高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定を開始しようと思ったら、圧力がいつもと違っておかしいというトラブルによく遭遇します。
HPLCの圧力がいつもと違うということは、機器のどこかで異常が発生しているということです。
圧力に異常があるままで測定は開始できません。
この記事では、HPLCの圧力でよくある異常を3つ挙げて、原因と解決策をご紹介します。
- 圧力が高い
- 圧力が低い
- 圧力が不安定
HPLCの圧力異常に悩んでいるなら、原因を突き止めて正しい対処をしましょう。
トラブル1:圧力が高い
HPLCの圧力異常のトラブルで一番多いのが、圧力が高くなることです。
圧力が高いまま分析を続けると、次のような故障に繋がります。
- カラム充填剤にかたよりが出たり、潰れたりしてカラムが使えなくなる
- 検出器のセルが割れる
- プランジャーシールなどの消耗品が破損する
圧力が高い状態は機器やカラムに負担をかけ、最悪の場合使えなくなることもあります。
高い圧力になったら測定を止めて原因を究明し、通常の圧力になるよう直しましょう。
詳しい原因と解決策をご紹介します。
原因
HPLCの圧力が高くなるのは、流路のどこかが詰まっているからです。
流路が詰まる原因は次の3つです。
- 塩の析出
- ゴミ詰まり
- 移動相の汚染
よくある原因が、移動相の緩衝液中に含まれる塩(えん)の析出です。
塩を使用した移動相に高濃度の有機溶媒が混ざると、塩が析出し詰まることがあります。
塩の入っていない移動相を使う測定であっても、前の測定で塩を使用しており使用後機器の洗浄が不十分であれば、塩が析出する危険性もあるので注意してください。
リン酸緩衝液を使った測定は、塩が析出する可能性が高いです。
有機溶媒の濃度には十分注意してくださいね。
移動相やサンプルに微細なゴミが混入している場合も、機器内で詰まることもあります。
そのため移動相とサンプルは、調製する際にフィルターでろ過することがおすすめです。
移動相の1つに水100%のものを長期間使っていると、水が腐りバクテリアが発生して詰まりの原因になることもあります。
移動相の瓶をよく観察して、ふわふわとした浮遊物がないか確かめてみましょう。
解決策
HPLCの圧力が高いトラブルにおいて、圧力を下げるには2つのステップがあります。
はじめに詰まっている場所を特定し、次に詰まりを解消しなければなりません。
それぞれ詳しく方法を解説します。
ステップ1:詰まっている場所を特定
まず機器のどこで詰まりが生じているか探します。
下流から順に配管を取り外し、圧力の変化を確認してください。
具体的な方法を以下に示します。
- 流速をできるだけ下げて送液を開始
- E→D→C→B→Aの順に配管を外し都度圧力をチェック
- 配管を外して圧力が下がる箇所の手前が詰まっている場所
- 移動相に濁りがないか確認しサクションフィルターを外す
ステップ2:詰まりの解消方法
詰まっている箇所が特定できたら、詰まりを取り除きます。
各箇所の詰まり解消方法は次の表のとおりです。
詰まりが 生じている箇所 | 詰まり解消方法 | 注意点 |
配管 | ・水100%の移動相で流速を抑えて洗浄 ・配管を逆につないで洗浄 ・洗浄で詰まりが解消されない場合は取り換え | カラムと検出器は流路から外して洗浄開始 |
検出器 | ・水100%の移動相で流速を最低速にして洗浄 ・1晩ほどかけてゆっくり洗浄 ・解消しない場合は業者に修理依頼 | カラムを流路から外して洗浄開始 |
カラム | ・水/アセトニトリル=90/10の移動相で流速を抑えて洗浄 ・解消しない場合はカラム交換 | カラム出口は機器に接続しない 水100%はNGのカラムがあるので注意 |
インジェクター | ・インジェクター洗浄モードで洗浄 ・可能であれば分解洗浄 ・解消しない場合は業者に修理依頼 | 分解するとバリデーションが必要になることもあり |
ポンプ | ・可能であれば分解洗浄 ・解消しない場合は業者に修理依頼 | 分解するとバリデーションが必要になることもあり |
サクション フィルター | ・サクションフィルターを取り外して超音波などで洗浄 ・解消しない場合は交換 | ー |
トラブル2:圧力が低いままで上がらない
カラムをつないで送液を開始しても、圧力が低いままで上がらないことがあります。
HPLCの圧力が低い場合の原因と解決策を解説します。
原因
圧力が低いときは、送液されていません。
送液されない原因は次の3つです。
- 流路のどこかで液が漏れている
- 気泡が入って流路を止めている
- 移動相が枯れている
送液されているかどうかはドレンを確認し、液が出てきているか目視してください。
解決策
圧力が低い原因が特定されたら、解決するために次の方法を試してみてください。
✔液漏れが原因の場合
特にカラム接続部分は、液が漏れやすい場所です。
しばらく送液を続けてよく確認しましょう。
✔気泡が原因の場合
送液しているにもかかわらずドレンから液が出てこない場合は、強制的に移動相を引き込む方法(呼び水)が有効です。
呼び水をする道具は、シリンジの先にマイクロピペットのチップをつけて、テープで固定したものが使えます。
チップの先をドレン出口に接続し、シリンジを引くと移動相が流れてきますよ。
呼び水をする際はカラムを外しておいてください。
1回引くだけでは流れないことがあります。
何度かシリンジを引いて、液が流れてくることを確かめてください。
✔移動相が枯れている場合
新しい移動相を調製し、通液を開始してください。
移動相がない状態でポンプを動かしていた場合、機器やカラム内に空気が入っている可能性があります。
空気が混入している場合、通液しないこともあるので呼び水を試してみましょう。
トラブル3:圧力が不安定で変動が大きい
圧力が不安定な状態は、機器が安定していないので測定を開始できません。
原因を突き止めて、圧力が一定になるように対処してください。
圧力変動が大きい場合の原因と解決策を解説します。
原因
ポンプ部分に気泡が混入しています。
ドレンを確認すると、送液が一定ではないことが確認できます。
移動相を十分脱気していないときに起こる可能性が高いです。
解決策
✔ドレンから呼び水をする
✔移動相調製の際にアスピレーターや超音波を使って脱気する
HPLCのポンプ圧力は常にモニタリングを!
HPLCの圧力は機器の異常を示すサインです。
そのため日常的に圧力をチェックする習慣をつけるのがおすすめです。
測定の際にクロマトだけでなく、圧力もモニタリングしていると測定途中の異常にも気づけます。
測定中に圧力もモニタリングしていると、圧力異常が起きる以前の測定結果は採用することも可能なので、再測定の手間を省けます。
カラムを接続していない時の圧力、測定中の圧力を把握しておくと、機器の異常やカラムの劣化にすぐ気づけるので迅速に対処できますよ。
直せない圧力異常は業者に修理依頼!保守契約がおすすめ
HPLCの圧力が高い状態で測定を続けていると、故障につながることがあります。
またポンプやインジェクター周辺の詰まりは、自力で直せないこともあります。
そんなときは、専門業者に修理依頼するのがおすすめです。
専門業者に修理を依頼すれば、修理後の簡単なバリデーションなども実施してくれるので、修理後も安心して使えますよ。
しかし急な故障に対応する場合、高額な費用が発生することがあります。
そのため機器の保守契約を結んでいると、契約の内容によっては無料で対応することも可能です。
HPLCをいつもいい状態で使いたいなら、保守契約がおすすめです。
参考:アフターサービス
まとめ
HPLCの圧力異常でよくある3つのパターンを挙げて、原因と解決策をご紹介しました。
- 圧力が高い
- 圧力が低い
- 圧力が不安定
圧力が高い場合、流路のどこかで詰まりが発生しています。
詰まっている箇所を見つけて解消してください。
圧力が低い場合や不安定なときは、送液が一定でないことが多いです。
気泡が流路を塞いでいる場合はドレンから呼び水をすると、解消しますよ。
HPLCの圧力は測定の異常をいち早く察知するために、日ごろからチェックするのがおすすめです。
自力で直せない圧力異常や故障は、専門業者に依頼しましょう。
保守契約を結んでいると、急なトラブルでも高額な費用が発生しないので安心です。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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