020)も㈱トミー精工にはあります。他社にはない特別な機能が必要なら、㈱トミー精工の遠心力を検討してみてください。
久保田商事㈱
久保田商事㈱は日本の遠心機のパイオニアで、100年以上の歴史がある会社です。久保田商事㈱の遠心機は高精度なインバーター制御システムでの温度管理がとくに優れており、±0.5℃以内という高精度な温度管理ができます。また静かな運転音で、長時間使用しても騒音が気になりません。メンテナンス性もよく、長期間使える特徴もありますよ。
ベックマン・コールター㈱
出展:ベックマン・コールター㈱ フロア型超遠心機 Optima XPN
ベックマン・コールター㈱は、世界的に有名な分析機器メーカーです。90年以上の歴史を持つベックマン・コールター㈱の遠心機は、世界中の研究機関で使用される高性能機器として人気があります。強い遠心力の超遠心機は、床置き型はもちろん卓上もあります。独自開発の回転制御技術で高速回転でも安定した性能が特徴です。また直感的に操作しやすいタッチパネル式の操作画面とシステム管理で、誰でも使いやすい遠心機がそろっています。
㈱佐久間製作所
㈱佐久間製作所は遠心機を主力製品として製造販売している日本の企業です。㈱佐久間製作所の遠心機は、国内製造で高品質なので国内の研究所からの人気がありがあります。定期点検や校正サービスも充実しており、突然の故障でも日本人スタッフがすぐに駆けつけてくれるので安心です。遠心機の種類は床置きと卓上の両方があり、回転速度も低速〜高速まで自由に選べるラインナップの充実さです。
エッペンドルフ㈱
エッペンドルフ㈱は生化学分野の実験機器を中心として、世界中で利用者が多いメーカーです。エッペンドルフ㈱の遠心機は小型の卓上式のものが多くあります。実験台だけでなく、クリーンベンチ内にも持ち込んで使用できるので、実験スピードと精度の向上に寄与します。またローターの付替えが簡単で確実に固定される仕様なので、複数サイズの試験管を使用するときに便利です。冷却機能付き遠心機や微量遠心機など、コンパクトな卓上型でも機能性十分な機器がそろっているので、生化学実験用の遠心機を探しているならエッペンドルフ㈱から探すのはいかがでしょうか。
Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
出展:Thermo Fisher Scientific 汎用プラス遠心分離機
Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)は、世界最大級のライフサイエンス機器メーカーです。サーモフィッシャーサイエンティフィックの遠心機は基礎研究用のベーシックなものから、高性能機種まであります。固定角ローターに強みがあり、カーボン製なのでアルミ製より軽量で長持ちします。さらにローターのつけ外しはThermo Scientific Auto-Lockシステムにより、置くだけで確実にロックし、取り外しはボタンを押しながら引き上げるだけで簡単です。
㈱ニチリョー
㈱ニチリョーはマイクロピペットや自動分注機など生化学実験に使用する機器を専門に製造している日本メーカーです。遠心機はコンパクトな卓上型のNichimate Flushシリーズがあります。簡易的な遠心機になっており試料のスピンダウンに便利な機種です。価格は5万円台〜なので複数台購入したいときも買いやすいですね。
遠心機を安全に使うために守ること!
遠心機は正しく使わないと、サンプルの破損や装置本体の飛散による事故などが発生します。そのため遠心機を使用するときは毎回次のポイントに注意しておきましょう。
- 庫内にチューブやキャップが落ちていないか
- ローターがしっかり固定されているか
- スイングローターの動きはスムーズかどうか
- サンプルはすべて同じ量にする
- チューブは対角線上にセット
- 冷却機能使用後は蓋を開けて乾燥
使用前は庫内のチェックとローターのチェックをして、異常がないかどうか目視してください。サンプルはバランスを整えるため量をそろえて、対角線上にセットします。もしチューブが奇数本数なら、サンプルと同量の水を入れたチューブを1本準備してセットしましょう。冷却機能を使用すると庫内が結露します。そのため使用後は蓋を開けて乾燥させなければなりません。
これらのポイントに注意しておくと遠心機は長く安全に使えるので、必ず守ってくださいね。
まとめ
遠心機(遠心分離機)は、比重の異なる混合物を高速回転させて分離させる機器のことです。遠心機のおすすめメーカーは次の8社あります。
- ㈱コクサン
- ㈱トミー精工
- 久保田商事㈱
- ベックマン・コールター㈱
- ㈱佐久間製作所
- エッペンドルフ㈱
- Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
- ㈱ニチリョー
遠心機選びに迷ったら、これらのメーカーを検討するのはいかがでしょうか。分析計測ジャーナルでは、遠心機選びに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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