電子天秤は実験室において、使う頻度が高い機器です。使い方は簡単で、誰でもなんとなく使えてしまいます。しかし正しい使い方を知らないと、正確な秤量はできません。また電子天秤に表示される値は秤量時に動きやすく、安定しないというトラブルもよくありますよね。
そこでこの記事では、電子天秤の正しい使い方と安定しないときの対処法をお伝えします。さらに電子天秤は使用頻度が高く、購入の機会も多いと思います。そのためおすすめの電子天秤メーカーも4社お伝えします。
分析計測ジャーナルでは、電子天秤に関するご質問を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
電子天秤とは?原理も解説!
電子天秤とは物質の重さを測定する機器で、秤量値がデジタル表示されます。電子天秤は測定したい物質を乗せるだけで簡単に秤量できるので、実験初心者でもすぐに使えます。物質の秤量は実験において頻繁におこなわれるので、電子天秤は実験室で欠かせない存在です。
一般的な電子天秤の原理は、「電磁式」と「ロードセル式」の2つです。
それぞれの原理と特徴を詳しく紹介します。
電磁式の原理と特徴
電磁式は電磁力平衡式とも呼ばれるタイプです。天秤の片方に試料を乗せ、もう片方に分銅の代わりに電磁力(電気の力)を加えて釣り合わせます。そのときの電流の大きさを重さとして算出し、質量として表示するのです。
電磁式の電子天秤は小型化が難しく、機器の設置場所にスペースが必要になるのがデメリットです。電磁式は精度がとても高いので、精密さを求める実験に向いています。mgオーダーやμgオーダーでの正確な秤量が求められる分析化学実験では、電磁式がおすすめです。
ロードセル式の原理と特徴
ロードセル式の原理は、試料を天秤に乗せた際に生じる電気抵抗を検出し質量を算出します。簡単な構造のため小型化が可能です。さらに重量のある物質の秤量にも使えます。しかし精度は電磁式に比べて劣ります。
電子天秤に種類がある?名前の違いについて
- セミミクロ天秤:最小表示が10μg~100μgの電子天秤
- ミクロ天秤:最小表示が1μgの電子天秤
- ウルトラミクロ天秤:0.1μgの電子天秤
- 高精度天秤:ミクロ天秤・ウルトラミクロ天秤に静電気除去などの機能を備えた電子天秤
- 精密電子天秤:電磁式の原理を採用した電子天秤
電子天秤の正しい使い方|4つのポイント
電子天秤を正しく使い、正確な秤量値を得るためのポイントを4つご紹介します。この4つのポイントを押さえるだけで、秤量ミスが減り実験失敗を防げますよ。
秤量するものに応じた天秤を選ぶ
電子天秤は、測定範囲に応じて選ぶ機種が異なります。秤量したい物質に適した天秤を見つけるポイントは次の2つです。
- ひょう量(精度が保障される最大値)の範囲内であるか
- 最小表示(表示される最小の秤量値)は十分か
最小表示とは、デジタル表示される最小の値という意味です。正確に秤量できる最小量、という意味ではないので、気をつけてくださいね。
製薬業界で使用される電子天秤は、USP(米国薬局方)において測定できる最小量(最小計量値)が定められているものがあります。製薬関係の実験や、より高い精度が求められる場合は、最小計量値も要チェックです。
精度よく量るには校正と日常点検
電子天秤で精度よく物質を量るには、機器の校正が欠かせません。校正には研究者が日常的にできるものと、業者によるものがあります。定期的に専門業者による校正を実施しておくと、秤量値のズレが生じないので安心して使えますよ。
日常点検は使用前に電子天秤に異常がないか把握できるので重要です。日常点検の項目は以下の4つです。
- 天秤の皿が汚れていたり歪んでいたりしないか
- 天秤は水平か
- 表示は安定しているか
- 外部分銅による秤量値は問題ないか
風袋引きを忘れずに
風袋とは、薬包紙や容器など秤量したい物質を乗せるものを指します。天秤に風袋を乗せ秤量値を0にしなければ、物質の秤量値に風袋の秤量値が合算されてしまいます。
私は何度か風袋引きを忘れて、HPLCの定量値に異常を出してしまった苦い経験があります。早く秤量を済ませたいとの焦りの気持ちなどから、風袋引きを忘れることは多いので気をつけてくださいね。
表示量が変動しなくなるまで待つ
電子天秤は物質を計量皿に乗せてから、表示量が動くことがあります。そのため正確な値を得るには、表示量が変動しなくなるまで待ちましょう。表示量の変動が止まらない場合は、電子天秤が安定していない可能性があります。
吸湿性のある物質は大気中の水分を吸収し、秤量値が上がっていくこともあります。この場合は待ち続けても秤量値は安定しないので、物質の特性を把握してから秤量してくださいね。
電子天秤が安定しない?3つの注意点
表示量の変動が止まらず、天秤が安定しない原因はいくつかあります。今回は実験室でよくある電子天秤が安定しない原因を3つお伝えします。
①風の影響をチェック
電子天秤は感度が高いので、風の流れによって安定しないことがあります。風の影響を受けやすい場所は以下のような箇所です。
- 部屋の出入口付近
- 通路
- エアコンの風が当たるところ
対策としては、風の影響を受けない場所に電子天秤を移動させたり、エアコンの吹き出し口の方向を変えたりしてみてください。
②静電気によるばらつき
人間には見えない静電気が秤量には大きく影響します。静電気は空気に逃げる場合は秤量値がマイナスに、計量皿に逃げる場合はプラスになります。静電気の影響を押さえるためには、湿度を上げたり除電器を設置したりするのが有効です。
③振動には要注意
振動がある場所では電子天秤が安定しません。天秤の設置場所は振動の少ない1階の部屋や、壁沿いなどがおすすめです。除震台に電子天秤を設置すれば、周囲の環境に影響されずに使用できます。
地震の直後は電子天秤がしばらく安定しないこともあります。体で感じるほどの揺れがあった地震では、除震台に設置した電子天秤であっても変動しています。地震直後に電子天秤を使用する際は、日常点検を実施してから問題ないことを確認しましょう。
電子天秤のおすすめメーカー紹介
電子天秤は同じ実験室内で、ひょう量と最小表示違いで複数台保有したいことがありますよね。実験の必須アイテムである電子天秤は、購入機会も多いと思います。
そこでおすすめの電子天秤メーカーを4社、ご紹介します。どの会社も販売台数の多い一流メーカーなので、電子天秤選びに迷ったらこの4社から選んでみてください。
METTLER TOLEDO(メトラー・トレド㈱)
メトラー・トレドはスイスに本社のある、計量機器メーカーです。世界100カ国以上で、メトラー・トレド製品は愛用されています。
電子天秤は最小計量値0.3mgまで測定できるウルトラミクロ天秤や、有毒な試料の秤量に便利な自動秤量天秤などがあります。専門的で高機能な電子天秤を探しているなら、メトラー・トレドはいかがでしょうか。
㈱エー・アンド・デイ(A&D)
エー・アンド・デイの電子天秤は、数mgの秤量に使えるマイクロ天秤から220kgまで量れるデジタル台はかりまで、幅広い重さに対応する電子天秤が揃っています。製造ラインに組み込める計量センサーや学校で使いやすいデジタルはかりもあり、あらゆる用途の電子天秤が手に入ります。実験用だけでなく、さまざまな用途で使える電子天秤はエー・アンド・デイ。
参考:エー・アンド・デイ 計量
㈱島津製作所
島津製作所は分析機器メーカーです。1918年から天秤の生産を始め、日本の天秤の歴史を作り上げてきた会社です。島津製作所の電子天秤は、分析化学実験で使用しやすい機種が豊富にあります。一般的に大型になりやすい電磁式の天秤ですが、島津製作所製のものはコンパクトで狭い実験台にも置きやすい大きさです。
参考:島津製作所 電子天びん
ザルトリウス・ジャパン㈱
ザルトリウスはドイツに本社を置く会社で、電子天秤の世界的有名メーカーです。私もザルトリウスの天秤を愛用していた経験があり、使いやすくおすすめのメーカー。ザルトリウスの電子天秤は、電子表示画面が大きくて見やすいです。また白と黒のスタイリッシュなデザインは、雑然としやすい実験台をスマートに見せてくれます。
電子天秤の相方「分銅」について紹介
電子天秤を購入するなら、分銅も一緒に準備しておかなければなりません。分銅は電子天秤の日常点検で使用し、機器に異常がないか判断するための重要なアイテムです。
分銅にはグレードがありますが校正用に認定を受けた分銅が必要なら、「JCSS分銅」がおすすめです。JCSS分銅とは、校正認定業者で厳しい規格を通過した分銅のこと。ISOやGLPなどに準拠した実験室では、JCSS分銅の使用が必須です。ISOやGLP実験室でなくても、より精度の高い状態で天秤を使用したいなら、JCSS分銅はいかがでしょうか。
まとめ
電子天秤を使うときのポイントは、以下の4点です。
- 秤量するものに応じた天秤を選ぶ
- 精度よく量るには校正と日常点検
- 風袋引きを忘れずに
- 表示量が変動しなくなるまで待つ
電子天秤が安定せず困ったときは、次の3つを確認してみてください。
- 風の影響
- 静電気
- 振動
何気なく使っている電子天秤ですが、ポイントを押さえると精度よく秤量ができますよ。
分析計測ジャーナルでは、電子天秤のトラブルや購入時のご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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