錠剤やカプセル剤などの評価には、溶出試験機が用いられます。しかし初めて溶出試験機を購入するときは、どのメーカーの機器がいいのか見当がつきません。また買い替えにおいても、これまでと同じメーカーでいいのか再考することもあると思います。
そこでこの記事では、溶出試験機のおすすめメーカーを紹介し、各社の人気機種と機能を詳しく解説します。溶出試験機は日々進化しており、便利な機能が備わった機種もありますよ。
分析計測ジャーナルでは、溶出試験機の相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
溶出試験機とは?
溶出試験機は、錠剤などが体内で溶解する様子を評価する機器です。溶出試験機の基本原理と活用されている分野について、詳しく解説します。実際の機器を見たことがなくてもイメージしやすいよう、図解もあるので参考にしてください。
溶出試験機の基本原理
溶出試験機とは、錠剤やカプセル剤などが人の体に取り込まれると、どのように溶解していくのかを評価する装置です。溶出試験では、薬物の溶解速度がわかります。一般的に溶出試験機は、以下のような構造です。
試験はベッセル内に試験液(胃や腸内などを模したpHに調整されているもの)を入れ、水浴にて体温に近い約37℃に保ちます。パドルを回転させ、試験液を攪拌しているところに、錠剤などの検体を投下。一定時間ごとにサンプリングし、UVやHPLCにて含量を測定します。各サンプリングポイントの時間と含量をグラフにし、溶出の挙動を評価するのが溶出試験です。
溶出試験の種類は3つ
溶出試験は3つの方法があります。各方法の特徴を表にまとめました。また各方法を模した図解を、上記図に示します。試験方法の選び方は、製剤の特性に合わせて選びます。
方法 | 向いている製剤 | 特徴 |
回転バスケット法 | 浮遊しやすいもの、崩壊しやすいもの | バスケット内に製剤を固定し、バスケットを回転させる |
パドル法 | 沈降性のあるもの、溶解速度が早いもの | ベッセルに製剤を直接投入し、パドルでかき混ぜる |
フロースルーセル法 | 持続放出製剤や難溶性薬物を含むもの | セルに一定速度で試験液を送液し、溶出させる |
回転バスケット法とパドル法は、同じ溶出試験機で評価できます。フロースルーセル法については、専用の溶出試験機が必要です。
溶出試験機が使われる分野
溶出試験機は、製薬業界・食品業界・化粧品業界で活躍しています。
- 製薬業界:薬の溶解速度測定
- 食品業界:ビタミン剤などのサプリメントの溶解速度測定
- 化粧品業界:美容成分の皮膚への吸収速度測定
溶出試験機は私たちの体内に入る物質を評価するために、研究や品質管理において欠かせません。
溶出試験機おすすめメーカー6選!人気機種と特徴を紹介
溶出試験器は国内外のさまざまなメーカーから販売されています。今回は人気のあるメーカー6社と、人気機種を紹介します。メーカーと機種選びの参考にしてください。
富山産業㈱
富山産業㈱の溶出試験機は、医薬品業界において人気が高いです。安定した温度制御と正確な攪拌速度の調整に強みがあります。富山産業は、溶出試験機の製造販売歴が約50年もある老舗。現在販売されている溶出試験機は2機種です。
恒温水槽式溶出試験器 NTR-6600&8600 series
出典:富山産業(株)恒温水槽式溶出試験器 NTR-6600&8600 series
NTR-6600&8600シリーズは、各国医薬品の局方JP・USP・EPに適合した試験ができる機種です。この1台でパドル法・バスケット法・パドルオーバーディスク法・シリンダー法の溶出試験ができます。さまざまな手法で使用できるので、錠剤の研究開発に最適ですよ。ベッセルが横一列に並んでいるので、目視での観察もしやすくなっています。6チャンネルのNRT-6600シリーズと、8チャンネルのNRT-8600シリーズの2展開です。UVやLCに接続できるモデルもあり、測定結果まで全て自動で得られます。
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恒温ジャケット(バスレス)式溶出試験器 NTR-6300/8300 series
出典:富山産業(株)恒温ジャケット(バスレス)式溶出試験器 NTR-6300/8300 series
溶出試験器 NTR-6300/8300シリーズは、水浴がないタイプの溶出試験機です。ベッセルの加熱は恒温ジャケットで行います。水浴よりも素早く加熱し、温度も安定した状態を保てるのが特徴。また定期的な水の入れ替えがなく、メンテナンスも簡単です。温度制御に敏感な試験をするなら、NTR-6300/8300シリーズはいかがでしょうか。
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Agilent Technologies (アジレント・テクノロジー)
アジレント・テクノロジーの溶出試験機は、世界中で多く利用されています。アジレント・テクノロジーでは、一般的な溶出試験機はもちろん、少量タイプや徐放性製剤に特化したタイプも展開しています。現在販売されている機種は3機種です。
708-DS
708-DSはラボのあらゆるニーズを満たした、使いやすい溶出試験機です。大画面のカラータッチスクリーンは、シンプルで直感的に操作性できるので、海外メーカーでも安心して使えます。手動・自動・オンラインで使用可能で、試験の幅が広がります。またオプションで、オートサンプラーやビデオ監視システムの導入も可能です。
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400-DS
400-DSは、少量の溶出試験専用機器です。ベッセルは5 mLと10mLで、サンプリング量は3mLと少量。水浴のないタイプで、試験液の蒸発もほぼないので、長期間の溶出試験に最適です。400-DSは初の公定法収載試験機で、他のメーカーでは販売されていません。
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BIO-DIS III 徐放性製剤試験ステーション
出典:アジレント・テクノロジーBIO-DIS III 徐放性製剤試験ステーション
BIO-DIS IIIは徐放性製剤専用の溶出試験機です。徐放性製剤とは、長期間に渡って有効成分が溶出する薬剤のこと。BIO-DIS IIIは最大6日間、無人運転できます。15個までの測定プログラムが使えるので、複数の製剤やpHにおいて同時試験が可能です。
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㈱大日本精機
㈱大日本精機は日本国内で信頼が厚く、溶出試験機は製薬会社や研究機関で採用されています。日本国内のシェアを広げており、アジア地域でも人気拡大中。自動溶出試験機や自動洗浄機能が付いた溶出試験機など、業務効率を上げる機種が展開されていますよ。
自動溶出試験装置RT-3シリーズ
自動溶出試験装置RT-3シリーズは試験液の注入→検体測定→サンプリング→ベッセルの洗浄までを全て自動で行ってくれる溶出試験機です。UVやLCに接続できるモデルもあり、測定結果まで全て自動で得られます。品質管理などで決まったメソッドがあり、毎日大量の検体を測定したいときにおすすめの機種です。
参考価格:480万円〜
卓上型全自動溶出試験システムRT-J3000+DS-3000シリーズ
出典:㈱大日本精機 卓上型全自動溶出試験システム RT-J3000+DS-3000
卓上型全自動溶出試験システムRT-J3000+DS-3000シリーズは、コンパクト設計された自動溶出試験機です。大きさは、横1800mm×奥750mm+試験液タンクで、実験台に収まります。最大4回の試験を自動で繰り返しできるので、終夜運転にも最適。UVとLCに接続しているタイプもありますよ。
参考価格:480万円〜
ベッセル自動洗浄溶出試験器RT-J2000
出典:㈱大日本精機 ベッセル自動洗浄溶出試験器 RT-J2000
ベッセルの洗浄だけ自動化したいなら、RT-J2000が最適です。自動洗浄は洗浄の手間が省けるだけでなく、洗浄時の作業者への薬剤暴露も防げます。実験台の上に設置できる大きさ(横1200×奥750mm)で、かさばりません。研究施設などで高薬理活性の検体を取り扱っているなら、おすすめの1台です。
参考価格:480万円〜
ERWEKA(エルヴェカ)
ERWEKA(エルヴェカ)はドイツの会社で、製薬業界向けの試験機器製造と開発を手掛けています。溶出試験機は世界中の製薬企業で導入されており、品質管理などで活躍中です。USP/EP/JPの各国局方に準拠した溶出試験機が揃っています。
DT lightシリーズ
出典:ジャパンマシナリー㈱ ERWEKA / エルヴェカ社(ドイツ) 溶出試験器 DTシリーズ
DT lightシリーズは、シンプルなエントリーモデルの溶出試験器です。スタンドアローンで、PCやUVなどの機器との接続はできません。またサンプリングや試料投入もマニュアル。初めて溶出試験器を使って検討してみたいなら、最適の機種です。
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DT950シリーズ
出典:ジャパンマシナリー㈱ ERWEKA / エルヴェカ社(ドイツ) デジタル溶出試験器 DT950シリーズ
DT950シリーズは、高機能な溶出試験機です。大画面のタッチパネルは操作しやすく、見やすいと評判があります。日本語は未対応ですが、直感的に操作しやすいです。DT950シリーズはUVやLCにも接続して、測定もできます。
参考価格:お問い合わせください
SOTAX (ソタックス)
SOTAX (ソタックス)は、溶出試験機市場で世界のリーダー的存在の企業。スイスに本社を構え、とくに自動化システムの分野で強みを持っています。多くの大手製薬会社で採用され、業界トップクラスのシェアを持つ会社です。
ATS Xtend™ シリーズ
ATS Xtend™ シリーズはベーシックなものから、自動サンプリングやLCなどの分析機器につながるものまで、幅広いラインナップがあります。また薬局方JP1,2(USP1,2,5,6)に準拠。さらにビデオモニタリング機能もあるので、製剤の溶解状態の観察に最適です。
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CE 7smart UV Online
CE 7smart UV Onlineは、フロースルーセル法で溶出試験ができる機器です。薬局方JP3(USP4)に準拠しており、容量も好みにアレンジできます。特殊ポンプは、安定的に送液できて自動構成機能もあります。
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日本分光㈱
出典:日本分光㈱ DT-810
日本分光からは、溶出試験器DT-810が販売されています。DT-810は外気温の影響を受けにくい円形の恒温槽で、ベッセル間の温度差が±0.1℃です。円形バスは一般的に奥のベッセルが取り出しにくいのですが、DT-810は恒温槽が180度回転するので、奥のベッセルを手前に移動させて作業できます。精度の高さと作業性の良さにこだわった機種です。
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溶出試験機の便利な機能
溶出試験機は日々進化しており、作業の効率化や正確性向上のための機能が多数あります。とくに注目すべき便利機能を、3つ紹介しましょう。
オートサンプリング
オートサンプリング機能は、溶出試験の効率化に大きく貢献します。従来の手動で行うサンプリングでは、正確な時間でのサンプリングが難しく、ヒューマンエラーのリスクがありました。ストップウォッチ片手に、複数のベッセルから数秒間隔でのサンプリングは、まるで瞬発力が求められるスポーツのようです。
オートサンプリング機能を備えた溶出試験機では、設定したタイミングに自動でサンプルを採取。フィルターろ過も可能です。これにより、時間の精度が向上し、より再現性の高い結果を得られます。また、長時間の試験でも、オペレーターの負担が大幅に軽減し、作業効率が飛躍的に向上しますよ。
自動洗浄機能
溶出試験後の機器の洗浄は、手間がかかる上に、確実な洗浄が行われないと次回の試験に影響を及ぼす可能性があります。また高活性薬剤の試験は、実験者への暴露も気になるところ。
自動洗浄機能を備えた溶出試験機は、試験終了後に装置内部を自動で洗浄し、次回の試験に向けた準備が簡単かつ迅速に行えます。自動洗浄は作業効率が向上するだけでなく、実験の安全性や装置のメンテナンス性も向上しますよ。とくに複数の試験を短期間で行う際に、この機能は非常に便利です。
測定装置一体型
最近は溶出試験と分析を一貫して行える「測定装置一体型」が増えています。溶出試験機にUVやLCが接続されており、分析が自動化できます。試験と分析を別々の装置で行う従来の方法と比べ、サンプルの取り違えなどの人的ミスを防ぎ、作業時間も短縮。試験業務全体の効率も大幅に改善し、精度も向上します。測定装置一体型は、ルーチンワークでメソッドが固定されているなら、とてもおすすめの機能です。
まとめ
溶出試験機は、錠剤などが溶解するときの挙動を確認できる機器です。溶出試験機は医薬品やサプリメントの研究や品質管理において欠かせません。おすすめメーカーは次の6つ。
- 富山産業㈱
- Agilent Technologies (アジレント・テクノロジー)
- ㈱大日本精機
- ERWEKA(エルヴェカ)
- SOTAX (ソタックス)
- 日本分光㈱
これらのメーカーは、国内はもちろん世界的にも人気があるので、溶出試験機選びに迷ったらこの中から選んでみてください。
分析計測ジャーナルでは、溶出試験機選びに関するご相談を受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
ライター名:バッハ
プロフィール:大手製薬会社において約8年間新薬の開発研究携わる。新薬の品質を評価するための試験法開発と規格設定を担当。さまざまな分析機器を使用し、試験法検討を行うだけでなく、工場での品質管理部門にも在籍し、製薬の品質管理も担当。幅広い分析機器の使用経験があり、数々の分析トラブルを経験。研究者が研究に専念でき、遭遇するお悩みを解決していけるよう様々な記事を執筆中。
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