熱重量測定装置(TG)は熱分析の基本となる機器です。TGはさまざまなメーカーから販売されていますが、どのメーカーがいいのか悩ましいですよね。各社のカタログを見比べても、イマイチ機器の特徴やメーカーの特色がわからない、ということもあると思います。
そこでこの記事では、TGのおすすめメーカーを7社紹介し、機器の特徴もお伝えします。また参考価格も調査したので、購入検討にお役立てください。TGの原理や測定の注意ポイントについても解説しているので、初めてTGを使うときも参考にしてくださいね。
分析計測ジャーナルでは、TGの相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
熱重量測定装置(TG)とは?
熱重量測定(Thermogravimetry:通称TG)は、温度による物質の質量変化を測定する方法です。TGはTGA(Thermo Gravimetric Analysis)と呼ばれることもあります。TGでは次のような情報が得られます。
- 吸脱着
- 化学反応
- 熱分解
- 蒸発
TGは物質の基礎研究や新規材料開発など、幅広い分野で使われている手法です。測定方法の紹介と市販されている機器について解説します。
質量測定の方法は3種類
TGの質量測定方法は、吊り下げ型・上皿型・水平型の3種類です。これらにはメリットとデメリットがそれぞれあります。
メリット | デメリット | |
吊り下げ型 | 試料の置き方や浮力の影響を受けにくい、高い精度が得られやすい | 電気炉の熱が天秤系に影響しやすい |
上皿型 | 試料の取り出しが容易、比較的安価な装置が多い | 浮力の影響を受けやすい |
水平型 | 電気炉の熱や対流による影響が小さい、ガス環境下の測定向き | 浮力や装置の熱膨張の影響を受けやすい |
精度のよさからTGのみの機器では「吊り下げ型」が多く採用されています。また上皿型や水平型に基準物質も合わせた、「差動方式」もあります。差動方式は試料と基準物質の質量差を測定するので、浮力や装置の熱膨張の影響を相殺できるのです。また示差熱分析(DTA)にも応用可能で、TG-DTAでは上皿型もしくは水平型になります。
装置としてはTG-DTAも普及
TGのみの装置も販売されていますが、示差熱分析(DTA)も合わせたTG-DTAが普及しています。DTAとは、物質の熱の出入りを測定する方法です。DTAでは発熱や吸熱を伴う反応(融解・結晶化・分解など)を検出。TGと組み合わせると、これらの反応時における質量変化がわかります。
たとえばTG曲線が減量している場合、DTA曲線を観察すると「分解・脱水・還元」「燃焼」「昇華・蒸発」の物質変化が特定できます。TG曲線に変化がなく質量変化が観察されていないときも、DTA曲線は変化していることがあり、物質の変化を見逃しません。
またTG-DTAのほかにTGが測定できる機器として、TG-DSC(熱重量測定-示差走査熱量測定)もあります。
熱重量測定装置(TG)のおすすめメーカー7選!
熱重量測定装置(TG)を販売しているメーカーを国内外から7社紹介します。どのメーカーのTGも、企業や研究機関から人気があり、高精度な機器ばかりです。ここから各メーカーのTGを全て挙げて、特徴を紹介します。また価格も調査したので、予算申請の参考にしてください。
㈱島津製作所
㈱島津製作所の機器でTGが測定できるのは、DTG-60/60Hシリーズです。DTG-60/60Hシリーズは熱重量測定(TG)と示差熱分析(DTA)が同時に測定できるTG-DTA。機器の構造は差動型上皿天秤で、高精度な結果が得られます。業界最小レベルのコンパクトさ(W367mm×D650mm×H474mm)も魅力で、実験台の隙間に置きやすいです。DTG-60は測定範囲の最高温度が1100℃、DTG-60Hは1500℃まで温度を上げられます。またオートサンプラーを内蔵したモデル、DTG60AとDTG60AHも㈱島津製作所では展開しています。
参考価格:428万円〜(DTG-60)、660万円〜(DTG-60H)、648万円〜(DTG-60A)、858万円〜(DTG-60AH)
㈱日立ハイテク
出展:㈱日立ハイテク 示差熱熱重量同時測定装置(TG-DSC) NEXTA STAシリーズ
㈱日立ハイテクの示差熱熱重量同時測定装置(TG-DSC)は、μgオーダーでベースラインの安定化にこだわったデジタル水平差動型の天秤を採用しています。DTAから進化してDSCも同時測定可能。より多くの情報が得られるようになりました。シリーズで3機種展開しており、測定対象物に応じて選べますよ。
- 1100℃まで測定可能なSTA200
- 1000℃まで測定可能で測定中の試料観察機能があるSTA200RV
- 1500℃の高温まで測定可能なSTA300
参考価格:660万円〜(STA200)、650万円〜(STA200RV)、650万円〜(STA300)
㈱パーキンエルマー
㈱パーキンエルマーから販売されている、TG測定機器は3機種です。TGのみの機器も揃っています。
製品名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 質量測定方式 | 特徴 | 参考価格 |
TGA 9 | 上皿型 | 15℃〜1100℃まで測定可能なTG。大画面タッチパネルが見やすく直感的に操作しやすい。 | お問い合わせください |
TGA 8000 | 吊り下げ型 | 0.1μgの変化も検出する高感度TG。測定温度範囲は-20℃〜1200℃。オプションでオートサンプラー装着も可能。 | 770万円〜 |
STA 9 | 上皿差動型 | 従来品より再現性が向上した、TG-DTA。リファレンス容器への汚染が起こりにくい構造。 | お問い合わせください |
メトラー・トレド㈱
精度の高い天秤が有名なメトラー・トレド㈱は、自社の天秤技術を用いたTGになっています。TGの心臓部である天秤に力を入れた機器は2種類です。
製品名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 質量測定方式 | 特徴 | 参考価格 |
熱分析システム TGA 2 | 水平型 | 0.1μgの重量変化を検知するウルトラミクロ天秤。浮力は自動補正。34検体まで測定できるオートサンプラー付。 | お問い合わせください |
熱分析システム TGA/DSC 3+ | 不明 | 室温〜最大1600℃まで測定可能。示差走査熱量測定(DSC)もできるTG-DSC。 | お問い合わせください |
TAインスツルメント
TAインスツルメントのTGは、3シリーズ5機種です。特殊材料の評価に有効な高温高圧TAもあります。
製品名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 質量測定方式 | 特徴 | 参考価格 |
Discovery TGAシリーズ | 吊り下げ型 | TGA55、TGA550、TGA5500の3機種でTAG5500が最上位モデル。ベースラインが安定しているので補正なしで評価可能。 | お問い合わせください |
SDT650 | 水平差動型 | TG-DSC同時測定装置。独自の水平式デュアルビーム熱天秤により、わずかな重量変化を察知。 | お問い合わせください |
高圧熱重量測定装置HP-TGA | 吊り下げ型 | 80barまでの圧力および1700℃まで測定できる高圧高温TGA。屈強な工業製品の評価に最適。 | お問い合わせください |
㈱リガク
㈱リガクのTGは全てDTAも同時測定できるものです。天秤部分と制御部分が離れた特殊なタイプも販売されています。
製品名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 質量測定方式 | 特徴 | 参考価格 |
TG−DTA8122シリーズ | 水平差動型 | ノーマルタイプ・試料観察タイプ・水蒸気雰囲気測定タイプの3機種。 | 550万円〜 |
分離型TG-DTA | 水平差動型 | 試料設置部分と制御回路部分が分かれた構造。危険なサンプルや設置場所が狭いときに便利。 | お問い合わせください |
ネッチ・ジャパン㈱
出展:ネッチジャパン㈱STA 449 F1/F3 F5 Jupiter シリーズ
熱分析に特化したネッチジャパン㈱のTGは、DSC測定もできるSTA 449 F1/F3 F5 Jupiter シリーズです。質量測定方式は上皿差動型。最高温度1400℃まで測定できます。試料を入れるカップの種類が豊富で、さまざまな形態の試料用にアレンジできるのが特徴です。オプションにてオートサンプラー(最大20検体)や、水蒸気発生装置も追加可能。さらにガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)も接続できて、分解物の評価にも使えます。
参考価格:1300万円〜
TG測定で注意したいこと!TGは精密な天秤装置
TGの重要な場所は天秤部です。天秤部は精密な作りになっており、わずかな振動や力が測定結果に影響します。そのため以下の5つに注意して測定しましょう。
- 装置に不要な振動を与えない
- 装置は安定した実験台の上に置く
- 装置が置かれている実験台にもたれかからない
- 実験室の扉の開閉にも注意
- 試料を出し入れする際、設置台に力をかけない
TG測定で一番慎重に作業しなければならないのは、試料の設置および回収のときです。試料をセットするときは、ピンセットでサンプルカップを持ち設置台に静かに置きます。また測定が終わって試料を取り出すときも、ピンセットを使って慎重に取りましょう。カップが取れにくい場合でも、機器の故障につながるので設置台に力をかけないようにしてくださいね。
熱分析の手法と得られる情報について
TGをはじめとする熱分析は、以下のような種類があります。
対象とする物理量 | 測定方法 | 得られる情報 |
質量 | 熱重量測定(TG) | 脱吸着、化学反応、熱分解、蒸発などによる質量変化 |
質量 | 発生気体分析(EGA) | 発生ガスの種類 |
温度(温度差) | 示差熱分析(DTA) | 転移温度、反応温度など |
熱量(エンタルピー) | 示差走査熱量測定(DSC) | 転移温度、反応熱量、熱容量、反応温度、反応熱量 |
力学的測定 | 熱機械分析(TMA) | 膨張係数、転移温度、硬化・軟化温度 |
力学的測定 | 動的熱機械測定(DMA) | 弾性率、転移温度、硬化・軟化温度 |
TGはDSC(示差熱分析)やDTA(示差走査熱量分析)と組み合わせた機器が販売されています。熱分析全般に関する情報は、こちらの記事が参考になります。
またDSCの構造や人気メーカーについては、こちらの記事でも紹介しているので、参考にしてみてください。
まとめ
熱重量測定装置(TG)のおすすめメーカーは次の7社です。
- ㈱島津製作所
- ㈱日立ハイテク
- ㈱パーキンエルマー
- メトラー・トレド㈱
- TAインスツルメント
- ㈱リガク
- ネッチ・ジャパン㈱
TGの価格帯は500万円〜1000万円前後が相場です。各社天秤の精度に力を入れて開発しています。TGは高精度な天秤が心臓部とも言える機器です。そのため取り扱いは慎重にしましょう。
TG選びに悩んだら、今回紹介した7社から探してみてください。また分析計測ジャーナルでは、TGに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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