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解決事例 インタビュー

「時間のロス」を削減する 大学研究室の超効率的秘策

2021.03.24 (Wed)

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記事を書いた人 :

bunseki-keisoku

現状の問題

  • 新入室学生による装置操作ミスを防ぐ
  • 不慣れな学生が緊張で事故を起こさないか不安
  • 学生は3年で卒業するため、装置使用方法の引き継ぎができにくい
  • 新しい学生へ装置の使用方法の説明に時間がかかり、研究時間のロスになっている
  • 予算取りのタイミングで資料収集が滞る
  • 装置のアフターフォローに経費と手間がかかりすぎる
  • 連日研究に忙しく装置や機器の最新ニュースについていけない
  • 研究所の課題はかなり難しく業者に要望が理解してもらえない
  • 高額な装置は新規入れ替えが難しい

解決策

  • 外部に相談相手をつくる
  • 業者とうまく付き合う
  • 学生に責任感をもってもらう
  • 最新の業界情報を入手する
  • わかりやすく伝える努力をする
  • 研究室の雰囲気を和やかにする
  • 研究室の年間スケジュールを伝える

展望

  • 社会の即戦力となる学生を育てる
  • 無駄な雑務管理を減らし、研究に集中できる環境づくり

「時間のロス」というストレスなく、研究に没頭できる理想の研究室はどのように作ればいいのでしょうか?

多くの大学の研究室では、その課題に取り組んでいます。

しかし、毎年顔ぶれが変わる学生が作業を支える多くの研究室では、引き継ぐことや伝達することのむずかしさ、コミュニケーションの方法や費やす時間に頭を悩ませているのが現実です。

今回、その課題をクリアし、日本トップの研究を続けている、立命館大学生命科学部応用化学科生物有機化学研究室の現場リーダーである木下雄介助教(以下、木下)にその秘訣についてお話を聞きました。

学生一人ひとりに責任感を持って研究に取り組んでもらう

―――まずは研究室の概要について教えて下さい

木下:立命館大学生物有機化学研究室では、植物の光合成についての研究をしています。民秋均教授はこの分野では世界トップ。天然光合成の主役であるクロロフィル分子に注目し、人工的に光合成を作ることを目指しています。人工光合成によるエネルギー問題の解決が大きな目標です。学生を含め、あらゆる装置を使用した測定などの実験的手法が必要です。

―――研究に必要な装置の使用は初めての学生には難しいと思いますが、指導はどのようにされているのでしょうか?

木下:民秋均教授の方針で民秋研究室では装置ごとに担当の学生を設け、責任感をもって管理してもらっています。装置担当の学生が後輩学生に使用方法などを伝え、それが継承されていきます。

トラブルの一つひとつが学生にとっては学びのチャンス

―――なぜ、学生に任せるのでしょうか?

木下:装置トラブルが起こると、民秋均教授は学生から直接業者さんに連絡をするように指導されます。学生は自分で装置の担当業者さんと電話や面談をして、トラブル内容を説明します。そのためには「どこが、どのようになっている」など装置を詳しく把握する必要があり、学びに繋がります。学生と業者さんが直接連絡を繰り返すことでお互いの顔や名前を覚えますし、各々の信頼関係が生まれます。学生ひとり一人が業者さんと信頼関係を結ぶことができれば、研究室としてはもっと大きな信頼関係を業者さんと築けます。

―――業者さんとの信頼関係は研究に必要なのでしょうか?

木下:先程、学生間で装置の使用方法を継承するといいましたが、そのことについても業者さんに協力してもらっています。業者さんの中には15年以上も同じ方が担当される場合があります。新しく入った学生がつまずく箇所は同じ、といったトラブルのローテーションがベテランの担当さんには見えてくるわけです。せっかく覚えた学生は3年で卒業。そうなるとトラブルの対処は、その方が研究室でいちばん詳しいといった状況になる。トラブルが起こった場合、学生からの連絡ですぐに業者さんに対処してもらえると、教授や研究室は時間のロスがなく研究に集中できるというわけです。

―――「時間のロス」とは、どのようなことですか?

木下:例えば、教授の発表や学生の卒業研究の前に故障や消耗品の欠品で装置が止まってしまうと困ります。装置の数値管理や消耗品管理は大切な業務のひとつです。しかし、研究者としては研究に没頭するあまり、他の業務を忘れてしまいがちなので、ここの研究室では業者さんに代わりに管理してもらっています。ベーシックな装置の使い方を学生に教える、装置の雑務管理が、業者さんのサポートのおかけでスムーズに運ぶ。これは研究者にとってはストレスレスに繋がる重要なこと。民秋均教授が「業者さんへの感謝は忘れずに」といつも言われている理由はそこにあります。

学生が怪我や事故を起こさないように、多方向コミュニケーションを重視

―――他にも、研究室がストレスなく研究に打ち込むために実行されていることはありますか?

木下:学生同士の会話に入っていきます。流行りの音楽やタレントの話などをして、学生の心理状態を確認しています。学生たちが緊張すると事故や怪我に繋がります。緊張するとうまくいくことも、うまくいかなくなる。考える時に脳が緊張しているといいアイデアもでない、研究の失敗やうまくいかない原因を自分で見つけることができないといった学びにも影響がでます。

―――緊張をほぐすために大切なことは何でしょうか?

木下:活発なコミュニケーションでしょうか。この研究室は学生が責任をもっていずれかの装置を担当します。使用方法を教えたり教えられたり、トラブルを一緒に乗り越えたり。誰かと話さないと前に進めない。同様に、外部の業者さんにも学生をサポートしてもらいます。この研究室では業者さんと学生が直接コミュニケーションをとるので、島津製作所の装置講習会などその学生が必要としている情報は直接伝わります。必要性を感じ自発的に講習会に参加した学生は、強制的に言われて参加した学生より装置扱いのレベルがアップ、装置トラブルの減少に繋がります。

外部を巻き込んだ関係が研究室にとって最も重要

―――良好な関係を築ける業者さんの見分け方を教えて下さい。

木下:学生が安心して相談できるように、業者さんと教授・先生たちは信頼関係を構築しています。研究で改善点、要望などがあればすぐに業者さんに連絡・相談をします。難しい研究の内容は話しませんが、希望する作業内容を簡潔に伝えます。すると勘のいい業者さんは、他の研究室の導入事例や経験といった引き出しから提案をしてくれます。それがすぐにOKではなくてもディスカッションを続ければ方向性が決まります。「1」を伝えて「10」をわかってくれることは求めません。きちんとこちらの話を聞いて、方向性を見定め、希望にいちばん近い装置や方法を一緒に探してくれる業者さんがいいのではないでしょうか。基本装置を使用目的に合わせてカスタムしたり、長年願っていた新商品の発売を覚えていていち早く教えてくれたり。そうやって見つけた装置は業者さんにも愛着が生まれる。それで常に装置の稼働状況を気にかけてくれたり、アフターケアをしてくれたりと良好な関係が生まれているように思います。

―――業者さんが縁の下の力持ちになってくれるのですね。

木下:民秋均教授はいつも「研究室の外に相談相手をつくれ」とおっしゃっています。そのこともあり、私も研究室の外に研究のことを相談できる関係性をつくってきました。私は学生時代からこの研究室に在籍しているので、業者さんの中には、その頃からのお付き合いの方もいらっしゃいます。いまでは趣味や人生の相談もする、頼りになる存在です。

―――今後の研究室の課題を教えて下さい。

木下:研究室にとって業者さんとの関係が重要なのですが、中には相談や点検だけでも高額な費用がかかるメーカーさんもあります。その場合、学生が気軽に連絡することができません。しかし、教授陣が学生の代わりにしてしまうと学生の自主性を尊重できないし、作業の手が止まってしまいます。そんな時は研究室の学生にもっとも近い距離の代理店さんにクッションになって交渉してもらうように学生から依頼させます。代理店さんが学生たちの問題点を分析、具体的な問題に集約してくれることで、メーカーさんとの相談時間と支払う代金が節約できるのです。現在の体制で学生は研究の他に、コミュニケーション能力や責任感などを体得して卒業することができると思います。あとは、交渉能力を学ぶ環境をつくることができればパーフェクト。研究だけでなく、社会に出て即戦力となる学生を育てることが目標です。


お話をお伺いしたのは・・・

立命館大学 生命科学部応用化学科 生物有機化学研究室

研究室人数:25名

助教 木下雄介氏

2010年立命館大学理工学部化学生物工学科卒業 2014年立命館大学大学院博士課程修了

平成25年度日本化学会学術賞、2016年光化学討論会特別講演賞を受賞した光合成研究で世界トップの民秋均教授の研究室で学生、研究員を経て研究を続けている。現在は助教。

研究室では教授、学生、代理店や業者などの関係性をうまくまとめるムードメーカー的存在。

(※注:取材当時。現:北海道大学 特任助教)

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