示差走査熱量計(DSC)は、物質の温度変化による熱流入や熱流出を評価する機器です。新素材の開発や原料の純度評価などでDSCは利用されています。DSCは国内外のさまざまメーカーから販売されていますが、どのメーカーが人気なのか気になりますよね。買い替えを検討しているときも、今と同じメーカーでいいのかどうか悩むこともあると思います。
この記事では、DSCのおすすめメーカーを7社紹介し、人気機種もお伝えします。また価格も調査したので予算申請にお役立てください。分析計測ジャーナルでは、DSCの相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
示差走査熱量計(DSC)とは?
示差操作熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)は、物質の熱の出入りを測定し試料の特性を評価するものです。具体的には、試料と基準物質の温度差を検出し、温度やエネルギーの変化を算出します。DSCは、材料科学や化学工学、食品工業、製薬業界など、幅広い分野で物質の挙動を理解するための重要なツールです。DSCでわかることや、原理などを詳しく紹介します。
示差走査熱量計(DSC)の構造
DSCを測定するには試料をアルミニウムなどでできた容器に入れ、装置のセル上に置きます。基準物質側には、空の容器もしくは不活性な物質を入れた容器を設置。加熱炉の蓋を閉めて温度プログラムをスタートさせ、データを収集します。
DSCには「熱流束方式」と「入力補償方式」の2つのタイプがあります。それぞれの構造は以下図のとおりです。
熱流束方式は、試料と基準物質を加熱冷却炉(ヒートシンク)内に置き、時間あたりに出入りする熱量を測定し、その差を求めます。一方、入力補償方式は、試料と基準物質それぞれに熱補償ヒーターが備えられています。そして両者の温度が同じになるように加熱され、このときに要した熱エネルギー(入力補償)の差より、試料に出入りした熱量が求める原理です。
現在主流なのは、熱流束方式です。熱流束方式は構造が簡単なのでコスパがよく、安定したデータが得られます。入力補償方式は精密な温度制御ができて感度が高いので、研究用に適しています。
示差走査熱量計(DSC)で測定できるものとデータ例
DSCでは次のような現象を測定できます。
- ガラス転移
- 融解
- 結晶化
- 反応熱量
- 熱履歴
- 比熱容量
- 酸化・分解
DSCにより得られるデータはDSC曲線と呼ばれ、下記図のようなものが一般的です。
画像引用:㈱島津製作所 DSCとは? PET(高分子)のDSC曲線
上記のDSC曲線は横軸に時間、縦軸に熱流束が記録され、上にピークが出れば発熱、下にピークが出れば吸熱を示しています。PETの場合、136.8℃の発熱は結晶化、254.0℃の吸熱は融解です。またベースラインがシフトした77.7℃はガラス転移温度になります。
DSCにより新規化合物の物性を把握できると、製造工程の条件最適化に役立ちます。また純度試験にも利用されており、製品の出荷や受け入れ試験にもDSCは用いられていますよ。
示差走査熱量計(DSC)のおすすめメーカー7選!人気機種と価格も
DSCを製造販売しているメーカーは国内外にいくつかあります。その中でもおすすめしたい7社は次のとおり。
- ㈱島津製作所
- ㈱日立ハイテク
- ㈱パーキンエルマー
- メトラー・トレド㈱
- ネッチ・ジャパン㈱
- TAインスツルメント
- ㈱リガク
各社のDSCの特徴と価格を紹介します。DSC選びや予算申請の参考にしてください。
㈱島津製作所
DSC-60 Plusシリーズ
㈱島津製作所のDSC-60 Plusシリーズは、高感度な測定と簡単な操作が魅力のDSCです。測定範囲の-140℃〜600℃の広範囲の温度で安定したベースライン、さらに熱量測定範囲±150mWで幅広いレンジがあります。テンプレート機能や解析範囲の設定機能を使えば、ルーチン測定が簡単で素早くできます。オートサンプラーを搭載したDSC-60A Plusは24個の自動測定ができるので、多サンプルの評価が必要な品質管理の現場などで便利です。
参考価格:315万円〜(DSC-60Plus)、484万円〜(DSC-60A Plus)
㈱日立ハイテク
示差走査熱量計(DSC) NEXTA® DSCシリーズ
出展:㈱日立ハイテク 示差走査熱量計(DSC) NEXTA® DSCシリーズ
㈱日立ハイテクのNEXTA® DSCシリーズは、DSC600とDSC200の2機種あります。どちらも熱流束方式のDSCで、温度範囲は-150℃〜725℃です。DSC200のほうが熱量測定範囲±200mWと広く、DSC600は±200mWです。200万画素のReal View® DSC機能により、温度変化を高画質で視覚的に観察できます。
参考価格:670万円〜(DSC600)
㈱パーキンエルマー
DSC 9
㈱パーキンエルマーのDSC9は、-180 °C〜750 °Cの温度範囲で測定できます。またダイナミックレンジは±175mWです。大画面のタッチスクリーンはカラー表示で、感覚的に操作できます。耐久性が高いので、長期間の使用も問題ありません。
参考価格:お問い合わせください
メトラー・トレド㈱
メトラー・トレド㈱からは4種類のDSCが販売されています。
機種名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 温度範囲 | 測定できる項目 | 特徴 | 参考価格 |
Thermal Analysis System DSC 5+ | -150 °C〜700 °C | ガラス転移 キネティクス 比熱(Cp) 温度変調DSC 結晶化 酸化誘導時間(OIT) | 熱流束方式か入力補償方式を選べる、最大96個のサンプル測定 | お問い合わせください |
熱分析システム DSC 3 | -150 °C〜700 °C | ガラス転移 比熱(Cp) 結晶化 キネティクス 酸化誘導時間(OIT) 温度変調DSC | 素早く測定開始、簡単操作でキャリブレーション、ルーチン作業向き | お問い合わせください |
Flash DSC 2+ 本体 | -95 °C〜1000 °C | ガラス転移 比熱(Cp) 結晶化 | 高速冷却昇温測定、無酸素雰囲気での測定 | お問い合わせください |
高圧DSC 2+ 本体 | 22 °C〜700 °C | ガラス転移 比熱(Cp) 結晶化 キネティクス 酸化誘導時間(OIT) 温度変調DSC | 圧力により分析時間短縮、高圧条件のプロセスを再現し実際の状況をシミュレーション | お問い合わせください |
ネッチ・ジャパン㈱
ネッチ・ジャパン㈱は熱分析に特化したメーカーです。DSCは特徴の異なる4種類があります。
機種名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 温度範囲 | 特徴 | 参考価格 |
DSC 300 Caliris Classic | -170℃〜600℃ | 測定から評価まで自動化、堅牢で使いやすい、最大20サンプル連続測定できるオートサンプラー付、品質管理向き | 600万円〜 |
DSC 300 Caliris Supreme & Select | -180℃〜750℃ | 1台で3つの装置構成に変更可能(高精度・ポリマー・スタンダード)、オプションで最大192個試料のオートサンプラー | 800万円〜 |
DSC 3500 Sirius | -170℃〜600℃ | 間接冷却方式で低温でもベースラインが安定、安全性が高く、コスパも良好 | 450万円〜 |
DSC 214 Polyma | -170℃〜600℃ | 500℃/minの高速昇降温、プロセス評価に最適 | 600万円〜 |
TAインスツルメント
TAインスツルメントからは、3シリーズ6機種のDSCが販売されています。DSC市場で世界的シェアを持っており、用途に応じた機種が揃っています。
機種名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 温度範囲 | 特徴 | 参考価格 |
Discovery X3 DSC | -180℃〜550℃ | ティー・エイ・インスツルメント最新のDSC、最大3つの異なるサンプルを同時に測定 | お問い合わせください |
Discovery DSC 25P | -130℃〜550℃ (冷却アクセサリ使用時) | 高圧や真空条件でも測定可能、圧力条件は1Pa~7MPa | お問い合わせください |
Discovery DSCシリーズ | -180℃〜725℃ | DSC25・DSC250・DSC2500の3機種展開、特許を取得した技術によりベースラインがより安定に、54試料分のオートサンプラー | お問い合わせください |
㈱リガク
㈱リガクでは6種類のDSCが製造販売されています。中でも高温DSCは、1500℃の業界最高水準の高温です。
機種名 (製品名をクリックするとカタログにリンクします) | 温度範囲 | 特徴 | 参考価格 |
DSCvesta2 | -180℃〜725℃(液体窒素ダイレクト冷却使用時) | 業界初の自己診断機能付、オートサンプラーは52試料1000連続測定、 | お問い合わせください |
DSCvesta | -170℃〜725℃(窒素サイフォン冷却使用時) | 従来機に比べて測定レンジ±400mWに拡大、ヒューマンエラー防止機能付 | お問い合わせください |
試料観察DSCvesta2 | -70℃〜725℃(液体窒素自動供給冷却使用時) | 最高温度725℃まで試料観察可能、機能充実の観察ソフトウエア | お問い合わせください |
試料観察DSCvesta | -70℃〜350℃(液体窒素自動供給冷却使用時) | 温度変化を視覚的に観察できるマイクロスコープ搭載、リアルタイム観察と撮影 | 550万円〜 |
DSC8231 | -150℃〜750℃ | 低ノイズ化で微小なピークを検知、オプションでオートサンプラー追加可能 | お問い合わせください |
DSC8271 | 室温〜1500℃ | 1500℃の高温対応、ガラスやセラミックの測定に | お問い合わせください |
示差走査熱量計(DSC)操作で注意したいこと
DSCは基準試料とのわずかな温度差や熱量差を検知します。そのため測定に際して準備は慎重に進めなければなりません。操作で注意したいことは以下の4つです。
- 安定した実験台に設置する
- 測定の数時間前にスイッチを入れてウォームアップ
- 試料室に汚れがないかチェック
- 試料と容器の隙間をなくす
機器が斜めに設置されていたり、測定中に動いてしまったりすると正確な結果が得られません。温度を安定させるために、早めに電源を入れておきましょう。試料室に水などが付着している場合は、昇温とともに蒸気による吸熱が検出されるのでキムワイプで拭き取るか、測定前に100℃以上に上げてみてください。
試料が個体の場合、測定用容器と試料が点での接触になることがあります。このような場合、熱伝導が悪くなり適切に評価できません。試料と容器が面で接触するように入れたり、隙間にグリスなどを塗ったりして圧着する方法があります。
示差走査熱量計(DSC)以外の熱分析装置
DSCは熱分析と呼ばれる手法の一つですが、熱分析には他の方法もあります。
- 示差熱分析(DTA)
- 熱重量分析(TG)
- 熱機械分析(TMA)
- 動的粘弾性分析(DMA)
熱重量分析(TG)は物質の基礎情報がわかるので、DSCに並んでよく使われている手法の一つです。示差熱分析(DTA)は単独で測定することは少なく、TGとセットの機器でTG-DTAとして測定します。各装置の詳しい内容はこちらの記事でも紹介していますので、参考にしてみてください。
まとめ
示差走査熱量計(DSC)のおすすめメーカーは次の7社です。
- ㈱島津製作所
- ㈱日立ハイテク
- ㈱パーキンエルマー
- メトラー・トレド㈱
- ネッチ・ジャパン㈱
- TAインスツルメント
- ㈱リガク
DSCは300万円〜800万円程度の価格帯です。機能が充実した機種もあり、オートサンプラーや試料観察ができるモデルもあります。また各社ベースラインの安定化に力をいれており、高精度な装置が出てきています。
DSC選びに悩んだら、今回紹介した7社から探してみてください。また分析計測ジャーナルでは、DSC選びに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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